第84話 王都到着



 三人は一時間ほど馬車に揺られ、ついに王都に辿り着く。


 テオは車両の窓から顔を出し、王都の大きい城壁を眺める。


「すごい……ネモフィラの城壁の倍以上は高い……!」

「テオ様、身を乗り出しすぎですよ。馬車が大きく揺れたら落ちてしまうかもしれません」

「あっ、そ、そうですね、すいません」

「大丈夫だぞ、テオ。私がいる限り、テオが怪我をすることはない」

「あ、ありがとうございます……!」

「まあ、ヘルヴィ様はとてもカッコいいですね」


 クスクスと笑いながら、軽くイネッサは冗談のように言ったが、


(はぁ、はぁ、さすがヘルヴィ様……! 私に言われていないのに、とても胸が高鳴る言葉ですわ……!)


 心の中ではそんなことを思っていた。



 そして門のところで手続きをし、王都に入る。

 その際、襲ってきた傭兵達を兵士達に連行してもらうことになった。


「人がいっぱいいますね……!」

「ああ、これは私も驚いた」

「王都だけで、おそらく人口は五十万人を超えております」


 街中を馬車で移動しながら、外を見て喋る。


 ヘルヴィもここまで人が集まっているところに来るのは、初めてかもしれない。

 それほど、王都は賑やかで栄えていた。


 しかも、色んな種族が共存している。

 街中を見渡すと人族だけじゃなく、エルフや獣人などもいた。


 ヘルヴィはテオに呼ばれてこの世界に久しぶりに来てから、初めて人族以外を見た。

 絶滅したわけではなかったようだ。


「お二人は、王都での宿はどうするおつもりでしたか? まだ決まっていないのであれば、私の方で最高級の宿をご用意させていただきますが」


 イネッサが経営している宿屋なので、タダで二人に一番良い部屋を貸し出すことができる。

 二人が望めば、それこそ半永久的に。


「あっ、すいません、宿というか、お世話になる人がすでにいまして……」

「まあ、そうなのですか?」

「ああ、私たちの知り合いが王都の貴族と繋がっていてな。そこに話を通しているらしい」


 ヘルヴィは指をパチンと鳴らすと、手紙が目の前に出てきた。

 ジーナとセリアがお世話になっている貴族と会うときに、この手紙を見せることになっている。


 手紙にはその貴族の紋章が書いてあった。


「この貴族だ、知っているか?」

「拝見します。……っ!」


 紋章を見た瞬間、イネッサの顔が酷く歪んだが、すぐに立て直した。


「そう、ですね。幸いにも、知り合いではあります」

「……今一瞬すごい顔してたが、大丈夫か?」

「すいません、私の事業の競争相手だったので、少し思うところがありまして」

「そ、そうですか、それは仕方ないですよね……」


 明らかにそれだけじゃない顔をしていたが、テオは気付かなかった。


「ではとりあえず、その貴族のお家に向かいましょうか。出来れば私が用意する最高級の宿屋で泊まってもらえるよう、提案してみます」

「いいんですか? そんな無理をしなくても……」

「無理なんてしてませんよ。私がお二人にご恩を返したいのです」

(まあそれだけじゃなく、ヘルヴィ様と少しでも繋がっておきたいからなのですが……!)


 ヘルヴィはその心の内を読んで、「だろうな」と思った。


 より良い宿屋に泊まるには、イネッサとその貴族が用意する宿屋を比べて決めるのがいいだろう。

 イネッサが心の内で考えていることは、この際置いておく。



 そして馬車は賑わっていた商店街を抜け、大きな建物が並ぶ貴族がまで来た。


「ここが私の家ですわ」

「すごい、大きい……!」


 馬車の窓からまたテオが、身を乗り出すようにその家を眺める。

 とても大きく、庭も広くて綺麗だ。

 貴族街にある家の中でも、非常に豪華な屋敷である。


「お前の家ではなく、その手紙の貴族の家に案内するのではなかったか?」

「はい、ヘルヴィ様。その貴族のお家が……私のお家の、隣なのです」

「……なるほど」


 貴族同士でも、幼馴染というものがあるらしい。

 隣はイネッサの家と同等か、それ以上に豪華な家である。


「あちらの門番に話を通して、アイツ……失礼しました。呼んでもらいましょうか。おそらくこの時間だと家にいると思うので」


 今の言葉で、テオもイネッサが隣の主人を好んでないことがわかった。



 馬車から降りてしばらく待つと、大きな門が開いた。

 そして一人の女の子が出てきた。


「こんにちは! イデア・スカンツィです!」

「え、えっと、こんにちは……?」

「テオ様とヘルヴィ様ですね! ジーナとセリアから話は聞いてます! よろしくお願いしますね!」

「うん、そうなんだけど……えっと、子供かな?」


 テオがそう言うのも無理はない。


 身長は一四〇ほどで、顔立ちは幼く可愛らしさがある。

 目がぱっちりしていて、金色の目が綺麗に見える。

 髪は赤茶色で、肩ぐらいの長さで癖っ毛なのか、可愛らしくぴょんぴょんと跳ねていた。


 そして頭から狐のような耳が生えていて、ピクピクっと動いている。

 可愛らしいドレスのような服で、腰の辺りからふわふわの尻尾が生えていた。


 どうやらイデアという子は、獣人のようだ。


「テオ様。イデアは幼く見えますが、年齢は二四ですよ」

「えっ!? す、すいません! 失礼なことを言って……!」

「あはは、大丈夫ですよ! 慣れてますから! だけど……」


 イデアは可愛らしく笑ったまま、少し怖い目をしてイネッサを見る。


「年齢を言う必要はなかったんじゃない? ねえ、同い歳のイネッサちゃん」

「あら、ごめんなさい。いつもイデアは幼く見られてるから、親切のつもりで言ってしまったわ」

「余計なお世話だけど、ありがとうね!」


 お互いに笑顔なのに、目は全く笑っていないイネッサとイデア。


「な、仲が良いんですかね……?」

「さあ、悪くはないみたいだが」


 二人の様子を見て、ヘルヴィとテオはそう言った。



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