第79話 道中の…



 倒した二匹はヘルヴィが跡形もなく燃え消した。

 魔物討伐の依頼も受けていないし、討伐証明部位を剥ぎ取るのも面倒である。


「これからもっと鍛えていけば、キマイラも今のように一発の魔法で殺せるようになるだろう」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、一千年後ぐらいにな」

「い、一千年後……!? そ、そんなにかかるんですね……頑張ります……」


 気が遠くなるほどの時間だが、いつか成し遂げてやるとテオは心に思う。


「しかしテオ、魔法を二発も撃って疲れたのではないか?」

「そうですね、初めて攻撃の魔法を撃ったので、結構疲れました」


 二回しか撃ってないのに、百メートル全力疾走を何回もやったくらい疲れている。

 息も上がっていたのだが、今はギリギリ落ち着いてきた。


「ふむ、それは魔力が尽きかけているからだろう。魔力を補充すれば、その疲れも無くなる」

「あっ、そうなんですね」


 テオの魔力が少ないから、攻撃魔法を二発撃っただけでそれほど疲れるのだ。


 今ぐらいの魔法ならセリアでも何十発撃ったところで、全く疲労感はないだろう。

 やはりテオはまだまだ魔法を扱ったばかりの子供のようなものだ。


「魔力の補充は時間が経てば、空気中の魔力を身体が吸ってくれる。空気中の魔力の流れを集中して感じ取れば、補充の速度は速くなるだろう」

「じゃあ頑張って感じ取ればいいんですね!」

「だがそれは難しく、テオだったら三年は練習しないと出来ない」

「あっ、そうですか……」


 テオは頑張ってやろうと思ったが、出来ないと言われて少し落ち込む。


 後にセリアはそれを一ヶ月で出来るようになって、ヘルヴィは生まれた時から無意識でしていると聞いて、もっと落ち込むことになる。


「だが疲れているだろうから、今すぐ補充するにはどうすればいいか、わかるか?」

「えっ? んー……わかりません。どうすれば?」

「ふふっ、こうすればいい……」

「えっ、んんっ……!」


 もともと近かった二人の顔の距離が、ゼロになった。

 ヘルヴィがテオの後頭部に右手を回し、優しく、それでいて強引に顔を引き寄せ唇を重ねた。


 テオは驚くものの、全く抵抗せずに頬を赤らめて目を瞑りそれに応じる。


 草原の中、近くにいる生き物は黒馬しかいない。

 黒馬も空気を読んでいるのか、鳴いたり唸ったりもせずに静かに待機していた。


 数十秒の接吻を終え、一度離れて先程よりも近い距離で見つめ合う。


「はぁ、はぁ……なんで、いきなり……?」


 もともと疲れていたテオは、いきなりのキスで上手く息ができずに顔を赤らめながら息を荒くしていた。

 その姿にさらに興奮してしまうヘルヴィだったが、目を見つめながら話す。


「さっき言っただろ? 魔力の補充だ。粘膜接触による魔力譲渡が、一番手っ取り早い」

「あっ、そ、そうだったんですね……!」


 キスをされた衝撃でそんな会話をしていたことを忘れてしまっていた。


 だが確かに、少し身体が楽になったかもしれない。


「今のは唇を重ねるだけだったが、次はもっと激しくするぞ。これは魔力の譲渡だから、仕方ないよな……」


 人口呼吸をするときのように、これは医療行為みたいなものだ。

 だからこんなところでキスをしても、何の問題もない。


 そういう意味でヘルヴィは言ったのだが、テオは少しむくれた。


「仕方ないって……魔力譲渡だから、キスをするんですか……?」

「っ……!?」


 潤んだ瞳で上目遣いをされながら放たれたテオの言葉に、ヘルヴィの心臓は槍で貫かれたような感覚に陥る。


 つまりテオは、自分とキスをするのはそういう医療行為のためなのか?

 ヘルヴィがしたいから、してくれたのではないか、と問いかけたのだ。


「……そうだな、撤回しよう。仕方なくキスするのではなく、私がしたいから建前を言っただけだ」

「……じゃあ、ちゃんと言ってください」

「んっ、では私は何を言えばいい?」

「えっ、あの、その……僕と、キ、キスしたい、って……!」


 最初はテオから攻められていたが、すぐにいつものように攻め返すヘルヴィ。

 テオも逆に返されて、顔を真っ赤にしながら答えた。


「可愛いな、テオは」

「……ヘルヴィさんの方が、可愛いです。それに、綺麗です」

「ありがとう、テオ。私は、テオとキスをしたい。テオはどうしたい?」

「ぼ……僕も、ヘルヴィさんと、キスを……んんっ……!」


 テオが言い切るまで、ヘルヴィは我慢が出来なかった。


 先程のキスが子供のお遊びだったかのように、深く、激しく繋がる。


 ずっと止まれの指示をされていた黒馬だったが、静かに歩き出した。

 いつまで待っていても、進めの指示が来ないだろうと判断したからだ。


 その判断は正しく、それから三十分以上は黒馬への指示は出なかった。


 黒馬が良い判断をしてくれなかったら、王都に着くのが大幅に遅れるところだった二人。


 そのことに後で気づいてテオがお礼を言うが、今はまだ……お互いに、相手に夢中だった。



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