第69話 才能?



「戦い方を教えてもらいたい?」

「それって、私たちにってことかしら?」


 ジーナとセリアは、テオの言葉を聞き返すように繰り返した。


 テオが強くなると決意した翌日、丁度よく二人が依頼から帰ってきた。

 二人は一泊二日の依頼に行っていたが、昨日の夜に依頼を終えていたようだ。


 今日は二人とも朝にギルドへ行けば癒しのテオに会えるからと、睡眠時間を短くしてでも眠たい瞼を押し上げ会いにきた。


 そしてギルドで会って少し話してから切り出された内容が、強くなりたい。


「うーん、教えるのはいいんだけど……」

「というか私たちよりも、テオの後ろにいる人に教えてもらった方がいいんじゃない?」

「その言い方はなんだ」


 もちろん三人だけではなく、テオの後ろには妻のヘルヴィがいた。


「えっと、ヘルヴィさんにも強くなりたいって話をしたんですけど……」

「私は教えるのが下手だからな」


 テオが自分のために強くなりたい、と考えているのを知っていたヘルヴィ。

 だから自分に教わりたくない、とわかっているので、自分は教えるのには向かないと言ってある。


 実際、本当に教えるのは下手であると自覚している。

 生まれた瞬間から最強であるヘルヴィは、自分が操っている力や魔法は息をするように行使できる。


 どうやって呼吸をしているかを一から説明できないのと同様で、ヘルヴィが戦い方を教えるのは困難である。


「そうなんだ。まあ教えるのは出来るけど……」

「そうね……」


 何か考えているのか、歯切れの悪い二人。


「とりあえず今日も依頼を受けて行こっか。戦い方を学ぶとしたら、街の外に行った方がいいでしょ」

「そうね、テオもそれでいいかしら?」

「はい、お願いします!」


 そう言って、とりあえず四人はギルドから依頼を受けて街の外に行くことに。



(ねぇヘルヴィさん、聞こえてる?)

(ああ、聞こえているぞ)

(いいの本当に? 私たちがテオに戦い方を教えても)


 そしてその道中、テオ以外の三人は心の中で会話をしていた。


(ああ、私は本当に教えるのが下手だからな。お前らが教えた方が、テオにも良いだろう)

(そうなんだろうけどさ……ちょっと私たちが言いたいことを違うなぁ)

(ヘルヴィさんも、わかってるでしょ?)


 二人が伝えたいことは、一つ。


(ああ、わかっている。テオには、才能がない)


 戦いだけじゃなく全ての物事において、ある程度までは努力でなんとかなるだろう。

 しかしそこから先は、努力というものじゃ到底補えきれない才能というものが存在する。


 ヘルヴィは顕著ではあるが、ジーナとセリアだって力、魔法の才能があった。

 もちろん努力はしてきたが、才能があったからこそ今の地位まで上り詰めた。


 たとえテオが二人と同じ量の努力をしても、二人と並び立つことはないだろう。

 それだけ才能の差というものは、大きいのだ。


(残酷なことだと思うけど、テオ君がどれだけ努力しても……)

(いいのだ、テオだってそこまでは望んでいない)

(えっ、そうなの?)


 テオ自身もヘルヴィ、ジーナやセリアと並び立つほど強くなれるとは思っていない。

 だがそれでも、強くなりたいのだ。


 テオはヘルヴィに男として良いところを見せたい、というのもある。

 だが妻であるヘルヴィの強さが規格外なので、強いところを見せてもあまり意味がないかもしれない。


 だがそれでも、愛している女性を守りたいと思うのは、男として当然であると、テオは思っている――。


 ――ということをヘルヴィは、二人に伝える。


(うわー、テオ君かっこいいなぁ……テオ君も男の子、いや、男なんだね)

(そうね。というかヘルヴィさん、自慢したいだけでしょ?)

(お前らが聞いてきたのだから、話しただけだ)

(確信犯だ。ヘルヴィさんずるいなぁ)


 ジーナとセリアも世の男性のほとんどよりも強いだろう。

 もちろんテオよりも。


 だがそれでも、好きな男性に守られたいという思いは少なからずある。

 テオみたいな真っ直ぐで可愛い子が、自分を守りたいと頑張るのを想像するとキュンキュンしてしまう。


 それを実際に味わっているヘルヴィは、二人の想像以上に嬉しいだろう。

 自慢をしたくなるのも無理はない。


(もちろんお前らが断るとは思っていなかったが、断ったらどうしようかと思っていたぞ)

(すいません、前のような拷問はやめて頂けませんか? お、思い出したら、震えてきた……)

(その節は申し訳ありませんでした)


 いつも軽い喋り方をするジーナですら、とても丁寧な敬語になった。

 テオは気づいていないが、二人の顔が一気に真っ青になっていた。


 テオにちょっかいを出したり、ヘルヴィをからかったりしていた二人は、ヘルヴィから報復を受けた。


(だがあのお陰でお前達は強くなっただろう)

(それはそうだけど、なぜ一時間の拷問で今までより格段に強くなったか……思い出すだけでも、なんか漏れそう……)

(こんな街中で漏らさないでよジーナ……私はちょっとだけで我慢したから)

(セリアはもう漏らしてんじゃん)

(汚いな、テオに言うぞ)

((絶対にやめて!))


 二人が心の中でそう叫んだが、もちろんテオには聞こえていなかった。


(しかし……才能は大事だが、その後の環境も大事だからな)


 ヘルヴィは二人にも聞こえるようにそう心の中で呟いたが、二人はそれどころではなかったようだ。


(ヘルヴィさん本当に言わないでね!?)

(絶対よ! 絶対! フリじゃないわよ!?)

(ああ、わかっている。だが夜になってテオと一緒のベッドで寝転がったら、つい口が滑るかもな)

(自慢をしながら死刑宣告しないで!?)

(テオに私たちが漏らしたって聞かれたら、死ぬしかないわ!)



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