嘘は栄光と凋落を分かつ

 ―――~♪~~♪~♪


 くらい部屋のなか、携帯ゲーム機の明かりがそれを見つめる少年をちかちかと照らしていた。

 音量をおさえてひっそりと鳴るBGMは、明るい曲のはずなのにどこか寂しく暗い印象を与えてくる。



「あしたは中間テストかぁ……、めんどくさいなぁ……。」


 退屈そうなつぶやきのすばやく動く指がキャラクターをあやつり、敵モンスターに剣を振り下ろした。



 ピコン、という音がしてリザルトが表示される。


「ま~た“レアドロ“ダメだったかぁ、次狩ろー……。」



 少年がリザルトを閉じるため決定キーを押したとき、ふと、ゲームの画面が真っ暗になった。


「はぁっ?!っちょ、まだセーブしてないのにっ。バグった?バッテリー切れ?」



 あせった少年はすかさず電源ランプを確認するが、ランプはちいさな明かりを寂しく点灯させている。



 おそらく、何かのはずみでフリーズしてしまったのだろう。少年は口をへの字にまげて、電源ボタンへと手をかけた。




 だが、ボタンを押すまえにピッという軽快な音がしたかと思えば、ツツツツツツーと、古いドラ〇エのメッセージ表示のような音が続いた。



 少年がおどろいて画面をみると、真っ暗だったはずの画面にこれまた古めかしいデザインのテキストと、二つの選択肢があらわれている。



 はい ←

 いいえ


 わたしはまおうさまのつかいです。

 しつもんにこたえてください。





 それは自分がやっていたゲームのストーリーとは何の関係もない唐突なものだった。


「なんだ……?これ……?隠し要素?こんなの攻略サイトにあったっけ?」



 熟知しているはずのゲームにこんなメッセージがでるなんて話聞いた覚えはない。

 時折、ゲームの隠しコマンドやデバッグ機能が10年越しにみつかったりすることはあるが、そういうもの?もしそうだとすればものすごい大発見なのでは。


「やべぇ。これSNSにあげちゃったりなんかしたらバズること間違いなしなんじゃないのっ!?フォロワー爆増きちゃう!?いやいや、実はこれに答えていけば異世界に連れていかれちゃったりするかもっ!?」




 世紀のだいはっけんで高鳴る胸をおさえ、少年は『はい』にカーソルがあったままの選択肢に向け、うやうやしく決定キーを押した。



 はい ←

 いいえ



 あなたはちからがつよいですか?



 それが次に表示されたメッセージだった。

 なんだろう?ドラ〇エⅲの最初みたいに何かが変わるのだろうか?


 少年は迷わず『はい』の選択を押す。




 はい ←

 いいえ


 あなたはあたまがよいですか?




 少年は『はい』を選ぶ。



 はい ←

 いいえ


 あなたはまほうがつかえますか?




 さすがに魔法はつかえないので少年は『いいえ』を選んだ。


 その後もたくさんのY/Nの選択肢がつづいた。

 あなたのみためはかっこいいですか?あなたはおかねもちですか?あなたはゆうきがありますか?など、少年に関するしつもんさまざまな質問がつづいた。





 二十個めの質問。



 はい ←

 いいえ


 あなたはまいにちなまけていませんね?



 少年は『はい』を選ぶ。当然だ。これだけ一生懸命にレベリングやトレハンを続けていて怠けているわけがない。



 そして二十一個めの質問が表示される。



 はい ←

 いいえ



 あなたはぶきをふるわれたことがありますか?



 もちろんそんな経験はない。ここは平和な日本なんだから。

 少年は『いいえ』を選ぶ。



 はい ←

 いいえ


 あなたは はもの をふるわれたことがありますか?



 少年はすこし困惑した。さっきの質問とかぶっているような気がしたからだ。

 だが、武器にも種類はいくつかある。鈍器だとか杖という場合もある。

 深くはきにせず『いいえ』をえらぶ。



 はい ←

 いいえ


 あなたはくびをきりつけられたことはありますか?



 暗い中、目に突きささるような光を放つ画面にツツツツーと無機質にでてきたメッセージを見て、少年は背筋をムカデがはしりぬけたような気持ち悪さを感じた。


 くびをきりつけられた経験なんてあるわけがない。そもそもそんな質問のどこに意味があるというのだろうか。デバック機能をうごかすコマンドにしても悪趣味が過ぎる。


 だが、これは大発見かもしれない、SNSや友達にちやほやされたい。そんな感情が尻込みする少年の指をうごかしていく。

 少年は『いいえ』を押した。



 ツツツツー、ピッ。ツツツツー、ピッ。とメッセージが表示されては消えていく。

 少年はなにも操作はしていない。いやもうあまりのことに動くことができなかった。


「なんだよ……コレ、なんなんだよっっ!!?」


 ツツツツー、ピッ。ツツツツー、ピッ。

 何度も表示されるメッセージはすべて同じ。



 はい ←


 あなたはくびをきりはなしてほしいのですね?



 たった一つの『はい』をなんども自動選択し、読み込み、またメッセージが消えていく。


 ツツツツー、ピッ。ツツツツー、ピッ。

 ツツツツー、ピッ。ツツツツー、ピッ。

 ツツツツー、ピッ。ツツツツー、ピッ。

 ツツツツー、ピッ。ツツツツー、ピッ。

 ツツツツー、ピッ。ツツツツー、ピッ。




「も、もうやめろよおおおおおおおおお!!!!!」



 たまらなくなり少年が叫び声をあげた。暗い少年の部屋に静けさが戻る。



 ゲーム画面にはまた、メッセージが表示されていた。






 あくまにうそをついたものには し を。







 ―――次のニュースです。


 今朝午前7時ごろ、埼玉県○○市で中学二年生の寺島さとるさん(14)の遺体が自宅の寝室で発見されました。



 警察によりますと、遺体は首をするどい刃物で切断されており、何ものかが家に侵入し殺害したとみて警察が捜査にあたっています。



 その後の警察関係者への取材で、現場となった部屋には荒らされた様子はなく、さとるさんに抵抗した様子もなかったが遺体の目は開かれていたことから、


襲われた当時、少年は意識のあるまま何らかの理由で抵抗できずに殺害されたのではないかとみられています。


 警察は、学校関係者や生徒との交友関係で何かトラブルがなかったか調べています。



(終わり)

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