新天地開闢の祖 ナガエ


どさりーーー


ナナツメの封印結晶の前に、ナガエの重ね帯を落とした。


右腕に力が入らない。

体中が震えている。

肺に溜め込む空気が痛い。

意識が白い方へと引っ張られていく。


ミナトミは、これまで感じたことがない疲労感を背負っていた。

それはナガエに対して「封印の儀」を執り行ったためであるし、ナナツメを封印し切ったことへの安堵であるし、集落の希望を繋いだ責任感であるし、考えられることあるいは考えの及ばない漠然としたこと様々が頭の中で混ざり合っているためであった。


これで、自分達は成し遂げた。

ここで、自分達は成し遂げた。


ミナトミの右腕は黒焦げ、デズの電機装甲はただの金属の塊となり、ルィラの杖の青水晶はその微かな光を失いつつ、そして、ナガエを失って得た、新天地への道。


旅路の終わりを想像しなかったわけではない。

集落のため、皆のためにと仲間と連れ立ち旅立ったあの日。いつか来る旅の終わりは、希望に満ちたものだった。

決して、目の前にあるようなものではなかった。


“伝承”は壮大だった。

“超常”が強大だった。


そして何より、現実が、


ミナトミは頭をひとつ打った。今、自分がすべきことは嘆くことではない。

痛みを堪えつつ、ナガエに向き合う。


「すまなかったな、急な願いを聞いてもらって」


それはいつものナガエだった。

先ほどまでの切迫した様子は消え、何事もないかのようにゆったりとしていた。


どうしてそう悠然と構えていられる。

足元から結晶化が始まっているというのに。

ここで君の旅は終わるというのに。


「だがこれで、集落の皆を新天地へと連れ出してやれる。私はそれで十分だ」


まだ何も言っていない。


「だがその顔を見れば何が言いたいかは分かる」


まだ何も言っていない。


「だが、私の時間もそう長くはない」


まだ、何も、君に言っていないんだ。

村を出るときに言いかけた不安も、夜空の星に吸い込まれた苦労も、山を駆け下りたときに感じた可笑しさも。

全ての、


ここまでに君と俺と俺達とで通った全てのことに対する感謝を。

まだ、何一つ君に言えていないんだ。


「………」


だというのに、君は、ここで伝承の塊となり、それで終わるというのか。

どうして、そんな晴れ晴れとしていられるのだろう。

普段通りの、悠然とした態度が今はとても腹が立つ。君のために、腹が立つ。

頭が回らず口が動かない、これは怒りのためなのか。


「ナガエ、ワタシニなにを任せたイ?」


デズが横倒しのまま尋ねた。


「皆の目標を立ててほしい。新天地での生活の早期安定のために」

「わかっタ、任されヨウ」


ルィラに目配せをすると、デズは“爪”を軽く振った。

涙を裾で強引に拭いながら、ルィラはナガエに言う。


「ナ、ナガエ様…。私は、儀式、巫女の血の道、を、これまでのよ、うに紡いでいきます!そのための精進を!欠かすことはないと誓います!」


言葉を詰まらせながら、それでも力強くそう宣言する。

ナガエは穏やかにうなずいた。


「ありがとう、そして、あまり気負うな」

「ですが……」


言いかけてルィラはかぶりを振った。そして前を向いたのだった。


2人の後に続いて、ミナトミは言葉がかけられないでいた。

頭の中ではぐるぐると渦が巻くだけで、口からは何も出てこない。


「さて、ミナトミ、そろそろ時間がない。私は何か一つしか答えられそうにない」

「っ!!」


焦りが高まり、土くれからナガエに視線を移す。そこにはいつも通りの笑みが浮かんでいた。


この旅路、何度となく見たゆったりとした笑い顔だった。



すっと、ミナトミの肩から力が抜け、くだらないことを問いかけた。

くだらない、実にくだらない謎解きを一つ。


ナガエは、驚いたような顔で、大きく微笑み、そして、

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