タコ岬の守衛 タケダ

(ジジー、ザッ——ザザー)


あ、あー


録音できてるかな?

えっと、作業しながらのメッセージになるんだけど、岬さんに宛てているよ


僕が、あったー、違う、どこだっけ


……


失礼

僕から伝えたいことはシンプルに好きだってことなんだけどもね

走ってきちゃってごめんね

何が何だかわからなかったと思う


けどあの化け物みたいなのがこっちにくるわけだろ

そうなったらこの岬———貴女が好きだって言ってくれたこの岬———がなくなっちゃうからね、それは僕としては避けたかったわけなんだよ



ニュースで見てて、他所の土地がどれだけ酷いことになってるかは知ってたから

それに、岬さんがとても悲しそうな顔をしてたから

好きな人があんな顔するのは、僕には耐えられなくってっ、


これをっ、よいしょ、回れっっ!



不思議だね、今までは全くこんなこと言えなかったのに、

顔が見えないからかもしれない

恥ずかしさってのが今ひとつ感じにくい、いや、そんなことはないか、はは

でも今は、素直に気持ちを言うことができるよ


…遅くないと良かったけども



電源オン、バッテリー値充分、開口が…よし、



じつはね、面白い仕掛けを海にしててね、


これは、ホントは貴女へのプロポーズで使いたかったんだけど、


過去の水害事故の経験から、街を守れるようにって全展開式の強力な防波堤を作っていたんだ



君への荒波は全部僕が防ぐ!って言って

かっこつけようとしてたんだよね


もしかしたら、そっちからでも見えるかもしれない、赤い花火を合図にしてたけど、この雨じゃ湿気って点かないだろうから


……


駄目か?


いや、でも、どうだ、これで、


よし!

やった!やったよ岬さん!


上手いこと動いた!

これであの波は消失させられる!


へへ、録音して遺言のつもりだったのに


僕も今からすぐ戻るよ

さっきまでの勢いで告白できたらいいんだけどな…



……



なんだ、あれ…


……


そんなことがあってたまるか、

奥に第二波が隠れてたってことか?



あの高さじゃ、タコ岬どころじゃなくて街まで危ない


ど、どうしよう


これ以上できることなんて…



(ザ、ザザー、ジジッ————)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る