特別事態捜査班班長 高山志久

「君は、僕の開発した薬を使ったね?」


黒木田はどこか嬉しそうに唇の端を吊り上げる。


「あの薬には副作用があってね」


腰を伸ばした黒木田は、秘密を話すことが楽しくて仕方ないらしい。


「刑事さん、と呼ばせてもらうよ。君は権力を行使するが、それと同時に権力に縛られている。法でしか捌けない世の中、法を犯してもいない者を裁くことはできないだろう。

刑事さん、僕の行いは誰にも明かされることはない。

なぜなら、」


言いつつ黒木田は両手を前に出す。

ーーーパンッ!


黒木田が柏手を一つ打った。

変わったところは特にない。

いや、黒木田が先ほどよりわずかに遠くにいる…?


「お帰り、刑事さん。

どうだい、傷の具合は?

あのアヒルで録音しようとしたようだけど無駄なんだ。

今までのは幻覚のようなものさ。

だから、この世の誰もこの事象を知覚できない、記録できない。記録に残らない者は、裁けない。そうだろう、だって」


また両手を前に出し嫌味に笑う。

ーーーパンッ!


黒木田の柏手の度に奴との間に距離が生まれる。

いや、これは、俺が下がっているのか…?

胸に受けた銃弾の痛みが消えている。痛みだけではなく傷口も。幻覚…?

つまり、これは、


「刑事さんはどこにも帰れないんだから」


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