第21話 Wデート? part2
「ね、たろさんって、なかなかいい感じじゃない」
「えっ? 」
莉奈も忠太郎のことを「たろさん」と呼んでいることに驚きながら、「いい感じ」という発言にドキリとした。
「見た目派手だけど、話してると見た目ほどチャラくないし、落ち着いた大人って感じでさ」
トイレで化粧なおしをしながら、莉奈は愛理にウィンクした。
「そう……ね」
それは、莉奈が忠太郎のことを気に入ったという意味で言っているのか、一般論として言っているのか分からず、愛理は返事に戸惑ってしまう。
「金髪に赤いメッシュって、今時なかなかいないけど、似合っちゃってるから不思議よね。しかも、あの格好! 最初、武士が入ってきたのかと思った」
ケラケラ笑いながら言う莉奈を、愛理は軽く嗜める。
「莉奈ちゃん、本人の前では言わないでね」
「わーってるって。昔みたいにアホみたいに考えなしな発言はしないってば」
本当だろうか?
何度となく、莉奈の無神経な発言(しかも正論)に、クラスが揉めたことを思い出し、今一信用しきれずに莉奈を見つめる。
「莉奈ちゃんだって、大人になったんだぞ」
酔っぱらっているのか、ご機嫌な様子で愛理の背中をバシバシ叩く。体育会系の莉奈の遠慮のない攻撃に、愛理はゲホゲホと咳き込んでしまう。
「やだ、大袈裟だなぁ」
「莉奈ちゃん、たろさんとアドレス交換してなかった? 」
「したよ。聞いたら教えてくれたから」
「たろさんと連絡とるの? 」
莉奈はうん? と愛理を見ると、ニンマリと笑った。
「気になる? 」
「いや、だって……、たろさんってお仕事忙しいから」
気になってしょうがなかったが、愛理はモジモジしながら言い訳をする。
「そうねぇ……、メールくらいならするかもね」
チラリと横目で見ながら、愛理の反応を確かめる。愛理は、珍しくきつめな表情になったあと、見るからにドーンと落ち込む。
連絡をとって欲しくない!! と、一瞬独占欲のような感情を覚えたものの、自分にはそんなことを言う権利はないんだ。これから忠太郎と莉奈が仲良くなっていくのを見ないといけないのか。部屋の掃除のバイトに行った時に、莉奈の洗濯物がまじるようになったら……と、一気に妄想が広がり、涙目になりそうになる。
ちょっとイジメ過ぎたかなと思った莉奈は、愛理の肩にがっしりと手を回した。
「ほら、あんまり遅いと、ウ○コしてると思われちゃうよ」
「ヤダッ!! 」
愛理は慌ててトイレから出る。
個室に戻ると、何故か忠太郎は熊木の横に移動していた。
莉奈が熊木の前に座ったため、愛理は忠太郎の前に座る。
今まで二対二で話していたのが、この座り方になると、四人で会話するようになる。
「二人って、女子校だったわけじゃん。女子校あるある教えてよ」
「うーん、どんな男の先生でももてる! 」
「還暦近い先生にもファンがいたね」
「そうそう! しかもけっこうマジで、誕生日にネクタイとかプレゼントしてたよね」
「そうなの? 環ちゃん? プレゼントなんかしたの? 」
「してた、してた! あと、男の先生の奥さんは、だいたい卒業生」
「そうそう」
熊木は心底羨ましそうに唸った。
「うーん、やっぱり男の先生はもてるのか……。教員免許とればよかったな」
「望の場合はその前に大検だろ。高校中退なんだから」
「そうなんだ? 」
「まあ、仕事が忙しくなってね」
「嘘つけ! 喧嘩のし過ぎで謹慎くらったら、そのまま辞めちまったくせに」
「やだなあ、僕が喧嘩とかするように見える? 」
熊木がわざと目をパチパチさせながら言うと、忠太郎がすかさず熊木の頭を叩く。
「おまえ、その僕って言うの、胡散臭いから止めろ」
「ええ? 僕は僕だけど」
「嘘つけ! いつも俺じゃないか」
「そうだっけ? おかしいなぁ」
ゲラゲラ笑う熊木の首に手を回し、ヘッドロックを決めると、忠太郎は愛理に向かって「他に女子校ネタないの? 」と振ってきた。
「そうですね。ベタですけど、女子同士でスカートめくりが流行ったことがあります」
「それベタなの? 」
「女の子同士でスカートめくって楽しい? 」
忠太郎と熊木が同時に反応し、愛理と莉奈は顔を見合わせる。
「楽しかった? 」
「まあ、めくるのは楽しかったよ。反応がみんな違って。愛理なんか、硬直しちゃうんだもん。みんなめくり返そうとするのに」
めくる担当莉奈、めくられる担当愛理……といったところか?
「じゃあ、女子同士の恋愛的なものは? お姉さま的な」
熊木の質問に、莉奈がボリボリと頭をかいた。
酔いも手伝ってか、メッキはとうに剥がれ、いつも通りの素の莉奈になっていた。
アグラをかき(スカートなんだが)、せっかく綺麗に整えた髪の毛をグシャグシャッとかきまぜ、焼酎のロックをグビグビあおる。
「それは莉奈ちゃんの専門。莉奈ちゃんもてまくってたから」
「「そうなの?!」」
忠太郎と熊木がキレイにハモる。
「まあ……、勝手に好きだ何だ言われてたけど、私は別に女子に興味があった訳じゃないから」
「プレゼントとか貰ってたよね?」
「貰ったね。お返しはしなかったけど」
「一番高かったプレゼントは? 」
「時計……かな? 」
「「時計?! 」」
「多分四~五万くらいのやつ」
「「ゲッ! 」」
さっきからキレイにハモる忠太郎と熊木だった。
「お金持ちの子多かったもんね」
愛理みたいに、普通のサラリーマンの家の子供の方が少なかったかもしれない。
「愛理ちゃんは? そういうのなかったの? 」
「ある訳ないですよ」
「いたじゃん」
「「えっ?! 」」
「ほら、斉藤先輩。愛理の部活の」
「斉藤先輩は、そりゃよくしてくれたけど……」
「斉藤先輩は、あれはマジだったよね」
愛理は困ったように笑った。
「どんな先輩? 」
「どんな……ですか? 頭が良くて、運動神経が良くて、素敵な人です。今は外国に留学していて、来年戻ってくると思います」
愛理が女性のことを話しているのは分かるのだが、忠太郎はムカムカするような苛立ちを感じた。
「チュウ太も頭いいし、運動神経もまあまああるけど、どっちがかっこいい? 」
熊木がニヤニヤしながら愛理に聞いた。
愛理は、焼酎のソーダ割りを一息に飲み干すと、カーッと赤くなる。
「そりゃ、男性と女性と違いますし、比べるなんてできませんけど……」
「けど? 」
「……同じくらい優しいですし、同じくらい素敵です。でも……たろさんの方がカッコいいと……思います」
最後の方は聞こえるか聞こえないかくらい小さい声になっていた。
熊木はガハガハと笑い、莉奈はニヤニヤと笑い、忠太郎はさっきまでの苛立った表情は消え、満足そうな、今なら何でも許しちゃいそうなフワフワした笑顔を浮かべていた。
「チュウ太もご機嫌になったところで、そろそろお開きにしますか」
ヨイセ! と勢いをつけて熊木が立ち上がると、伝票を持って個室を出て行く。そのあとに忠太郎が続き、愛理と莉奈は荷物をまとめながら少し遅れて部屋を出た。
「愛理……、忠太郎さんのこと好きでしょ? 」
「エッ? エエッ?! 」
いきなり核心をつかれて、愛理は前を歩く忠太郎に聞かれたんじゃないかとドギマギする。
「何を言うんです?! 」
「何って、違うの? 」
「違くはなくはないというか……」
真っ赤になってうつむく愛理の肩に手を回し、耳元に口を近づける。
「じゃあ、私がいっちゃってもいいんだな? 」
「いく?! 」
愛理は思わず大きな声を出し、忠太郎達が振り返って「どうした?」という表情で見る。
愛理は慌てて手を振り、何でもないアピールをした。
「素直になりなさい」
莉奈が耳元で囁き、愛理は「だって……」とつぶやく。
「何がだってだよ? 」
「だって、私なんか……」
「私なんか? 」
「忠太郎さんは……私のことなんか何とも想ってないから」
愛理の声は消え入りそうだった。
「相手は関係なくない? 」
「それは? 」
「愛理がどう思うかでしょ。好きか嫌いか、単純じゃん」
酔いで回らない頭で考える。
好きか嫌いか?
嫌いな訳がないです……。
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