第12話 知らない番号からの電話
結局るりには連絡を取らないまま家に帰り、忠太郎に帰宅を知らせるスタンプを送ると、すぐに「無事でなにより」という武士の格好をしたインコのスタンプが送られてきた。
犬派猫派ってあるけど、まさかの鳥派だったりする?
今までのラインのやり取りを眺め返し、スタンプを見ては頬が弛む。
もちろん、ただの友人(……もしかしたら知人? )なのだから、ニヤニヤしてしまうような甘い文章なんかない。それでも何回も見返してしまうのは、愛理がそれなりの感情を忠太郎に感じているから。
本人はそれに気がつかないフリをしているが、それは防衛反応みたいなものだった。
大樹との経験から、恋愛自体に二の足を踏むようになってしまっているのと、忠太郎のような大人でカッコいい(一般的には顔はいいが奇妙な近寄りがたい)人と自分では、釣り合う筈がないという思い込みから、恋愛には発展する筈がない!! と、勝手に感情に蓋をしてしまっていた。
数十回以上ラインを見返し、何なら文章まで暗記できてしまうんじゃないかというくらいスマホを眺めていた時、知らない番号から電話がかかってきた。
出るのを躊躇っていたが、一度切れて二度もかかってきたことから、愛理は緊張しながら電話に出た。
『……はい? 』
イタ電かもしれないし、詐欺の電話かもしれないから、名前を言うことはしなかった。
『あの、私……
『はあ? 』
『突然で申し訳ないんだけど、佐野大樹さんとの関係を教えてください』
突然の知らない女性からの電話にも驚いたが、大樹の名前が出て来てさらに驚く。けれど、彼女の思惑もわからないし、返答に窮していると、杏は自分のことを語りだした。
その話しによると、どうやら彼女はさっき玲奈が話していた女の子らしい。コンパで知り合った大樹に無理やり関係を強要され、泥酔して動けないのをよいことに好き勝手され、あげくに合意の上の行為だったと、付き合うという話しがあった上でだから問題ないと言われた……とのことだった。
そこまで話しを聞き、自分の話しなのか? と疑わずにはいられないくらい合致しており、愛理はただ黙って聞いていた。
愛理はそこで大樹の話しを信じ、彼女だと思い込み、呼ばれた時に家に行く都合の良い女……になってしまった訳だが、杏は大樹の言葉を信じなかったらしい。
杏には幼馴染みの彼氏がおり、まず大樹と付き合う話しになる筈がないし、同意の上で浮気を楽しむような性格でもないとのことだった。コンパに参加したのも、数合わせでしょうがなく参加しただけで、彼氏がいることはきっちり話してもいた。
飲み過ぎてしまったのは自分の過失だが、いくら泥酔しても同意の上で……ということは有り得ないと、きっぱりと杏は言い切った。
今、愛理に電話をかけてきたのは、色んなツテを頼り、似たような状況の女の子を探しているとのことだった。
自分のことだけでは、同意がなかったと証明するのは難しく、同じようなことを繰り返し行っていれば、それが証拠となるんじゃないか……と、杏は考えているらしい。
『……似ているかもしれませんが、私は大樹君とは数ヶ月付き合っていたので』
『いつからいつまで?』
愛理は机から日記を取り出した。
『コンパで知り合ったのは5月の25日です。その日からお付き合いが始まったと思います。別れた……というか、浮気現場を目撃しましたのが9月の6日で、それからゴタゴタしてまして、連絡しないでと言ったのは、つい6日前です』
『……凄いね。日付け、記憶してるの? 』
『まさか。日記見てます』
『日記つけてるんだ。……ちなみに8月2日なんだけど、あの男のこと何か書いてる? 』
ページをめくると、大樹に電話をした時のことが書いてあった。
『電話したみたいです。二週間くらい会えていなかったので、私から電話したら、飲み会の最中だって、すぐに切られました。次の日呼び出されて会ってます』
『その日です。私達がコンパしたの。最低! 付き合うって話し自体、あなたがいるならおかしな話しだよね?! 』
つまりは、杏にレイプまがいなことをした翌日に、愛理を呼び出して抱いた……ということだろう。大樹が愛理と会うのは、SEXをするためだけみたいなところがあったから。
さすがにショックを受けたが、今さら裏切られたとか、悔しいとかいう感情ではなく、純粋に気持ち悪かった。
『……あの、私以外にも電話をした女性はいるんですか? 』
『そうね。三人ばかり似たような状況の女性がいたのは話しに聞いたんだけど、電話番号をゲットできたのはあなたともう一人だけなの。運良く……っていうのもおかしいけど、あのコンパでカップルになった子がいて、その彼氏からの情報』
『あの、もし良かったら、その名前だけでも聞いてもいいですか?』
もしかして……と思った。
『ええ。電話番号がわかってるのは渡辺彩香さん。あと名前だけだけど、安藤万里江さん、宮園るりさん。知っている人の名前ある?』
宮園るり、杏の口からるりの名前も出てきた。
『宮園るり……ちゃんは友達です』
『本当?! その子の番号教えてもらえないかな? 』
『それは……』
勝手に教えていいものか口ごもる愛理に、杏は切実に訴える。
『私ね、あの男を訴えたい……くらいには思ってるけど、実際にはそこまでできないと思う。だって、その時のことを赤裸々に話さないといけないみたいだから。でも私には記憶がないし、病院に行った訳でもないから証拠もないの。ただね、合意の上だったってのが嘘だって証明したいのよ』
『……』
『あの男に同意なんかなかったって言わせたいの』
『……私から彼女に電話して、あなたの番号を教えるのでもいいですか? 電話してあなたと話したいかどうかは、彼女次第になってしまうけど』
『それでもいいわ! 私の番号出てたわよね? 』
『はい。彼女に伝えたら、ショートメッセージでお知らせします』
『本当にお願いね。それで、あなたのことだけど……。似てるかもしれないってのは、やっぱり、コンパ当日に付き合おうって言われて関係をもったってこと? それとも、私みたいに記憶ない感じ? 』
記憶がなく、気がついたら終わっていた訳だが、大樹からは付き合った上での行為だったと言われた……つまりは、杏と丸々一緒だ。自分がバカみたいに大樹の言葉を信じたから、大樹は調子にのって同じような行為を繰り返したんだろうか?
そう思うと杏には申し訳なく、本当のことが言えなかった。
『私は……お付き合いした上でその……』
『ああ、ごめんね。それなら元カレのこんな話し聞きたくなかったよね。本当にごめんなさい』
杏は真摯に謝っているようで、良い子だなと思うと、胸がズキリと傷んだ。
『いえ……。じゃあ、るりちゃんに連絡してみるんで』
着信が切れると、今度こそるりに連絡をとらなければならないはめになり、愛理はラインよりは直接話した方がいいだろうと、電話帳からるりの番号を探した。
★★★
「今日は、仕事の飲み会が……」
「へえ! 仕事の飲み会に着替えに帰るんだぁ」
「いや、上司とかいない気軽な飲み会だからさ。俺、仕事早く終わって、時間があったから……」
「なら、るりもぉ一緒しようかなぁ」
「えっ?! いや、それはダメでしょ」
「何でぇ? 気軽な飲み会ならぁ、彼女連れていったっていいと思うしぃ」
「るりは可愛過ぎるから、同僚とかに気に入られたら嫌だし」
大樹が仕事終わりにアパートに帰ったら、部屋の前にるりが立っていたのだ。
今日は飲み会(実際はコンパ)だと伝えてあったのにだ。
「とりあえず、中に入ろうか? 」
約束の時間まではあと一時間強あるし、多少遅れてもかまわないだろう。遅刻していけば、逆に印象に残るかもしれない。パパッとHして、満足して帰ってもらおう。そんなことを考えた大樹は、るりの背中を押して部屋に招き入れた。
ドアを閉めるなり、るりを抱き寄せキスをすると、るりもすんなりと唇を開く。身体をまさぐりながらベッドまで移動し、もどかしげにスーツを脱ぎ捨てた。いざ、ベッドに押し倒す……という状況になって、るりが大樹の胸元をグッと押しやった。
「電話……みたい。ちょっと、お・あ・ず・け」
るりは大樹の下からスルリと抜け出すと、スマホを持って窓の方へ歩いて行った。
「はい? ああ、うん。……うん、そう。で? ………………ああ、わかったわ。了解。ね、これから会わない? うん、そう。場所は後で連絡するねぇ。じゃあ、ばいばーい」
るりは、鞄にスマホをしまいつつ、口紅を出して塗り直す。
「用事ができたから帰るねぇ」
「……男じゃないよな? 」
大樹がるりの腰を抱き寄せ、その気になっている下半身を押し付けるようにすると、るりは大樹のナニをしっかり握った。
「さぁねぇ。じゃあ、いい子にしてね」
大樹に……というより、大樹の股関に話しかけると、るりはヒラヒラと手を振って部屋を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます