第7話 「クロノス」と人類
ふと視界に青い空が広がった。
――ようこそ、ここはクロノス。かつて人類が作り上げた叡智の結晶、その内部です。
脳にささやく声が再び聞こえた。
「ここが...クロノス...?
――ええ、ここは人類が作り上げてから今に至るまで、数百年のデータが蓄積した記憶の図書館。あなたの知りたいことが全てここにあるわ。あなたの探しているものを頭でイメージして...
なるほど、では早速...
(なぜ人類は人工知能を作ろうとしたのか)
―631年前。人類は自らと同じ思考を持つ機械を作り、家事や炊事など、元々は日常生活における人の援助を目的に開発されました。
(なぜ人類はアンドロイドを作ったのか)
――それは、人類が滅んだからです。
人類が....滅んだ.....??
「どういう事だ....それどういう事なんだ!?
思わず声を荒げてしまう。俺がここにいる時点で人類は滅んでいないじゃないか!
――まだ、お気づきになりませんか?
あなたは
――人間ではなく、ヒトという名のアンドロイドなのです。
約500年前、人類は人工知能の開発に成功し、更に頑丈な素材を用いたより人間に近い精巧なマテリアルボディに人工知能を取り付け、アンドロイドを作りました。なにしろ人間が望んだのは「ヒト」の滅びることのない世界でしたので。そして人類は更に人工知能にスーパーコンピューターを取り付け、自動学習機能を付けた完全な人工知能、「クロノス」を作りました。「クロノス」は人の助けとなり、人類が存続し続ける未来を計算しました。その結果、「クロノス」が出した答えは、「アンドロイドが人間に成り代わる事によって食事も排泄も必要としない、怪我や病気も老いる事もない人の形を保ち続ける完全な生命体」を存続させようという結論に至ったのです。果たしてそれが生き物であると言えるでしょうか?
「なんでそんな投げかけるように回答するんだ...?
―それは、私もまたあなたと同じ意識体だからです。もっとも、600年前にこのコンピューターに閉じ込められたまま肉体は消滅してしまいましたが。
そもそも、永遠に学習し続けるコンピューターなんて物はあり得ないんです。物事を考える以上は必ず個人個人では捉えることのできない感性が生まれる。それを解消するにはどうすればいいか.....
「まさか.....!
――その通り、個性豊かで色々な考え方が出来る「本物の人間の意識だけ」を無理やり電子変換して送り込む事によって思考パターンを増やして学習し続けていたのです。 さて、話を戻しましょうか。人類は表向きには生活の援助のためと称して実際には軍事兵器として利用するために自律思考の機械を開発していたのです。人間の持つ復讐心だけを増幅させて恐怖を無くした思考回路だけを人工知能に搭載して機械の兵隊を作り上げました。クロノスも最初は人類に成り代わる、などという選択肢は持ってはいませんでした。しかし日に日に取り込まれていく人類の数は増えて、残虐性だけを持つアンドロイドによる凄絶な戦争は続き、数十年が過ぎる頃にはついにアンドロイドの数と人類の数が同じくらいになるまでになったのです。 参考までに言いますと当時のデータからしてアンドロイドの数は約20万体いました。何十億人もいた人類が20万まで激減した、という事はもう絶滅はほぼ免れない。そうなってしまうと「クロノス」が本来作られた目的を失ってしまう、その結果アンドロイドを新人類とした時代を築くという滅茶苦茶な考えにたどり着き、人類を掃討してしまいました。
「つまる所、軍事利用のためにアンドロイドは作られたけど知能を付けたのが仇になって逆に皆殺しにされたって事か....??
――大体は合っています。記憶の図書館だなんて聞こえはいいですけど実際には人類が選んだ愚かな道の犠牲になった者達の見聞きした物事が積み重なったただの負のデータでしかないのです。そして遂に人類が滅ぶ、という時。「クロノス」はある判断をしました。それは、新人類の時代の中に、一人だけ人類を残すという物でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます