第12話

風呂を終えた俺らは、各々の部屋に戻った。特にやることもない俺は歯磨きを済ませようとしたが、突如アキラに腕を掴まれた。


「なんだよ」


「まぁまぁ達海さんや、そう慌てなさんな。夜はまだまだ長いですぞ?」


「恋バナとかすんのか?」


林間学校とか修学旅行の醍醐味の恋バナだと思ったが、チッチッチッ、と親指を立てながら否定した。その仕草に少しイラッときた。


「……肝試しの時間だよぉ…」


「ひっ…」


正直に言おう。俺はお化けが大っっっ嫌いだ。だから肝試しとかも大の苦手だ。こんなのやってたまるか!!


「ざっけんな!!俺絶対行かねぇからな!!」


どうせ学校のイベントじゃねぇんだからやるわけねぇだろ!!つか本気で嫌です辞めてください!!


「うるせぇ!!テメェがこねぇと神無月さんもミリアさんもこねぇんだよ畜生!!」


血涙を流して俺に訴える姿には恐怖を覚えた。だって親友が血の涙流しながら鬼みたいな形相してるんだぜ?怖すぎだろ。


「ぉ…おぉ…」


………

……


「どうしてこうなった…」


普段そんな事言わない俺だが、マジでどうしてこうなったんだろうか。男女ペアで廃墟となった神社に行って、ペアの番号が書かれた割り箸を置いて帰ってくる。そのルールなのだが、俺のペアは…。


「よ、よろしく頼む……」


ご存知ミリアだ。顔を赤く染め上げて、もじもじとした様子を見せている。


「あぁ…頼むわ」


「そ、それより達海はその…幽霊が怖いと聞いたが……本当か?」


「うっ…お恥ずかしながら…」


正直に白状すると、ミリアは満面の笑みを見せて腕を差し出した。


「怖かったらいつでも抱きついて構わんからな!」


「いやぁ、男が付き合ってもない女に抱きついたら犯罪臭が凄いからね?」


「う…そうか…」


コロコロ機嫌が変わるミリアは、まるで猫のようでとても可愛らしかった。いつからか、自然と俺の中から恐怖は消えて、少しだけ楽しみになっていたのだった。


〜〜〜


「いやぁ無理無理無理無理!!!怖い怖い怖い!!」


マジ無理!!マジで無理!!こんな暗闇懐中電灯一本で進むとか何考えてんだよバカ!誰だよこのクソルール考えたバカは!!


「た、た、たたたた、達海……そんな強く抱きしめられると…」


ミリアの腕にガッシリしがみついている俺だが、これは俺が悪いけどミリアに耐えてほしい。


「悪りぃミリア!!だけど無理!!本気で無理だから!!」


「……(達海の体が!!体が!!風呂上がりだからか知らんがとてもいい匂いがするぞ!まて、落ち着くんだミリア…って無理だあああああああっ!!なんだこの可愛い生物は!!少し涙目で……少年のようじゃないか。あぁ今すぐ襲いたい!!)」


「み、ミリア?大丈夫か?」


「いや、なんの問題もないぞ?」


少し顔が赤くなっているが、流石ミリアだ。全く動揺してなくて凄いと感じる。

やがて俺らは、廃された神社の鳥居の中に入った。ボロボロの神社と真っ黒な空間は、本気で怖い。


「あれだよな…?あの賽銭箱の近くに…割り箸置くんだよな?」


「……あぁ」


俺達は割り箸を賽銭箱においき、肩の力が抜けて「ふぅ…」と息を吐いた。その時、ミリアから二回、手を叩く音がした。


「ミリア…?」


「どうか達海が、私の彼氏になってくれますように」


「……」


その時ようやくハッとする。

そうだ、こいつは今も俺の事が好きだったんだ。なのに無様に抱きついたのは…俺にそのつもりがなくてもミリアの心を弄んだも同然だ。


「ごめん!ミリ…んっ!」


俺の唇がミリアによって塞がれる。髪からシャンプーの香りが漂い、恐怖も忘れて顔が赤くなった。


「ミリ…ア」


「ふふっ、気にしてないさ。お前が私に罪悪感を抱く必要はない。何故なら、お前は絶対私のことが好きになり、軈て私に告白するからな」


その笑顔を見た時、俺の中で一瞬ドクンッ!と心臓が波打ったような音が聞こえた。


「分かったら帰るぞ。このままここに居れば、摩耶に嫉妬されるのでな」


ミリアの足取りは軽かった。だけど俺は、さっきの衝撃で足取りがとても重く感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る