第8話

「うっ…ううっ…」


ハル姉は俺の家の前で文字通り号泣してる。それを必死になだめる。


「ハル姉…そんな泣くなよ…」


「だって…タツが別の場所に行ってしまうなんて……手紙…ちゃんと書いてよ?」


「あのさ…俺一泊2日の林間合宿なんだけど?」


そんな事でこんな号泣されても困る。というか手紙ってなんだよ。ハル姉の家届くの俺が帰る時くらいじゃねぇか。


「だっでえええっ!!タツが私の元から1日も離れてしまうのよ!?」


どさくさに紛れて俺に抱きつき、何やらスーはースーハーしてるような気がするんだが、気のせいだと心に言い聞かせる。


「あの2人の事よ!私が居ないところで絶対にタツを誘惑するわ!!」


「そんな大袈裟な…あ…」


そうも言い切れない。つい2週間前、摩耶にディープキスされて、ミリアに抱きつかれて抱きかえしたら襲われそうになったし。まぁ半分は俺が悪かったけど。


「タツ!絶対に気をつけるのよ!?」


「はいはい、分かった分かった」


ハル姉の忠告を聞き流しながら、俺はチャリで学校まで向かった。

そして、俺らは林間合宿の場所に向かうためにバスに乗りこんで、すぐにバスは発進した。

だけど問題が1つある。くじ引きで決めたはずなのに、俺の隣は…。


「達海!林間合宿の場所、鮎が釣れるそうよ!」


学校三大美女のうちの1人、摩耶だ。そして、俺に好意を抱いてくれている1人だった。

摩耶の顔を至近距離で見ると、あのキスが俺の脳内にフラッシュバックして目を離してしまった。


「……なーに?アレで意識してんの?」


「うっ…るせぇよ…」


図星をつかれた俺は嘘をつこうとするが、言葉を出した後全く嘘が隠せてないことに気がつく。


「ふふっ…達海が望むなら何度でもしてあげるけど?」


「あ、あんま揶揄うなよ!」


鞄で自分の顔を覆い隠して、その場をなんとか耐えるしか方法は無かった。


………

……


「待てお前ら、一旦冷静に話し合おうじゃないか」


俺は炎天下の中地面に正座させられ、クラスの野郎どもに血眼で見られている。その理由は。


「テメェこの野郎!!何神無月さんと良い雰囲気になってんだよ!」

「クッソ羨ましぃいいいいいっ!!」

「このクソ野郎ぶっ殺してやらあああっ!」


摩耶と俺が話す姿がいちゃついてるようにみえたらしく、俺の周りでクッソ煩くなり、飛びかかってくる奴まで居た。


「隼也!!助けてくれ!」


それをなんとか避けて、クラスの最高峰カーストに居る神谷隼也に助けを求める。


「うーん…ごめん。僕には手に負えない。それに…ぶふっ、この状況も面白いし……」


「テメェこの野郎!!楽しんでんじゃねぇよ!」


こいつ肩震わせて笑いやがった!!聖人君子のいい子ちゃんかと思ったら全然違った!こいつ天使の皮を被った腹黒野郎だったわ!


「何を言うか。僕が楽しんでるように見えるのかい?」


だがその悪魔みたいな笑みは、まさしく楽しんでるようにしかみえなかった。

その途端、クラスの野郎共が一気に道を開いた。全てがリセットされて冷静になって野郎共が開いている道の先を見ると、そこにはミリアが立っていた。まるで女王様のようにその道を歩き、俺の前に立ち塞がった。


「た、達海、バスの旅は…その、どうだった?」


「ん?別に普通だ。あ、まさか酔ったか?待ってろ。確か酔い止めの薬持ってた筈なんだけど…」


カバンを漁って薬を見つけ、それを差し出した。


「いや、そうではなくてな。その…」


「…?なんだ?言いたいことがあるなら…」


「今夜、私の部屋に来ないか?」


「ぶっ!」


俺が思わず吹き出すと、女子からは歓声が、野郎共からは狂ったような声が山中に響き渡ったという。

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