第9話

俺らは荷物を各々の部屋に預けて、少しの間自由時間を過ごすこととなった。部屋割りは決まっているので、俺はその部屋に向かったのだが、野郎どもが俺を見た瞬間血涙を流し始めたので部屋に入る事が出来ず、1人玄関のベンチに寝転がってポカリを飲んでいた。


「ふぅ…」


「何してんのよ達海」


「摩耶…」


俺を上から覗き込むようにして、摩耶と目が交差する。


「いやぁ、山って結構涼しいんだな。ここで昼寝でもしようかと思ってさ」


話は変わるが林間合宿の場所は山で、俺らの宿泊先はその山の中にある学校を改造して作られたモノだ。


「なら私も一緒にいい?」


「学校三大美女と昼寝ねぇ。幸せもんだな」


「その3人から好かれてるアンタは、とんでもなく幸せ者だと思うわよ?」


「……否定はしねぇ」


だが、ふと思う時がある。俺はこの3人から好意を向けられてる。それは俺がいくら否定しようが揺るぎない事実だ。

だけどこの3人に告白されたけど、いつか返事を返さなければならない。2人を振って、1人を選ばないといけない。


「…なぁ摩耶」


「何?」


「例えばさ、俺がお前の告白を受けて、ハル姉とミリアの告白を断ったとしたら、今の関係って終わるか?」


思わず漏れてしまったその言葉に、俺は自分を殴りたくなる衝動に駆られた。だって、俺は摩耶から「終わる」という言葉を貰いたくてその質問をした。この関係が終わるくらいならいっそ返事をずっと保留にしてずっとこの関係で居たい、という逃げ道を作ろうとしていたからだ。


「…多分終わる。だって私と恋人になるんなら、あの2人には絶対に渡さない。だけど、あの2人がその程度で諦めると思う?多分いつまでも馬鹿やるわよ」


「……ははっ」


言われてみればそうだ。あの2人は、俺の事を心底好きでいてくれてる。アイツらが俺を諦める姿なんて想像付かない。


「悪りぃ摩耶、お陰で目ぇ覚めた。ありがとな」


自然とできた笑みを摩耶に向けると、顔が赤くなった。


「っ…ヤバイ……凄くキスしたい…」


「は?ちょっ」


逃げようとした瞬間両肩を掴まれ、暴れようとするも全く引き剥がせない。


「一回も二階も一緒よね?」


「は…お前まさか…」


こいつあの暴走事件を繰り返す気だ!ヤバイ!!なんとかして逃げねぇと俺の人生をかけて守り続けた貞操が奪われる!!


「辞めろおお摩耶!一旦落ち着くんだ!な!?」


「私は至って冷静だけど?」


「冷静なわけあるか!!ちょっ!!誰か助け…」


「あんま大声出さないでよ。気づかれるでしょ?」


腕で口を拘束されて喋らなくさせられる。

こいつ完璧な悪役じゃねぇか!!


「あ、口塞いでたらキス出来ないか…なら」


摩耶の顔が近づき、あと数センチのところで腕を外した。その瞬間。


「なーーーにしてるんだお前らあああああああああああっ!!」


ミリアのそんな声が轟いて、俺は助かった!と胸を撫で下ろした瞬間、摩耶の唇が俺の唇に触れる。


「んんっ!?」


遅かったあああああああっ!!!


「んっ…チュッ…んっ…」


健全な男子高校生なら、美少女に舌を絡ませたキスをされればどうなるのかは言うまでも無いだろう。


強引にそれを終わらせて、摩耶の体を引き剥がす。


「はぁ…はぁ…」


息を粗くして、高鳴る鼓動を必死に抑える。


「どう?気持ちよかった?」


少し顔が紅葉している摩耶は、大人の雰囲気を漂わせている。


「あぁ気持ちよかったよ!!あと少しで惚れるとこだったわ!!」


「チッ…あと少しやってればよかったわね…」


だがここだけの話、俺が3人を見る目が、友達ではなく、異性として見るようになったのは、ここだけの秘密だ。


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