第7話
「ふぅ…」
「達海、帰るの?」
リュックサックの中に教科書類を詰め込んで、それを背負った時、背後から摩耶の声が俺の耳に入った。
「あぁ、今日はバイトもねぇから家でゆっくり出来る」
俺は一人暮らしだからかなり金がかかるが、親父達もそんなに金を持ってるわけじゃない。仕送りだけで生活するのは難しいから、かなりのペースでバイトを入れているのだが、今日は久々の休みだからゆっくり出来る。弁当でも買って家でひたすらゴロゴロ。これ程の楽園はないと断言出来る。
「そう…なら、達海の家に遊びに行ってもいい?」
その時に頭の中によぎった光景は、摩耶に呼び出されて告白された状況だった。もしかしすると、まだ俺のことを好きかもしれない異性を自分の家に招き入れるのは、倫理的に問題があるんじゃないかと考えた。
「……まぁ…いいけど」
だけど俺も結局男子だった。好奇心に負けてそれを承諾してしまうのだった。
………
……
…
「…で?なんでハルさんとミリアが居るの?」
「俺に言われても知らねぇよ…」
俺が帰ってきたときはすでにハル姉達がリビングに居たんだ。そんなこと言われても仕方ないじゃないか。
「お帰り〜タツ、なんか飲む?」
完全にハル姉の家のように振る舞うが、ハル姉が泊まる事は日常茶飯事で、半分ここはハル姉の家とも言えるから別に気にしない。
「じゃあコーラある?」
ストックを切らしてしまったが、炭酸付きのハル姉なら買ってきてくれてるかも…と淡い期待を寄せる。
「無いから私の唾液でいい?なんなら今は口移しでやったげるわよ?」
「なっ!?」
「ぶふっ!?」
ハル姉の予想外の言葉に吹き出したミリアと摩耶。時折出すハル姉の冗談に慣れてる俺は、それを受け流す。
「いらん」
「え〜?私の唾液なんてネットオークションしたら50万はつくでしょ。それが今なら無料なのよ?受け取っときなさいよ〜」
自信満々にそう告げるが、実際ハル姉の顔写真付きなら100万は行きそうなので否定は出来ない。
「だ、だだだ、ダメだぞハルナ!そ、そそ、んな、破廉恥な!!」
顔を真っ赤にしてハル姉を指差す。性的、というかこういう類の会話では、ミリアの精神年齢は一気に子供に成り下がる。
「え〜?別に私らは良く無い?もう既に告白も済ませてあるんだしぃ、後はタツを堕とすだけ」
ハル姉は俺の首元を指で撫で、顔をどんどんと近づいてくる。体が捕食者に睨まれたような感覚で全く動かない。そこを容赦なくハル姉が耳の近くで吐息が混じった声でつぶやいた。
「タツを私一色に染め上げてあげるわ…」
「っ!?」
顔がみるみるうちに赤くなっているのを自覚し、ハル姉から距離を置いた。
俺が居た場所には、妖艶な悪魔の様な笑みを浮かべたハル姉。
「ふふっ、興奮しちゃった?」
「するかバカ!!ってかいきなり何するんだよ!」
正直に言おう、興奮は……した。
だって姉っつう立場だけど、この色気っつう概念を超凝縮した様なハル姉だぞ!?そんなのに興奮しないなんてのはホモだけだ!!
「いやぁ…ね?タツは私の事姉として見てるから、まずは1人の女として見てもらおうと思って。まぁその様子だと、見てもらえたと思うんだけど」
俺の顔の赤面が中々消えない。それを必死に戻そうとしていると、今度は摩耶が俺の目の前にきた。
「摩耶…」
「なんでハルさんには欲情してるわけ?なんで姉に欲情してんのよ」
「いや…欲情はしてな」
そう言いかけた瞬間、後頭部を掴まれ摩耶の方角に引き寄せられる。その時に感じた、唇の感触。
「んっ!?」
それだけじゃ無い、唇を閉ざしている俺の口の中に強引に舌を捩じ込まれ、縦横無尽に暴れ回られる。脳がオーバーヒートしそうだったが、死に物狂いで抗って理性を押さえ込む。
「ぷはぁ…」
「摩耶…」
「達海のファーストキス、もーらい。ついでに私のファーストキスも上げた」
頭がくらくらして、取り返しがつかない様な気がする。この状況で何かされれば、俺の理性は思いっきりぶっ壊れそうだ。
「ほほぉ、私に唯一なびかなかった貴様が、何他の女で鼻の下を伸ばしている。貴様が鼻の下を伸ばして良いのは私だけだというのに」
「ミリア……ごめん今…俺冷静じゃねぇから…少し離れてくれると助かる」
オスとしての本能が強制的に引き摺り出された今、ミリアに何をするのかの予想がつかない。
「ダメだ。今の貴様だからこそやる」
ミリアは俺の胸に自分の胸を押し付けて、思いっきり抱きしめた。
「その…私はまだ……破廉恥なことはできない。だがどうだ?今の貴様にならこれはこうかてきめ…」
2人に削られた理性の檻が崩れて、俺はアリスを力一杯抱きしめた。
「ふあぁっ!?た、達海!?う、嬉しい!とてつもなく嬉しいのだが…これは…その…」
「はっ!?済まん!!」
一瞬で我に返ってミリアから離れる。
(やっちまった…最低だ…何したんだよ俺)
どんどん心の中が負の思考で詰まる中、ミリアは俺に向かって倒れた。それをなんとか受け止める。
「ミリア!ごめ…」
「ふ、ふへへ…達海…」
謝ろうとした瞬間にミリアからそんな声が放たれ、俺は床に押し倒された。
「達海……もう我慢しなくて良いよな?貴様が悪いんだぞ。貴様が私をあんなに抱きしめるから…うっ!離せ!何をする!!」
ミリアの両腕を掴んで、ハル姉が強引にミリアを引き剥がす。
「これ以上やるとお遊びじゃなくなっちゃうからね〜、この続きは、この3人の中の誰かがタツの恋人になった後、でしょ?」
「う…そうだな…」
「一理あるわ…」
その時俺は悟った。この3人の中から1人恋人を選んだとしても、絶対まともな生活を送ることはできないだろう、と。
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