第5話

「あっぢぃ…なんでサッカーなんてやらなきゃなんねぇんだ」


このクソ暑い中、女子はマラソン俺らはサッカーというバカみたいな地獄になっている。1組と2組が共同で行われるこの授業では、学校三大美女のミリアと摩耶が居たことにより、野郎共のやる気は最高点に達してる。


「達海!なんだそのやる気のない顔は!」


体育教師から怒声を飛ばされたことにより、シャキッとする。

まずはアップのグラウンド3周。コレは女子と共同らしく、かなり早いペースで運動部の連中が走り出した。


「ふぁ…ああああ」


「眠そうね?」


欠伸が出ると隣から声がかかる。その人物の正体は摩耶だった。


「うん…昨日ハル姉が一緒に寝るとか言い出してさ…」


ピクッ、と摩耶の体が硬直して、一瞬だが動かなくなってしまった。


「摩耶?」


「あの女狐…いつか殺す……」


「怖え事言うなよ…ってすげぇなミリア。男どもごぼう抜きじゃねぇか」


話を変えてミリアの方を見ると、既に男をごぼう抜きしていた。そして数十秒立つと、もう俺の場所まで追いついてきた。


「ど、どうだ達海!私の走りを見たか!?」


「お、おう。凄かったぞ」


「ふふん、どうだどうだ!私は凄いだろ!?」


天狗になっているミリアは可愛らしいものだった。


………

……


「キャーー!!神谷君〜!!頑張って!!」

「神谷くーん!!今日もかっこいいとこ見せてーー!!!」


と、このクラスのサッカー部でのエースで、しかもクソイケメンの名前が叫ばれる。もう野郎どもは仕方ないと諦めていた。


「達海ぃ!!負けたら承知しないぞ!」


だけどミリアの声には殺気が篭った目で俺を見られる。解せぬ。

そう思いながらも、ゲームが始まった。


「達海!」


11対11の本格的なゲーム形式の試合では、サッカー部無双も多くあったが、俺みたいな一般ピーポーにもボールは回ってきた。

だが一応これでも俺は小学校の頃はサッカーを習ってたからな…うまく行くはず!


「はぁっ!?」


ボールをダイレクトで相手の股を通して股抜き。そうそうこれこれ!小学校の頃何度も練習したんだよ!!


「おいこら達海ぃっ!お前初心者じゃねぇのかよ!」


「抜かせねぇぞ達海!!」


直ぐにディフェンスが2枚飛んできて俺の進行方向を遮ってくる。


「小学校の頃しか習ってねぇよ!」


一度アキラに出してこいつらの視線がアキラに向いた瞬間、スピードで引き千切る!!


「アキラ!!」


「待ってたよ!!」


ジャストタイミングで俺にパスが回ってくる。だが目の前にはサッカー部のエース神谷。


「やぁ、荒山君」


「うへぇ…ここまできたら決めたいんだけど?」


断言する。俺がこいつを抜くのは無理だ。だから交渉してみる。


「残念、サッカーである以上僕も全力を出さないと」


「だよなぁ…」


諦めかけて外にパスを出そうとした時、とある声が俺の耳に響いた。


「達海!!あんた負けたら許さないからね!!」


あの感情を表に出さない摩耶がそう叫んでいる。別にたかがサッカーの授業で、何熱くなったんだか…。


「おっ、本気になった?」


「いやぁ…あんな美少女にあんなこと言われちゃ本気出さないわけにはいかないでしょうよ」


やっぱ前言撤回、負けても良いから本気で抜きに行く。

速攻でサイドから抜こうとするが、当然付いてくる。角度がねぇからシュートも狙えない。

だったら。


「おっ!?」


一度神谷の脛にボールを当てて外に出す。これでコーナーの獲得だ。

コーナーキックを蹴るのはサッカー部、真剣に狙いを定めている。


「おっらぁっ!!」


上空に上げて眩しい太陽とボールが交差する。上を見上げるのが耐えられず目を瞑ってくれると思ったが、神谷はそうしてくれなかった。だから。


「うおっ!?」


空中戦で神谷を押しのけて、ヘディングでボールをゴールに押し込んだ。その時、ホイッスルが鳴る。


「っし!」


「いやぁやられたよ。というか荒山君体幹強いね?」


「そりゃどうも。つか普通に達海で良いよ。苗字で呼ばれんのはあんま好きじゃねぇんだ」


「じゃあ僕も隼也で良いよ。よろしくね?達海」


まさにコミュ力の塊である隼也に、少し気まずさを感じながらも握手の手を取った。


「それよりさ…」


「ん?」


「鼻血止まんないんだけどどうしたらいい?」


さっきのヘディング、額じゃなくて鼻でやったから超痛いし鼻血出てんだよ。


「うわっ!?なんか凄い台無しだね!?」

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