「ティナ④」

「魔物はほぼ殲滅しましたが負傷者多数です。」

「セルシア国め魔物に妙な細工をしやがって、くそっ!皆、無事か!」

 魔物との戦いがひと段落し、真実を知る騎士たちはいつもとは違った魔物の様子に困惑していた。

「ジル隊長とティナが……やはりあの2人は議員たちの賭けの餌食に……」

 騎士たちは声をひそめ2人の安全を危惧する。

「ジル隊長はこの茶番の真実を知っていたがティナは……気の毒なことだ。」

「余計なことは考えなくていい、これが騎士団の仕事だ。」


 騎士たちが勤めを終え帰還しようとした時、そのざわめきは森の奥から谺した。不気味なうめき声、生暖かい風、騎士たちの威勢を削ぐ邪悪な気配—いくつもの黒い影が騎士団たちをゆっくりと取り囲む。

「おい、まだこんなにいたのか速く応援を呼んでこい!」

 そう叫んだ騎士オリバーが城壁の方を振り向くと警備に当たっていた騎士たちはすでに魔物と交戦していた。

「なんだこいつら、なぜこんなに……」

「みんなどうしたの?いつものショーを見せてよ。」

 騎士団は魔物たちの背後から迫る聞き覚えのある声の正体に唖然とした。そこには全身に返り血を浴び、不適な笑みを浮かべるティナが立っていた。

「ほら早く、獲物はこんなに用意したんだから。」

「ティナ、何をしている!どうして魔物を」

「……呪いだ、呪いをもらってる……」

 とある騎士がそうつぶやき剣を手に取る。

「こいつはティナじゃない、魔物だ!魔物は殺せ!」

 そう叫ぶと騎士はティナに襲いかかる。ティナが剣を抜いたその瞬間、騎士の四肢は吹き飛び、壊れた操り人形のように地面に散らばる。

「クソッ!貴様セルシアの者かっ!我々を裏切ったのか!」

「裏切った?それはお前たちじゃないか……」

 ティナは魔物たちの先頭に立ちつくす。

「私が守っていたのは国じゃない……私が誇りに思っていた騎士団はただのおもちゃだったのよ!くだらない遊びの!」

 ティナがオリバーに襲いかかると同時に魔物たちは一斉に駆け出した。



 城壁の中ではすぐに緊急事態が知らされた。大量の魔物が侵入し、騎士団たちを喰っている—国民はすぐに混乱した。

「騎士団は何をしてるの?なんで侵入を許したの?」「魔物に住民が襲われている!」「あれはセルシア国の兵器だろ、やつらが襲ってきたのか?」

 恐れおののく住民たちを魔物は容赦なく襲った。彼らの殺戮と捕食という本能のままに。

 逃げる者や家に閉じこもる者—しかしそのどれもが無駄であることに誰も気付かなかった。魔物を討伐する騎士団とゲームを取り仕切る王がいない国は魔物で溢れかえっていた。


 国中が黒い影に覆われていく様子を城壁の上からティナはただ見つめていた。まるで他人事かのように……

「無様な国、醜い人々、本当に気持ち悪い……」

 小さくそうつぶやくティナ—ふいに背後から気配を感じ振り返ると白銀の少女と男が立っていた。

「また会ったわね、お嬢さん。」

 小さく微笑むティナ、彼女の心にはかつての正義感や使命など消え去っていた。

「ティナ、なんでみんなあの黒い人たちに食べられてるの?」

「そうなるべくしてなってるだけよ、私たちの犠牲の上にあぐらをかいていた愚民ども—この国はさっさと消えるべきだったのよ。」

 白銀の少女は首をかしげる。

「どういうこと?大人の話ってなんだか難しいのね。」

「そうね、私もなんだか分からなくなってきた、私は何をしていたのか、何のために誰を守っていたのか……」

 虚空を見つめるティナを見ると男が口を開いた。

「ティナ、ついに君も失くしてしまったんだね……」

 他の皆がそうであったように男はティナに問いかける。

「失くしたのなら私が……いや、私たちが埋めてあげるわ。さぁ、おいで。」

 白銀の少女が笑顔でそう言うと、ティナは男に差し出された手を取った。

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