「ティナ③」

「セルシア国?まさか、会談の際に—」

「いや、違う。ずっと前から知っていたさ。」

 アーサー王はあざ笑うかのようにティナを見つめる。

「セルシア国は正体を突き止めただけじゃなく、こいつらの繁殖に成功したんだ。」

「なんですって、こんなものをなぜ!」

 その事実にティナは憤りを隠せなかった。

「こいつらがどれだけ危険か分かっているでしょう!」

「軍事国家の考えていることは私にも分からない。そして、こいつらの使い道を彼らも分からなかったようだね。」


「セルシア国の議員たちはこいつらの暴れ回っている様子が見たかったみたいなんだ。」

「じゃあ、私たちは—」

「君たちとこいつらとのショーは議員のみなさんの関心を引いた、最近では賭けも行われているようだ。」

 ティナは思わず剣に手をかけた。

「そんなことのために騎士団を」

「分かってくれ、哀しいことにこれが今のエルニスの財源となっているんだよ。特に君の戦いぶりは会談での話題に上がっていたよ—おや、どこへ行く?」

「みんなに全てを話してきます。こんなやり方は間違っている!」

 ティナが引き返し騎士団のもとに戻ろうとした時、ジルが馬を飛ばしてティナのもとに現れた。

「止まるんだ、ティナ」

「ジル、みんなは?今すぐみんなに言いたいことが—」

「ダメだ、行かせるわけにはいかない。」

 ジルはティナの前に立ちはだかる。

「あなた……知っていたの?なんで、こんな」

「俺はかつて牢屋に入っていた、元罪人だ。これでしか食っていけないんだよ。」

「ふざけるな!騎士団は国を……国民を守るための存在よ、大国の議員たちの悪趣味の道具じゃない!」

 ティナは剣を手に取り、ジルに襲いかかった。ジルはティナの剣を自らの剣で防ぎ、2つの剣がぶつかる甲高い金属音を鳴らしている。

「ティナ、お前は幸せだな。騎士団の中でこのことを知らないやつは意外に多いんだぜ?」

「それでも私は国のために—」

「国?国民を守る?」

 ジルは突然、大きな笑い声をあげる。

「ティナ、よく考えてみろよ、騎士団のメンツ」


 そう言われティナは騎士団員の経歴を思い出してみた。ジルは元囚人と言っていた、シャーロットは遠く離れた発展途上国からの出稼ぎ、私は孤児、他は……ティナは気付いた、騎士団のほとんどが身寄りがなく、俗世間から離れていることに。


「私たちは国を守ってるんじゃ……。」

「国のやつらは俺たちが外交の道具としてセルシア国の繁殖させた魔物と戦わされていることを知っている。みんなだ!国民にとって俺たちは英雄なんかじゃないんだ、そういう職業、そういう役目でしかないんだよ!」

 ティナは剣を下ろし、虚空を見つめた。


 私は今まで何も守っていなかった、踊らされていた、何も知らなかった……


「分かったらティナ、戻ってやつらと戦え、いつも通りのショーを見せてやれ。」

「分かった、見せてあげる。」

 ティナは再び剣を振りかざし、魔物の首を落としアーサー王を睨みつける。

「ティナ、そうだ、議員のみなさんに見せて差し上げるんだ。」

「ええ、もちろん。」

 そう言うとティナはアーサー王の胸に剣を突き刺した。

「貴様、何をする!」

 後方から迫るジルの剣を弾き飛ばしティナはジルを切り裂くいた。地面に倒れこみジルはティナの走り去る後ろ姿を見つめる。

「……ティナ、どうする気だ?」


 *


 行く手を遮る魔物たちをなぎ倒していきティナは城壁へと向かっていた。魔物の死骸からは黒い蒸気が立ち上り辺りを満たしている。


 私たちの命は使われていた、セルシア国のおもちゃにされていた……そして、みんな知っていた。


 ティナは言い知れぬ怒りに支配されていた。

「ふざけるな、私たちの命で権力者たちは遊んでいた、私たちの犠牲の上にあぐらをかいて国民は平和な暮らしを営んでいるだと!」


 抑えられぬ怒りを口に出しながら馬を走らせていると目の前に再び2つの黒い影が現れた。

「そこをどけ、私の前に立ちはだかるのならやつら同様斬り殺すぞ。」

「怖いこと言わないで、ティナ。」

 それは少女の声だった。ティナの威嚇にもかかわらずその声に恐怖は感じられなかった。

 月明かりが白銀の少女と男を照らし出す。

「あんたたちはセルシア国の人間?私に金を賭けてるから魔物をもっと殺してくれって言いに来たの?」

「何言ってるの?私たちはこの星のことはよく分からないけど、あなたを迎えに来たのよ。」


 何を言ってるんだこの少女は?


「アリサ、この人は私たちの元へは来れないみたいだよ、まだ。」

 男が口を開き少女の手を取る。

「そう残念、でもティナ、あなたにはやることがあるみたいね。それが終わったらまた会えるかしら?」

 そう言い残すと少女と男は森の闇の中へと消えていった。


「やること……」

 そう呟くと、ティナの心に黒い影が生まれた。激しい憎悪と全身の血が沸き立つような怒りにティナは支配され、衝動のままに馬を走らせた。

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