1人目

「リザ」

 この星は資源が枯渇していた。それ故、各地で争いが絶えず、治安の悪化に歯止めが掛からなかった。


 今日も2つの村が対立し、資源の奪い合いをしている。


「やつらまだ武器を隠し持ってるはずだ。油断するな。」

「俺が突っ込んでやつらの気を引く。その間にお前達は村に侵入してくれ。」


 村の若者達は戦闘員として毎日のように殺し合いをしていた。愛する者を守る。そのために人を殺していた。相手にも愛する者、帰りを待つ者がいるなどと考えてはいけない。それがこの星で生き残るためには必要だった。


「ダメだ、そんなこと。」

「じゃあどうするんだ!!」


 村の戦闘員のレイジは自己犠牲をも顧みない男だった。大切な家族を守るためなら命をかけて戦う、そんな意思を持った男だ。


「妹さんの病気が心配なのは分かるが、きっとお前が無事でいるのが1番なんじゃないのか?」


 もう1人の戦闘員ショウはレイジをなだめる。


 ショウの言葉にレイジはイラつきを隠せなかったが、やがて落ち着きを取り戻すと彼らは今回の作戦の中止を決断した。


 すまない、リザ。今日も何も持って帰れなかった。


 村では年寄りや子どもが若者の帰りを待っていたが、彼らの表情を見ると皆うなだれ、その度に希望は失われた。


 レイジは自宅のあるシェルターへ急いだ。

「リザ、帰ったよ。」


 少女は布団から起き上がるとレイジに笑顔を見せる。


「兄さん、良かった生きてる。」

「ごめんな、心配かけて。リザはどうだ、体は痛くないか?」

「今日は少し楽。でも時々宙に浮いてる気がするの、どこか遠くの星まで飛んで行ってしまいそう。」

「そんなことはないよ、兄さんがお前の病気を治す薬をきっと持って帰るからね。だからもう少し寝てるんだ。」

「うん、兄さんも無理しないでね。」

「ありがとう、リザ。」


 レイジとリザが幼い頃、両親は他の村との争いに巻き込まれ命を落としたため、ずっと2人で暮らしてきた。そんな大切な妹が病だと宣告されて以来、彼も戦闘に参加するようになった。


 リザが眠るのを見届けてレイジは会合に出掛けた。


 レイジが会合に来た時にはすでに若者が集まり、あの村には薬があるはずだの、あの村では武器が開発されてるだの不確かな情報のやり取りをしていた。


「皆んな、今日も集まってくれてありがとう。」


 ショウが戦闘員に話を始める。


「実は皆んなに提案がある。」


 先程までのざわめきは消え、皆ショウの言葉に耳を傾ける。


「これからしばらく村を守る戦闘員を増やし、現地に赴く戦闘員の数を減らそうと思う。」


 レイジは驚愕した。

 なんだって?今までだって何も成果はなかったのに現地の戦闘員を減らすだと?


「ショウ、俺は反対だ。むしろ現地の戦闘員は増やすべきだ、今日ので分かっただろう。」


 そうだ、そうだと声が挙がる中、ショウは反論に答える。


「それは分かっている。でも俺たちは少し現地にこだわりすぎて村の自衛がおろそかになっている気がするんだ。」

「そんなことがあれば、すぐに現地から駆けつければいいだろ。」


 レイジは強い口調でさらに反論する。


「レイジ、村が襲われてからでは遅いんだ。分かってくれ。それに皆だって家族のことを考えてくれ、いつ死んだっておかしくないんだぞ、家族も俺たちも。」


 その言葉に皆が黙り、反論する者はいなくなった。


「じゃあ、提案は可決ってことでいいな?」

「いいが、俺は現地に行かせてくれ。」

「レイジ、お前には妹さんがいるだろ、近くで守ることの方が大事じゃないのか?」

「そんなことをしていてもリザの病気は治らないんだ!俺が絶対に薬や食料を手に入れてあいつを元気にするんだ!」


 その言葉にショウはレイジの意見を受け入れるしかなかった。


「それでは明日の明朝、予定通り奇襲を仕掛けるが、メンバーを決めていく。」


 *


 リザが目を覚ますとレイジはいなかった。どうやらまた会合に行っているようだ。


 兄さん、たまには家にいて欲しいな。


 そんなことを考えていると、リザは背後に誰かがいるのに気がついた。

 振り向くとそこには白銀の少女と男が立っていた。


「誰?」

 リザが怯えた声で問いかける。


「あなたを迎えに来たのよ。」

 白銀の少女がにこやかに答える。


「迎え?そんなのいらないわ。私は兄さんを待つの。」

 リザは2人を拒むかのようにそう言い放つが、その声はとても弱々しい。


「そうなのね、残念だわ。でもいつでも私達は待ってるからね。」

 白銀の少女がそう告げると2人は消えて行った。


 なんだったのあれは?


 リザが呆気に取られているとレイジが帰ってくる音がした。


「兄さん!」

「ただいまリザ、1人にしてすまないね。」

「ねえ兄さん、さっき女の子と男が私を迎えに来たの。このままじゃ私……。」


 取り乱した様子のリザを見るとレイジは焦りを覚えた。


 幻覚まで見えているのか。このままじゃまずい、早くリザの病気を治さなくてわ。


「リザ、兄さん今日からしばらく家を空けるけど心配はないよ。絶対に生きて薬を持って帰るから。」

「そんなことはいいの、兄さんここにいて、私を1人にしないで。」

「1人になんかしないさ、絶対帰ってくるよ。さあリザ寝てるんだ。」


 そう言い残すとレイジはシェルターを出て行った。


 兄さん、行かないで。

 そう言いたかったリザだが声にならない叫びはレイジには届かなかった。


 *


 その後、リザの意識は朦朧とし時間を認識出来なかった。

 あれから何時間、何日経ったのかしら、兄さんはいつ帰ってくるの?


 すると、目の前に白銀の少女と男が現れた。

「リザどうしたの?」

 白銀の少女がリザに問う。


「兄さんが帰って来ないの。ずっと待ってるのに。」


 白銀の少女は首を傾げ、リザに告げる。

「外には誰もいないみたいよ。なんでかしら。」

「そんなことないわ。兄さんの友達が村を守ってるはずだもの。」

「本当よ、何もないし、誰もいないわ。」


 ああ、私本当に1人になったんだ。

 リザに孤独が襲いかかった。


 すると、男は優しくリザに話しかける。

「可哀想なリザ、私達は君を絶対に1人にはさせないよ。」

「本当に?」

「ああ、だから、さあおいで。」


 兄さん、私1人は嫌なの。だから迎えに来て。


「リザ、お兄さんのことが好きなのね。」

 少女はリザに微笑みかける。


 男が手を差し出すとリザは目を閉じ、レイジを思い浮かべ、その手を取った。

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