Phantom Rail
アレン
第1話 迫る刺客
西暦二千五十年。
全人類に特殊能力が発現。
突然の事に人々は戸惑いを隠せなかった。
その後、各国の研究チームが原因を探ったが何も判明しなかった。
だが、この能力発現には共通点があった。
世界中の人々が発現の直前に「光の線路」を見たという。
そのことから、人々はこの能力のことを「レール」と呼んだ。
╬
ここは闇の中。
「また殺し損ねたようですねぇ。言いましたよねぇ?次は無いと」
黒いスーツを着た長い白髪の男が、ひざまずく配下ににじり寄る。
「はっ……申し訳……ありません」
配下の男の声は震えていた。
恐れているのだ。自分の主を。
「あの男は危険なのです。それはわかっていますか?」
「それは…承知しております。」
更に寄る。
配下の男のネクタイを引っ張り、絞め殺さんばかりの力を込める。
「じゃあッ!何故殺さないッ!」
怒号には殺意がこもっていたが、白髪の男の顔は笑っていた。その表情が更なる凄惨さを醸し出す。
「お…お許しくだ……さい。」
配下の男は涙ながらに訴える。
「いいえ。雑魚は要りません。さようならッッ!!」
能力を発動。
掴んでいたネクタイがボロボロと崩れはじめる。
「ひッ!!」
配下の男が悲鳴をあげる。
そして、腐敗は進む。
肉から骨まで全てを腐らせる。腐敗臭が立ち込める。グチャリと音を立てて、最後には跡形も無くなった。
「やり過ぎですよ。マスターバロック」
闇に紛れ、見物していたのは白髪の男─バロックの側近だ。
「やぁ。マトー君。仕方がないでしょう。三回チャンスをあげたのに全て失敗するんですからねぇ」
バロックの顔から笑みは消えていた。
「幹部たちは今、遠征中でいませんし、残りの者では手も足も出ないので殺し屋を雇いました。」
側近マトーが冷静に話す。
「入ってきなさい。ファーゴ」
尖った帽子をかぶり、ボロボロのマントを羽織り、骸骨の仮面を付けた、魔法使いのような男が姿を現す。
「お初にお目にかかる。マスターバロック。私の名はファーゴ・バンガス」
一礼する。
話し方は紳士のようだが、顔は骸骨。見れば見るほど不気味な男だ。
「ホッホッホ。よく来てくれましたねぇ。早速ですが、依頼の話に移りましょう。この男を殺してほしいのです。そして、この男が持っているとある資料を奪還してほしいのです。」
バロックが写真を見せる。写真にはある少年が写っていた。
「この男のデータはこのメモリーカードに入っています。」
カードを見せる。
「報酬はきっちり払ってもらう。」
「もちろんです。」
バロックがニヤリと笑う。
「さぁ、裏切り者に地獄を見せてやりましょう。」
╬
西暦二千六十八年。夏。八月七日。午後二時。
この時間は多くの人が行き交い、街は喧騒で溢れかえっていた。
そんななか、
(また気配が増えたな)
一つまた一つと増えていく大きな気配をきにしながら、シンは待ち合わせ場所の広場を目指して歩いていた。そこへ…
「ま~たあんたはそんな顔してる~。駄目だよ。元々目付き最悪なのにそんな険しい顔してたら。今の顔殺人鬼みたいだったよ。」
幼なじみがひょこっと姿を現す。
「あぁ、レイラか。僕目付き悪いの気にしてるんだよ?相変わらず無神経だね。」
「「あぁ、」とか「無神経」とかレディに対して失礼でしょ!久しぶりに会えるの楽しみにしてたのになぁ」
離ればなれになった幼なじみのレイラと連絡が取れ、シンは久しぶりにレイラと再会した。
「おじさんの仕事の都合で君が遠くへ引っ越してから、もう二年ほど立つのかな。さっきはゴメン。会えて嬉しいよレイラ。」
そう、会えて嬉しい。だが、シンはある目的のためにレイラを呼び出したのだ。
「私も嬉しいわ。」
そう言ってレイラがにこっと笑った。
(敵わないな)
彼女の笑顔の前で、彼女を利用しようとしている自分がひどく醜く感じる。
「せっかく会えたけど、僕には時間がない。フェザーおじさんにこれを渡してほしいんだ。きっとおじさんの研究に役立つと思う。」
かばんからある資料を取り出し、レイラに手渡す。
「「新領域の研究文書」?なにこれ?」
パラパラと資料をめくる。
「とにかくそれをおじさんに渡してほしい。おじさんならこれが何か分かるはずだ。」
その次の瞬間だった。
世界が茨に包まれた。
建物の屋根や壁、アスファルトの道路。あらゆる場所を轟音とともに突き破り、姿を現す。
人々はざわめき、逃げ惑う。
「何なのこれ!?」
レイラが叫ぶ。
「レールだよ。やはりそう来るか。」
資料を出したら仕掛けてくるのは予想していた。しかし、
(感じていた気配はこいつだったのか。とんでもないのが来たな。)
レールの規模が普通ではない。相当な実力者だ。
「レイラ。一度しか言わないからよく聞いて。これから僕のレールで君を隠す。合図したら急いでおじさんのところへ向かって。いいね?」
「何で?シンは何に巻き込まれているの?シンは私に何を隠しているの?」
レイラは困惑している。それもそうだろう。こんな状況を理解しろというほうがおかしい。
「ゴメン。今は…言えない。でもこの戦いが終わったら、話せることは話すつもりだよ。」
「「戦いが終わったら」って戦うつもりなの!?何でそんなことを!?」
時間がない。敵の準備が終わったようだ。茨の先がこちらを向く。
「今だっ!行って!」
レール発動。
「ファントム!」
レイラの姿が消える。正確には、消えたように見せている。
「必ず無事でいてね。お願いよ。怪我してたら承知しないからねっ!」
レイラの気配が消えた。走っていったのだろう。
「ゴメン。「怪我するな」ってお願いは守れそうにないな」
苦笑する。
壊れた建物の屋上に目を向けると、恐ろしい気配があった。
「お初にお目にかかる。シン・オーガ。私の名はファーゴ・バンガス。君を殺すものだ」
Phantom Rail アレン @alen8511
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