第7話 繋がり

 ああ……私はこんな幸せでいいのか、なんて心の中で呟いてみる。


 気まぐれに参加したイベントでたまたま優勝して、欲しかったモノなのかも判らない可笑しな子供を手に入れて、羅蔵が《出来て》。


 それでも迷って、またあの闇市に行って。救いを求めて。いるかも分からない人に会いに行って、会ったら会ったで逃げ出した。


 あたしは……臆病だ。好意を、愛情を向けられると逃げたくなる。


 ……あ、れ……? そういやあいつ、なんでいたんだ……?


 あの日、何も無い日だった。闇市は何も無い日はただの物置場みたいな、廃棄場みたいな、そんな所よりも何も無い場所。人も寄り付かない。そんな所にアイツは一人で何をしていたんだ?


 まるで……あたしが来ることを知っていたみたいな。


 ゾワッと背筋に悪寒が走る。でも何故か安心感みたいなモノもある。どんだけおめでたい頭なんだ。


 ゴン、お前って何?


 次に会ったらそう言って問いただしたい。知りたい。答えを知りたい。


『麻弥……俺とここにいればいい、ずっと。そしたら……』


『次は……………分かってるだろ?』


 分かんねぇよ……! 次会ったら分かるのか……? だったら会ってやるよ。


 そう思ってやたら長く感じる夜。羅蔵と繋がっている夜。あたし達は今、満たされている。普段は服で隠れた綺麗な漆黒の翼。今日は月明かりに照らされて、より一層綺麗に見える。



「ねぇ、麻弥。……ずるいよ」


「は?」


 何か様子がおかしい。いつもはもっと、うるさい位喋ってるのに今日は静かだ。というより、ついさっきまではうるさかった。今、急に静かになった。


「俺といるのに、他の男のこと考えてるでしょ」


「!!」


 確かにゴンのことは考えた。むしろ、なんで今、最中にあいつのことを考えたのか自分でも分からない。

 羅蔵は知った風に言って、大人びた顔であたしを見てくる。その表情は月の光が逆光でよく見えないけど、声色で分かる。冷たい顔をしている。


「羅蔵、わ、悪い……」


 羅蔵といてあたしは変わった。心配したり、怒ったり、一緒に笑ったり、悲しんだり、相手を気にかけるようになった。それは、羅蔵に対してだけだけど。それでもあたしは変わったんだ。だからあたしは、羅蔵に何かしてやりたい。


「謝らないで。麻弥は素敵だから目移りしちゃうのは当然だよ」


 違う。あたしはそんな大した人間じゃない。


「そうですよね~?」


「!?」


 羅蔵から羅蔵じゃない声が聞こえる。この声は、あの司会者のような気がする。


「貴女はそんな出来た人間じゃない。むしろ底辺にいるようなクズだ」


「あ!?」


「けれど美しい」


「……意味が分からねぇよ」


「俺にも分からないなー」


「ゴン!?」


 今度はゴンの声に変わった。なんだ、何が起きているのか分からない。


「せっかく俺がお嬢ちゃんの時から目ぇ掛けてやったのにな~」


「し、知らねぇよ!頼んでねぇだろが!」


「ツンデレもかわいいが、大概にしねぇと……相手、いなくなっちまうぜ?」


「ハッ。あたしには最初から誰もいねぇよ」


「俺も?」


 羅蔵の声に戻る。寂しそうな、傷ついたみたいな、そんな声で。


「俺もいらない?」


「違うっ!」


「----」


「え?」


 ぶつぶつと呟く。

 

 今、何て言ったんだ?


「麻弥……俺……」


 そう言って羅蔵は、あたしをベッドの上で押さえた。表情は逆光で分からない。


「俺……、おかしくなりそう……おかしくなる……!麻弥……!」




〈……ニ……ゲ、テッ……!〉




 その声はとても人間とは思えなかった。逃げて、そう聞こえた。あたしは言葉を返そうとしたが、返せなかった。首を締められていたから。


「ッ……、ぁ……ぞ……ッ」


 苦しくても、辛くても名前を呼んだ。だが段々それが出来なくなる。締めつけられる力は強まるばかり。


「……っ……」


 これはあたしの執念だ。たとえその姿が、もうあの羅蔵とは違っても。あたしは羅蔵の腕を掴んだ。微かに力が緩んだ気がする。だから話しやすくなった。


「……羅蔵っ!……あたしは……、あんたを……」


【愛してる】


 その言葉を羅蔵が聞くことはなかった。


 目の前には、穏やかに笑った麻弥の首が転がっていた……。 


 結局、あたしの【欲しいモノ】って何だったんだ?


『貴女は自分の欲を知りたいと思いませんか?』


 分からないじゃねぇか。バカヤロー……。でも、まあ……いいか。あたしは死んだ。羅蔵の手で。あたしの息子、あたしが唯一愛した人、それに殺されるなら本望だ……。




 END

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Black Baby 月嶺コロナ @tukimine960

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