第4話 おかしなこと

 子育て一日目。名前を付けた。羅蔵らぞう。こいつの名前。近くに落ちてた本、羅生門と蔵、から取った。我ながら安直な名前だ。


 二日目。とりあえず飯を買いに行った。赤ん坊が食べるものって何だ? 牛乳? 粥? 分からなくて店員に聞いた。それらしいものが買えたから良かった。


 三日目。服を買いに行った。さすがに素っ裸はマズイだろ。


 四日目。あたしの名前を覚えた。「まーや、まーや」と舌っ足らずな感じだ。


 五日目。気のせいか、羅蔵がデカくなった。子供の成長は早いな。


 六日目。羅蔵の背中に付いてた何かが開いた。翼だった。黒い、鳥みたいな翼。触るとサラサラしていて、素直に綺麗だと思う。


 七日目。特に変わったことはない。


 八日目。勉強させてみた。こいつは頭がいい。悪いあたしが言うのも何だが、吸収力が良く、教え甲斐がある。


 九日目。一緒に買い物に行った。あたしは評判が悪い。巷ではあっという間に噂が広がった。隠し子がいる、ということ。この時、羅蔵の肌は普通の人間と同じ肌色で、普通の人間でいう十二歳位の見た目をしていた。


 ……感覚が麻痺してる。子供の成長がこんな早い筈がない。分かってるのに、むしろこの状況が楽しい。もっともっと何かが起きてほしいと思ってしまう程に。


 そんなあたしの頭のほんの隅の方でやっぱりおかしいんじゃないかと思うこともあったようで、あたしの足は勝手に闇市へ向かっていた。






 ――闇市。

 そもそも闇市とは何なのか。闇市とは、あたしが若い頃にネットで見つけたコミュニティだ。【人生に潤いが欲しい方、人生を面白おかしくしたい方、人生に疲れた方は大歓迎!】それが闇市の売り文句だった。管理者は不明。性別、年齢、住所は勿論謎に包まれた人物だ。


 だけどそんなことを気にする奴はいなかった。そもそもそんな誰もが怪しいと思う探せばどこにでもありそうなコミュニティの管理者。気にする方がどうかしてる。


 闇市ではチャットが主だった活動で、強いて言うなら愚痴零し場だった。

 書き込めば管理者がその愚痴に対して面白おかしく返答するといった内容のコミュニティ。このコミュニティの売り文句は前者二つには当てはまると思う。ポジティブに生きたい奴等が参加するような内容だと思う。


 だけど最後【人生に疲れた】これに対しては納得いかない。矛盾してるだろ。それに当てはまるのがイベントだ。あたしが久々に参加したイベント。今回みたいにおかしな内容ばかりらしいが、優勝賞品が今回は飛びぬけておかしかったと思う。

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