第3話 欲しいもの

「おぎゃー! おぎゃー!」


 ……え?


 扉の向こうは白い部屋。家具や窓が一切ない。あるのは開いた扉ぐらいだ。そしてそこにいたのは。


「……赤ん坊……?」


 部屋には多くの赤ん坊がいた。


が……あたしの欲しいモノ……?」


 信じられない。そんな筈ない。あたしは昔墜ろし過ぎて子供を産めなくなった。だからといって欲しくなるなんてことない。


「おぎゃー! おぎゃー!」


 子供はうるさいし、面倒だし、邪魔なだけだ。こんなモノがあたしの欲しいモノだなんて有り得ない。


「……?」


 泣き咽ぶ赤ん坊の中に、全く動かない赤ん坊がいる。近づくと、その異質な姿が大きく開いた自分の目に映し出された。


 そいつは……………黒かった。肌色じゃない。土気色とはこういうのを言うのか? おかしいのは肌だけじゃない。背中に黒い小さな丸まった何かが二つ付いてる。


 そいつはとにかく奇妙な生き物だ。生き物かも分からない。混乱してるのか、自分でも考えてることが分からない。


 生き物か分からない? ならこいつは何だ?


 自分が今何をしてるのか。


 自分の行動に自分が驚く。


 その異質な赤ん坊を抱いたんだ。



 ……ドクン……ドクン……



 赤ん坊の心臓の鼓動を聞いて安心した。こいつはおかしい。変。奇妙。


 だけど……ちゃんと生きてる。あたしと同じように。


 なんなんだ? この感じ。体の中でそわそわした、くすぐったいモノがある。初めての感情。


 一つ言えることは、こいつは独りだということだ。周りの赤ん坊とは全く違うから。だから、あたしが救ってやる。孤独から。淋しさから。あたしも、同じだから。


 あんたがあたしの欲しかったモノ? おかしい者同士の傷の舐め合い。それでもいい。つまらない人生に面白いモノが加わった。あたしの人生を変えるモノ。それを手に入れた。


 あたしは人生に疲れたんじゃなかったのか? それなのに、こんな面倒くさい、おもしろいモノを手に入れて、奇妙で抱える手が震えるのに、笑っている自分がいることがまたおかしい。


 自分の中で、何かが弾けたような気がした。


 不思議なことに、開いた扉を戻るとそこは闇市の外。後ろを振り向いたら扉はなくなっていた。


 いちいち気にするのも面倒くさい。現実離れしてると分かってる。今はこいつがいればいい。人生に色が付いたみたいに、こいつはあたしの人生を彩る。そんな気がした。






「さあ……幕開けの刻がや~って来たぁっ!! アイツはどうなるかね~……いいモノ見せてくれよ? 麻弥」


 闇市の外で……中で、どこかで、口の端を吊り上げて笑う男。彼の呟きは誰が聴くこともなく闇の中に紛れていった。

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