第2話 優勝

 どう進もうとか考えなかった。どうせ優勝なんて無理だから。じゃあどうして参加した? それはあの男の言葉にムカついたから。


『貴女は自分の欲を知りたいと思いませんか?』


 知りたいと思った。

 それを他人から提示されて、知れる機会が与えられて、苛つきが増していく。苛々して歩くペースが速くなる。分岐点があっても迷うことはない。

 何故だろう。こんなに道があるのに迷わない。行き止まりにならない。

 本当に辿り着く場所があるのか? ゴールは、終わりはあるのか?

 ドクン、ドクンと胸が高鳴る。緊張しているからじゃない。これはきっと興奮しているから。今までこんなスムーズに事が進んだことがない。いっそのこと、ずっと終わりが無い方がいいとすら思える。

 右、左と適当に進む。しかし止まることはなかった。まるで自分が道を作っているようだ。

 ……疲れた。

 二時間は歩き通しだ。さすがに疲労が溜まる。

 もうそろそろ……着いてもいいだろ……。

 そう思ってしまった。だからかもしれない。曲がり角を進んだ先。赤い扉があった。


「ぱんぱかぱーん!」


 どこからか分からないが、あのテンションの高い司会の声が聞こえてきた。


「あなたがこの場所へ一番乗り~優勝でーす!!」


 は? ……嘘、だろ……? あたしが……優勝……?

 あたしの思いを他所にその司会は話を進めようとあたしの願いを促す。


「さあさ、あなたはご自身に勝ったのです! その扉を開くことであなたは欲しいモノが手に入ります! 欲しいと思いませんか? そう思われるなら、さあ……その場所への扉を開いて下さい」


『貴女は自分の欲を知りたいと思いませんか? そう思われるなら、さあ……この場所へ赴くとよろしいですよ』


 あの謎の男の言葉が頭を過ぎる。酷く、似ている。


「おい! あんたさっきの男だろっ! 隠れてないで顔見せろ!!」


 誰もいないのに叫んだ。でも確かにいる。誰かが。

 いくら待っても返事がない。それどころか、他の参加者が一向に誰一人として来ない。

 ………おかしい、だろ。これは夢か? こんなこと、現実にある筈がない。自分の欲しいモノが手に入る。たかが迷路を攻略しただけで。主催には何の利益もないのに。何の企みがあるかも分からない……それが闇市だ。……でも、夢なら覚めなくていい……。こんなつまらない現実に戻るくらいなら……。

 扉に手を掛ける。力を入れ、思い切り引っ張った。

 あたしの欲しいモノって何だ!?

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