相反する意思

「またか...またなのか...」

俺の目の前には黒い服装に黒い髪、日焼けして少し黒くなった肌の少年、上沢 空が立っていた。その腰にはサバイバルナイフが下げられていた。そしてその周りには...血塗れの死体が散乱していた...。

「あぁ...大地か...。」

空は振り返りめんどくさそうな声でこちらに声をかけた。後ろ姿からは分からなかったが正面から見ると大量の返り血がついていた。

「また!またこんなに人を!」

「じゃぁ放っておいて由美を殺されてもいいってのか!」

「っ!だからって人を殺していいわけないだろう!他に方法だってあるはずだろ!?」

「だったらその方法を考えてから来いよ。」

そう言って空は俺の前から消えた。

「方法...ね...」

空がこんなことを続けている理由。それは国から由美が狙われているからだ。ある時俺は夜に目覚めてふと窓の外を見るとサバイバルナイフを持った空が黒い服装の人たちを殺しているところだった。そんなの信じられなかったし、俺は夢だと思った。でも、何度もそれをみることがあった。何度も何度も見るうちにこれは現実なんだと俺は気付かされた。いや、最初から分かっていた。それでも夢だと信じたかった。空が人を殺すなんてことは悪い夢なのだと。結局俺は夢だと信じることは出来ず、意を決して空の元へと行く決断をすることになった。


外に出ると目の前には空の背中があった。俺は一瞬躊躇いながらも声をかけた。

「よぉ空...。なんでこんな時間に外にいるんだ...?」

「大地か。ついに出てきたのか...。」

「なんだ俺がたまに見てたのに気づいてたのか...。」

「そりゃな。あんなに見られちゃいやでもきづくさ。で、何の用だ。」

「何の用だ...だと!?そんなこと聞かなくてもわかるだろう!?なぜこんなことをしているんだ!なぜ!」

「...まぁいい。お前には話しておこう。ただし、由美には絶対に話すんじゃないぞ。わかったな?」

「...分かった。話してもらおうか。」

「兵役検査の日。俺が終わったあとに1人で残ったの覚えているか?」

「あぁ...。」

「あの日の由美の話を聞いて、そして由美の持っていた紙を見て俺は不審に思ったんだ。」

「流石に俺も思ったさ。そんな騒ぎになってたのに能力なしなんてな。ない方が当たり前なのに。」

「そして俺は会場で本当はどういう事なのか調べていた。そこで終わったあとの報告会議をしている部屋を見つけ、こっそりとそのはなしを聞いていたんだ。そこで話されていたことは主に由美のことだったんだ。」

「は!?由美のことだと?」

「そうだ。そこで俺は由美の本当の能力を知った。」

「本当の能力...。」

「その能力は...『破滅を呼ぶ能力』」

「破滅を..呼ぶ?」

「そのままあらゆるものを破滅させる能力だ。」

「そんな強力な能力があるのか!?」

「あったんだよ。そして国はこの能力を危険視したようだった。その結果由美を消すという結論が出された。」

「...は?なんでだ?むしろ貴重な戦力として大切に扱いそうなもんなのに...。」

「強力すぎたんだよ。表向きには隠されたのもそれが理由だ。国は暴走を恐れ、自分たちが破滅するくらいなら消そうと考えたんだ。」

「悔しいが...確かに納得する答えだな..。」

「そして直ぐに暗殺者が送り込まれた。...あとは分かるだろ?」

「お前がそれを撃退...いや、殺し続けた。そして、今ほどの多くの人員がつぎ込まれるようになった。か。」

「その通りだ。俺は由美に気付かれないよう隠れて由美を守り続けているわけだ。」

「そうか...。今日はもう帰るよ。頭を整理するのに時間がいる...。」

「そうだな。こんなこと突然話されたら混乱もするよな。しばらくゆっくりと考えるがいいさ。俺は今まで通り由美を守り続けるから。」

「...分かった。」

そう言って俺は家に戻りベッドに入り考えた。そして、俺は数日かけて結論を出した。やっぱり、人を殺すのは間違っていると。なにか別の方法を考えるべきだと。そして、今に至るわけだ。

「はぁ...。」

最近あいつは変わったように感じる。こんなことになる前よりもなんというか少し冷たくなったように感じる。人を殺すということは精神にも影響を及ぼすのか、それとも人を殺してでも由美を守ると覚悟したからか、それか...口先だけで何もしていない俺への嫌悪か。そんなことを考えながらその日は眠りについた。


〜数日後〜

俺はついに覚悟を決めた。結局最初から最後までこの案しか俺には出すことが出来なかったが、ダメもとでも空に伝え空がそれを拒否した時は....殺してでもこれ以上空の手を汚させはしない。これ以上、空だけの手を汚させはしない。俺が空に最初から出ていながら今の今まで案を伝えなかった理由。それはこの覚悟が足りなかったからだ。俺は拒否された時、これ以上空の手を汚させないためには殺すしかないという考えに至るまでは早かった。殺さなければ止まらぬほどに空は自分で決めたことは曲げない頑固者だ。だから、俺は殺すしかない。少なくとも、もう動けぬように四肢を破壊するしかない。そうでもしなければ止められない。幼馴染で親友の俺だからこそよく分かっている現状では最も辛い事実。それでも、友として空の手を汚させないために俺は覚悟を決めた。


「空...。」

外に出るといつものように大量の死体の前に空は立っていた。

「...」

空は振り返り俺に視線を向けた。

「なんだ。また意味の無いお前の考えを強要しに来たのか?もういいだろう?俺は言葉だけなんて聞かんぞ。」

「あぁ。分かっているさ。だから最終警告だ。」

「最終警告だと?」

「人を殺すのをやめろ。」

「人を殺すのをやめてどうするっていうんだ?お前は俺にこいつらが由美を殺すのを静観してろって言うのか?」

落ち着いているように聞こえて、その言葉には強い意志と怒りが込められていた。

「俺と一緒に来い空。そして、由美もつれて逃げるんだ。」

「...なんだ?お前が結局思いついたのはその案か?そんな案なのか?」

呆れ返ったような態度で空はそう答えた。

「人を殺すよりは何倍もマシなはずだ。」

「まずそれをして逃げ切れると思ってるのか?そして、一体どこにいくんだ?」

「俺とお前なら出来るはずだ。2人の力を合わせて外国へと亡命する。それで逃げ切れる。」

「でまた由美の能力がバレて振り出しに戻るのか?くだらない。もっとマシな案を考えるんだな。それにな、俺は由美には気づかれたくないんだ。お前に気づかれるのは構わないが、由美が気がついたらどうなる?自分の命が狙われてるんだぞ?しかも、狙っているのは国なんだぞ?受け止めきれるものだとお前は思うのか?そんな不安な気持ちにさせるのか?お前に、そんな残酷なことが出来るのか?」

「....つまり...お前は由美にバレないためにこの手段を選び、隠れながらひっそりと守っていたわけか?....甘いんだよ。国が本気になったら俺たちじゃ勝てないやつも出てくるかもしれない!それに由美は知らないんだ。国から呼び出しがかかってそこで殺されでもしてみろ!?俺達にはなんの対抗策もないんだぞ!?」

「...じゃぁなんだ。逃げれば助かるのか?それこそ本気で殺しに来られるだけだろう?お前は由美と自分の命、両方を守りながら戦えるのか?」

「だからって何もしないで最悪のエンドへと向かっていくのか?今のままじゃ生き残る確率は0なんだぞ!?」

「...もう分かったよ。」

「!じゃぁ」

「勘違いするな。俺はお前とはもう絶対に意見が合わないことが分かったんだ。」

「そうか...。やっぱり結局はこうなるんだな。できればやらなくて済むようにしたかったんだが。」

「ほう?なんだ最初っからその覚悟を決めてきていたんだな。多少はマシになっていたらしいな。なら、遠慮なくやらせてもらうからな。やめるなら今のうちだぞ。」

「こっちはもう覚悟決めてきてんだ。今更逃げられるかよ!」

そう言って俺は毎日出来る死体の山から集めておいたサプレッサーが装備されたハンドガン『M9』を抜き、空へと発砲した...。それをきっかけに俺と空の死闘は始まった。

To be continuous...

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