平穏の終わり

この国では高校を卒業すると同時に男女問わずに兵役検査を受け、通ったものは兵役義務が課せられる。俺たち3人もちょうど来年から兵役のため、兵役検査を受けていた。ほとんどの検査は終わり、残りの検査は最後の『能力検査』だけだった。

「次の検査で最後かぁ...」

「ついに能力検査だね。今までの検査は前置きだって言われてるほど大切な。」

「そうだな。能力持ちの兵士はそれこそ一個師団ほどの力を持つような奴らもいるからなそりゃ重要視されるわけだ。」

そんな話をしながら俺たち3人は能力検査へと向かった。


検査は割とすぐに終わるものだった。血圧検査みたいになんかよくわかんねぇ機械を腕にはめてちょっと待ってるだけだった。正直「あれ?これだけ?」と思うところはあったが、これで本当に終わりらしい。

「はい。これで終わりですね。」

そう言いながら検査官は機械から結果の書かれた用紙を取り外し、それに目を通している。

「お?すごいな...能力持ちにしても珍しい...。」

ん?どういうことだ?珍しい?能力持ちな時点で割と珍しいのに?

「あっ失礼しました。いや私も長年この仕事をしてるんですがなかなか見ない能力だったものでつい。」

そう言いながら俺に紙を渡してきた。

「これを最初に受付した場所まで持っていってください。それで兵役検査は終わりです。お疲れ様でした。」

「はい。わかりました。ありがとうございました。」

珍しい能力が気になったので部屋から出たらよく確認しようとして少し早足気味に部屋から去ろうとし、扉に手をかけた時、

「きっと特殊部隊とかに配属されるんだろうな。」

という呟きが聞こえさらに分からなくなったが、何も聞かずに俺はそのまま部屋を出た。


部屋の外へ出ると先に終わっていたらしい空の姿が目に入った。

「空先に終わってたのか」

その言葉を聞いて空は振り返った。

「まぁな。ただし、俺もさっき出てきた所だけけどな。」

その手には俺と同じように紙が2枚....ん?2枚?

「空。なんでお前2枚もあるの?」

「さぁ?今から確認するところだったからな。ただし、検査官が驚いてたぞ。」

なんかあっちでも俺と同じようなことが起きてたらしいな。

「俺のとこでも検査官が驚いててどういう事なのか今確認しようと思いながらでてきたんだよ。」

「そうか。じゃぁ先に大地のを確認するとしようか。」

「ん?そうか?じゃぁ見てみるか。」

そう言い、俺は空にも見えるようにしながら紙に視線を向けた。そこには《能力有り》ということと問題の能力神経系の機能を4倍まで自由に引き上げる能力のことが書かれていた。神経系の機能...だと?

「ほう。大地の能力は珍しいタイプだな。普通なら能力持ちと入っても運動能力をあげるものなのに。」

「そうだな...で神経系の機能ってどの辺のことを指すんだこれ...。」

神経系ということはやっぱり脳の指令の伝達速度をあげる能力なのだろうか?となると普通の能力より使いづらそうな気がするけど...。

「神経系っていったらそのまま伝達とか...でも確か脳とかも中枢神経っていうくらいだし能力の反映がされるんだろうな...。となると検査官が驚くだけある強力な能力だな...。」

そうか、脳自体の機能も上がるのか...。となると戦闘中今までよりも素早く判断を下して今までより早く体を操作出来るのか...。体自体は強化される訳じゃなけど確かに強力な能力ではあるな。そう思いながらさらに読み進めるとデメリットの欄があったその欄には《過剰な使用で頭痛が発生し、限界を超え使用すると脳にダメージが残る可能性あり》と書かれていた...。

「こっわ!使用気をつけないとやべぇじゃん!」

「まぁどんな能力でもそんなもんだ。」

まぁまぁまぁ、空くんは軽く流してくれますねぇ?ふっざけんなよおい。

「さてじゃぁ次は俺のだな。」

その上もう興味なしですか。ええ、ええ知ってましたよそういう人なのは!そんなことを思いつつ、俺は空の持つ紙に視線を移した。

そこには当然のように《能力有り》という文字。そしてその能力はというと《身体機能を4倍まで自由に引き上げる能力》と書かれていた。

「倍率は高めだけど割と普通だな。」

「そんなにポンポンお前みたいな珍しい能力が出てたまるか。でもまぁ問題は2枚目になにが書かれてるかだな。」

そういいながら空は2枚目の紙を1枚目の紙の上にのせた。そこには1枚目と同じ紙があった。は?どゆこと?そう思いながら能力の欄をのぞくと、《潜在能力を引き出す能力》とあった。つまりこれが示すことは...

「2つ目の能力...」

「確かに珍しいな...。」

能力者とは希少な存在であり、持っているだけで軍では戦力として数えられるようになる。そして、能力者とは基本的に1人1つ能力を有している。2つの能力を有するような者は少なくとも一般では昔の英雄の1人しか知られていない。そんな希少な能力者の中でもさらに希少な存在に空は仲間入りしたわけだ...。は?マジ?しかも完全に2個持ちってことにばっかり気がいってて忘れてたけどこの能力も馬鹿みたいに強力だ。簡単に書かれていてよく分からなかったから詳細を見ると人が無意識のうちにかけているリミッターを自由に外せるらしい...。

「お前...マジか...」

「ふむ、強力だがデメリットがやばいな。1つ目の能力以上に体が簡単に壊れてしまうようだな。これは気をつけて使わないと。」

「いやお前なんでそんなに冷静なんだよ...。」

なんと空はこんなおかしな状況なのにいつもと変わらず冷静だ。空はこういうところ鈍いという表現があっているのかは分からないがずれてるんだよな。


そんなこんなしながら話していると、

「空〜。大地〜。」

と俺たちを呼びながら由美がこっちに走ってきた。その手には紙が1枚。よかった。どっかの馬鹿みたいに能力2つ持ちとかじゃなくて。

「おう由美。遅かったな。」

「なんかねぇ。検査官たちがしばらく話あっててその間待たされてたんだよねぇ。」

検査官たちが話し合い?俺たちの時でも驚いてただけなのに?俺はそう思った程度だったが、空の表情を見ると何か俺とは違う何かを考えているように見えた。う〜ん長年一緒にいるけど空のことは未だに読めんな。まぁいいか。

「まぁ由美、紙に何が書いてあるか見てみようぜ。」

そう俺が言うと空は一旦考えるのをやめたようで紙の方に意識を向けたようだった。

「そうだね。見てみよっか。」

そう言うと由美は紙を俺たちにも見えるように広げた。そしてそこにはそんな騒ぎになっていたにも関わらず《能力無し》と書かれていた。もう俺には分からない...。由美が嘘を言ってる訳でもないだろうし...全くわからん。俺は諦めて考えるのをやめたが、空は何故か確信に至ったような表情をしていた。


その後俺らは受付に紙を提出し、検査を終了した。あとは帰るだけなのだが、空は何故か「急用ができた。先に帰っててくれ。」といってどこかに行ってしまった。

...その後家について部屋にいた時に空がうちの隣のあいつの家に帰ってきた時、あいつは何かを恐れているような覚悟したような顔を家に入っていった。


最初は気づかなかった。あまりにも静かであまりにも残酷な戦闘...いや、虐殺に。正直気づかなかった方が幸せだっただろうと思ったこともあったし、見なかったことにしようかと思ったこともあった。でも、そんなことは許されなかっただろうし、すくなくとも俺には見て見ぬふりはできなかった...。

To be continued...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る