第2話

 あの月は東の空に真白に浮かんでいる。この街に立ち上る靄で煙ったのだろうか。


 立ち並んだ建造物、その、もっと向こう。水蒸気をはき出す巨大な煙突の上に、誰かが立っている。真っ黒で、外套を着込んでいて、そして月を見つめている。私はなんだか目眩を覚えながらそれを見つめている。人影が首を回す。此方に気がついたのだろうか。よく見ると人影から除く首元は鱗のような、金属片の様なもので覆われていて、仄明るい月の光を反射してちろちろと輝いていた。

 人影が完全に振り向く。貌は逆光で見えなかったが、その灰色の目だけは妙に目についた。

 

何だったかな。


 ふと、そう思った。その目は、どこかで見た事があるような気がするのだけど、上手く記憶が再生されない。忘れてしまったのか、或いは忘れたのか。どっちでも良いかな。

 

 そして、人影は居なくなった。煙突から降りたのか、初めから居なかったのか。あれは、私の頭の中の———。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

皮膜の空に @do9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る