■1――壊れかけの舞台の上で。その2
■
ティーに送られて帰った頃には、空はもう真っ暗になっていた。
もう春だというのに、まだ日は短い。……もっとも、「箱庭」にいた時にはそんな季節ごとの変化に思いを馳せることなどなかったのだから、これもまた悪くないといえばそうなのだろうが。
帝都はずれの丘の上。錆びかけた遊具が置かれた前庭を抜けると、そこには木造の二階建てがひっそりと佇んでいる。
もともとは孤児院であったというこのおんぼろの建物が、今の私の――いや、私たちの「家」だ。
玄関口に辿り着こうかというあたりで、しかし私がドアベルを鳴らすよりも早く、奥からどたどたと慌ただしい足音が聞こえてくる。
あまり立て付けのよくない扉を勢いよく開けて、姿を見せたのは二人の童女だった。
「侵入者、はっけーん! ……って、なんだせんせーか」
人の顔を見てどこか残念そうにそう言ったのは、金色の髪をふたつ分けにした活発そうな童女、A-069「
「いや、わかんないよりくちゃん! 仮面被ってるけど中身は先生じゃないかも!」
そう言ってこちらに警戒心を顕にしてくるのは薄緑色のおかっぱが特徴的なA-084「
彼女の諫言に大きく頷くと、陸九はどこで拾ってきたのか、手に持っていた木の棒をこちらに向け、
「合言葉!」
……いきなりそんなことを言ってくる。当然、そんなものを決めた覚えはないので答えようもない。どうしたものかと思いながら佇んでいると、ややあって彼女らの後ろからもう一人、姿を現したものがあった。
「こら、貴方たち。なにまたワケの分からないことしてるの」
分厚い眼鏡を掛けた、すらりとした黒髪の大人びた少女――A-008「
彼女の顔を見るや、童女たちはというとその顔を真っ青にして互いに見合わせる。
「わ、ワケ分からなくないんだから! わたしたちは、『箱庭』のけーびを……」
「はいはい。分かったからさっさと入って、手洗いなさい。あとその棒は捨てる」
「えー、せっかくイイ感じの棒なのに……」
「じゃあ自分の部屋にでも置いときなさい――それよりとにかく、駆け足。早くしないと貴方たちの分の夕飯、他の子が食べちゃうわよ」
「「やだー!」」
きゃいきゃいとかしましく騒ぎながら、出てきた時以上のやかましさでどたどたと奥に戻っていく童女二人。そんな彼女たちの背中を苦笑混じりに見送った後、八刀はこちらに視線を戻して言った。
「おかえりなさい、先生。……遅かったじゃない。皆、貴方のせいで夕飯をおあずけにされてお腹空かせてるわよ?」
少しばかり責めるような彼女の口ぶりに、私は素直に謝罪する。だがそんな私に向かって、彼女は大仰に首を横に振ってみせた。
「私に謝られても、知らないわよ。先生がどこで何してようが知ったこっちゃないし。……ほら、下らないこと言ってないでさっさと入る」
どやしつけてくる彼女の剣幕に押されて中に入る。そんな私の背中に向かって、彼女は肩をすくめながらこう付け加えた。
「……謝るなら、あの子に謝ることね。今頃相当、しびれを切らしてる頃だと思うから」
苦笑混じりのその言葉だけで、私はこの先に待ち受けるであろう受難に、軽く頭痛を感じざるを得なかった。
――。
食堂に向かうと、そこでは既に、15人の少女たちが揃って席についていた。
30の瞳が一斉にこちらへと向いて。そんな中、ひときわ鋭くこちらを見つめてくるものがふたつほど。
「……随分と、遅いおかえりじゃあございませんか、先生?」
頬を膨らませながらそう口を開いたのは――食堂の最奥に座っていた薄桃色の髪の少女。
……A-009「
何やら見るからに不機嫌そうな様子でこちらをじいっと見つめてくる彼女。そんな彼女に私はしばしの黙考の後、何故怒っているのかと問う。すると、
「別に、怒ってませんけれど。良妻賢母と名高い私ですから、先生が私以外の女性とこんなに遅くまでしっぽりしていたからと言って別に不機嫌になったりしませんもの、ええ」
……なるほど、ティーとともに外出したっきり帰りが遅くなったものだから、彼女としては面白くないらしい。
別にティーとは彼女が勘ぐっているような関係でもないし、ついでに言うと別に九重とも夫婦の契りを結んだ覚えもないのだが――ひとまず前者だけ告げると、九重はその眉根をしゅんと垂れさせて小さく頷く。
「……ええ、ええ。すいません、分かってます。先生がそんな浮気者でないことくらい。なにせ先生と私とは小指同士が真っ赤なカーボンナノチューブで繋がっていると言っても過言ではありませんから」
それは過言にもほどがあったが、余計なことは言わずにおく。代わりにもう一度だけ、こうして待たせてしまったことに、素直に謝罪を重ねることにした。
そんな私をじいっと見つめた後、九重は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながら、小さく頷く。
「分かればよいのです。……先生も色々とお忙しいのは百も承知ですけれど、私だって、寂しいんですからね?」
――と。
そんなやりとりをしていたところで、何やら奥の台所から、がちゃがちゃと物音が聞こえてきて。
「はいはーい、皆、お待ちかねのごはんだよー!」
ややあって姿を現したのは、エプロン姿で大きなシチュー鍋を提げた背の高い金髪の少女――A-060「
食堂に入ってくるなり、私の姿を認めて六花は「あ!」と声を上げる。
「先生、おっかえりー! あんまり帰ってこないから、今日はもう先に食べちゃおうかってやっちゃんと話してたんだけど……間に合ってよかったよ。なんせ今日はみーちゃんが食事当番の日だもん! みーちゃんが腕によりをかけて作ったシチュー、食べてもらわなきゃ!」
「わ、わたしだけじゃなくて六花ちゃんも当番だったでしょ!? っていうか、ほとんど六花ちゃんに手伝ってもらっちゃったし……」
きゃいきゃいと口々に喋る二人に、遅れて食堂に訪れた八刀が呆れ顔で呟く。
「はいそこ、仲が良いのは分かったから早く配膳しなさいな。せっかくの料理が冷めちゃうわ」
「「あ、うん!」」
彼女の鶴の一声で、慌てて食卓の間を周り始める二人。
六花が持った鍋から、三七守がシチューをすくって少しばかり危なっかしい手付きで皆の皿に配膳していく。
そんな彼女らの様子を見ながら、私も奥の卓、九重の隣に用意された席についた。
皆の皿に湯気のたったシチューが満ちたあたりで、私のそのまた隣に座った八刀が口を開く。
「どこかの誰かさんが遅れたせいで、今日は皆、お腹空いてるわよね。確認事項とかの面倒なことは抜きにして、早く食べちゃいましょうか」
くすくす、と笑みをこぼす少女たちを見回しながら、そう言って八刀は両手をあわせて食前の礼句を唱える。
「
「「「いただきます」」」
そんな、帝政圏流の挨拶とともに。
もう随分と当たり前になった和やかな時間が、ゆったりと流れ始める。
――。
「へぇ、このシチュー、三七守さんが作ったんですね。美味しくて、びっくりしちゃいました」
「そうね、九重。私も正直驚きだわ。三七守のことだから、また第二哲学法則を無視したような独創的な料理が飛び出してくるものかと思ってたのだけれど――普通に美味しい」
シチューを口に運びながら口々に感想を述べる姉たちに、当の三七守は困ったように唇を尖らせる。
「八刀先輩、ひどいです……そりゃあ確かに、この前お料理教えてもらった時はその、たまたまうまくいかなかったですけど」
「たまたまであんな錬金術ができるなら、それはそれで大切にした方が良い一つの才能だと思うけれどね。……ともあれ今日のこの大金星は、やっぱり六花が手伝ったから?」
話を振られた六花はというと、けれど口いっぱいにパンを頬張ったまま大きく首を横に振る。
「ふぇふふ、わひゃひははんほひへはひほ」
「六花ちゃん、お行儀悪い! ……ほら、お水飲んで」
隣の三七守から渡されたコップの水をぐぐいと飲み干して一息ついた後、六花は改めて口を開いた。
「別に、私は大したことしてないよ。買い物とか、食材を切ったりとかはお手伝いしたけど、味付けとかは全部みーちゃんだし」
「……そうね。貴方の馬鹿舌じゃ味ばっかりはどうしようもないものね。だとすると、そっか……随分と上達したじゃない、三七守。本当に美味しいわよ」
「あ、ありがとうございます、八刀先輩。…………なんだか微妙にひっかかる褒められ方ですけど……」
そんな調子でわいわいと喋りながら、食事を進める彼女たち。
一方で私は、仮面も外さず、ただそんな彼女たちを横目で見つめ続けていた。
きしりきしりと軋んだ金属音を立てて動く、六花の義腕。
三七守の右目に張り付いた、物々しい黒の眼帯。
そして――九重の右肘に巻かれた、真新しい動作補助用の装具。
それらを見つめながら物思いに耽っていると、その視線に気付いてか、九重が私の仮面をじいっと見返し口を開く。
「食べないんですか、先生。美味しいですよ」
そう言って見上げてくる九重に、静かに首を横に振る。少し、考え事をしていただけだ――と。
そんな私の返答に、彼女はわずかにその深青色の瞳を細めた後。
「ははーん。さては私が可愛すぎて見惚れちゃいましたか」
なんて、いつも通りのふざけた調子でそんなことをのたまって、それからまだ綺麗な私の匙を手に取ると、私の皿に盛られたシチューをすくってこちらに向けてくる。
「はい、あーんして下さい先生。まずはその仮面も取って」
そんな彼女に、私は首を横に振る。
あの「神」を取り込んで以降、その影響もあってか食欲というものは日に日に減退していたし――今日はことさら何度も「死んだ」せいもあるだろう、食事の匂いを嗅ぐだけでも、血の混じった胃液が逆流してくるような不快感があった。
とはいえ、ここで拒否して食べないというのも、せっかく三七守が作ってくれたのに悪いというものだ。
ほんの少しの逡巡の後――私は九重から匙を奪って、仮面の口元だけずらして口に含む。
少しばかり冷めたシチュー。生ぬるい、どろついた感触。味は感じない。ここ一月は、何かを食べても苦味くらいしか感じなかった。
反射的にえづきそうになるのを気力だけで押し殺して嚥下しおおせると、私はぎこちなく頷いて、よくできていると伝えてやる。
するとそんな私の言葉に、固唾を呑んで見ていた三七守はぱあっと顔をほころばせてみせた。
「やったね、みーちゃん!」
「うん、ありがとう、六花ちゃん!」
「むう、せっかくあの伝説の『あーん』をできるチャンスでしたのに……」
喜ぶ聖女二名、なにやら口惜しそうに唇を尖らせる聖女が一名。
ともあれ怪しまれずには済んだらしい。内心で安堵しつつ、私は残りのシチューも無理やりに口に含んで、水で流し込む。
これで、いいのだ。
今までも――きっと、これからも。
――。
1943年4月20日。「箱庭」からの脱出から、早四ヶ月が過ぎようとしていた。
色々なこと、があった。
「人」であることを無視された少女たちは、忘れもしないあの雪の日に沢山傷ついて、沢山喪った。
だけれど――彼女たちはそんな喪失を乗り越えて、今もこうして、生きている。
皆で同じ食卓を囲んで、温かい食事を食べて、笑っている。
それは、いなくなっていった誰かが願った未来で。
それは、前を向き続けた彼女たちが自分たちの手で掴み取った、
彼女たちはもう十分に悩み、苦しみ、涙を流した。だからもう、彼女たちがこれ以上苦悩することなど、あってはならない。
……だから、そう。
幸せな結末の、その先に。
陰惨で
■
食事の時間が終わって皆が片付けをしている中、私は足早に外へと出ていった。
四月とはいえ、まだまだ夜は冷え込む。だが首筋を撫でる冷たい風は、今にも吐きそうなほどの胸の不快感にはよく効いた。
大きく深呼吸をして無理矢理に酸素を体中に送り込み、ゆっくりと歩を進める。
雑草だらけだった孤児院前の庭は、聖女たちの頑張りもあって今では随分と小綺麗で、歩きやすくなっていた。
亡命にあたって、住処として、そして彼女たちの「家」として譲り受けた場所。聖女たちはこの場所のことを、どうやら「箱庭」と呼んでいるらしい。
私から言わせればあまり印象の良い名前とは言えなかったが、彼女たちにしてみればあの場所については、辛い記憶以上に皆と過ごした場所としての思い出の方が勝るものなのだろう。
裏庭を少し歩いていると、その途中に小さな花壇と、あの逃亡の中で死んでいった聖女たちの墓標が並んでいる。
それを一瞥した後で、私はそこから少し離れた場所――庭木の生い茂る隅に、隠されるように置かれたもう一本の墓標へと視線を向けた。
番号と名前が彫られた聖女たちの墓標と異なり、こちらには何も刻まれていない。
だからそこに誰が葬られているのかを知っているのは、恐らく私だけだ。
A-099。名前を与えられることのなかった、番外の聖女。
他の聖女たちと同じく、ここに彼女の遺体は埋まってはいない。
だがそれは回収できなかったからではなく――むしろ逆。あの戦いの後で回収された彼女の遺骸は、貴重な聖女の生体サンプルとして厳重に保管される運びとなったからだ。
視線を落として、私は自分の手を見つめる。
回収されたA-099の遺体は、聖女という存在の解析のため――そして今後の抑制剤の研究の一環として、解剖に回された。
……そしてそれを行ったのは、他ならぬ私だった。
だから今でも、覚えている。冷え切った彼女の臓腑の感触は、今もずっとこの手にこびりついて、離れない。
人の中身をかき混ぜた経験は、一度や二度ではないけれど。
けれどそこに横たわっていたのが、敵とはいえ九重たちと何も変わらない聖女であるという事実は、なかなかに承服し難いものであった。
……多くの聖女たちを、守衛官たちを殺した敵。そんな彼女を、形式上とはいえこの「箱庭」に葬ることに抵抗がなかったかといえば嘘ではない。
だが、それでも彼女もまた、同じだった。
敵を斃すため兵器として、そこに投入されただけの存在。
九重たちと同じ在り方で、けれど立ち位置だけが鏡写しだっただけの少女。
……それを私は、この手にかけて。
その亡骸をすら暴き、詳らかにし、冒涜して。素知らぬ顔で九重たちの隣に立っている。
仮面を外してほしい、と九重にはよく言われるけれど。
それでも今の私には、そんな資格はあるはずもなかった。
<やれやれ。随分と自罰的だね、我が相棒>
不意に声が聞こえて、振り返ると。
そこに立っていたのは――くすんだ長い金髪に、闇色のドレスを纏った一人の少女だった。
ナイ。恐らくは本名ではないだろうそんな名を名乗るこれは、かつてあの「箱庭」において「
そしてその本質は――否、これの本質を指摘することができるかどうかも定かではないが、少なくともこれが自称するところによると【神】なのだという。
【
連邦が極秘裏に確保したという異形の存在、彼女はそれと同じものなのだという。……もっとも、彼女自身の表現を借りて言うならば同一ではなく、「ひとつの存在から分化した個体」だそうだが。
目前に佇む闇を纏った少女。彼女の姿を眺めながら、私はため息を吐き出す。
あの雪の日に、彼女を受け入れて。人であることをやめた今となってもまだ、にわかには信じることができない。
今こうして見えている彼女の存在は、何かたちの悪い幻覚か何かなのではないか――そう思うことすらある。
<幻覚ね。まあ、そう思ってくれても私としては障りはないが……しかし私のことをそんなふうに思っているなんて、寂しいじゃないか。せっかく今日だって、助けてやったというのに>
くつくつと、愛らしい外見に似合わぬ老獪じみた笑いをこぼしながらそう告げたナイに、私は何のことかと問いを返す。
すると彼女は芝居がかった調子で肩をすくめ、こう答えた。
<あの情報部の女……たしかティー、と言っていたかな。あれに襲われた時、庇ってやったのは他ならぬ私じゃあないか>
その言で、私は即座に理解する。ティーが私に向かって発砲してきた時、私の意思とは無関係に伸ばされたあの黒い腕は――ナイが動かしていたということらしい。
助かったといえばそうだが、とはいえ自分の体を勝手に動かされたというのはあまり、ぞっとしない話でもある。
<まあ、そう言うなよ。何だったら今だって、少し歩くのを代わってやったっていいんだよ? ……そうやって立っているだけでも、全身が砕かれるみたいに痛いだろう?>
知ったような口をきくものだ。無視して歩を進めていると、彼女は霧のように消えてまた私の少し前に立ちはだかる。
<分かるさ。今の私は、君の中にいるからね。あるいは君が、私の中にいるのか――そんなのはどちらでも同じことではあるけれど。……ともあれ調律官くん。あまりそうやって無理ばかりをするものではないよ。いくらあの子らのためと言っても、ここで君が倒れたら、何もかもが台無しじゃないか>
珍しく諭すようなことを言うナイに、私は思わず失笑をこぼす。私に残されている時間がそう長くないことは、彼女が一番知っているはずだろうに。
<ああ、そうとも。君の体は今この瞬間だって、着実に死に続けている。死んで、再生して、その繰り返し――行き着く果ては体中のありとあらゆる細胞が機能不全を起こして動かなくなる、そんな末路さ。だけどね、だからといって、あんなふうに自分の身を――文字通りに削りながら、こそぎ落としながら、がむしゃらに足掻いたところで何も変わらない。こちらの連中だって、君が死んだ後に聖女をどう使うか……君だって考えないわけじゃないだろう>
笑みを消してそう私に告げる彼女に、私は沈黙で返す。彼女の言うことは度し難いくらいに正しいし、何より私が目を背け続けていたことに他ならなかった。
ティーも、ヴィルも。帝政圏に属する者たちは当然、ただの慈善事業で聖女たちを受け入れたわけではない。何かしらの目的のために、こちらに協力しているに過ぎないのだ。
そしてそれは――眼の前にいるこの「神」とやらも、例外ではないだろう。
ナイ。そう自称する彼女の目的をすら、私は未だに知りはしないのだから。
<目的、ね>
私の心を読んだのか、あるいはそこに、彼我の区別などないのかもしれないが。ぽつりとそう呟いて、少女は小さく笑った。
<別段、語るべきことなどないさ。私はただ、約束を果たそうとしているだけだから>
以前から、何度か繰り返したことのあるやりとり。答えは決まって、同じだった。
彼女の表情からはその真偽を読み取ることはできない。だからこそ、信じるには足りないが――とはいえ今は、こんな胡乱な存在くらいしか頼るものはいない。
連邦だろうと、帝政圏だろうと変わらない。誰もが聖女たちに、価値を見出している。
あわよくば彼女たちを利用して、何かを企もうとしている。
そんな最中に、聖女たちだけを遺すわけにはいかない。
この帝政圏で、彼女たちの確たる居場所を作るまでは――私は。
<ああ、そうだ。その意気だよ、我が相棒。だから……よく考えることだ。君が今、本当にするべきことを。本当に、必要なことをね>
そんな声だけを残して、夜闇に溶けて消える彼女。
どこにもその姿がないのを見てとると――熱を帯びた肺臓を冷ますため、私はもう一度だけ冷たい夜の空気を吸って、吐いた。
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