《カクヨム限定・特別続編!》 『死にたがりの聖女に幸せな終末を。 -壊れた神の箱庭で-』
■0――独白。私がこの手に、掴んだものは。
■0――独白。私がこの手に、掴んだものは。
これで、良かったのだろうか。
手元に残された一枚の写真を見るたびに、私はそう思わずにはいられない。
それはポラロイドカメラで撮影された、少しよれたカラー写真。
被写体となっているのは二人の人間。一人は薄桃色と白のまだら色の髪の少女で、もう一人は――仮面を着けた黒髪の、軍用コートを着込んだ長身の人物。
背景は、どこかの街角のようだ。少女の左手は仮面の人物の右手の裾を照れくさそうに掴んでいて、その顔にはどこか恥ずかしげな、けれど花が咲いたような明るい笑顔が浮かんでいる。
それはまるで、幸せな時間をぎゅっと押し込めたような一枚で。
けれどそれが永遠ではなかったことを、私は既に知っている。
痛いほどに、痛すぎるほどに、知っている。
――幸せな終末。めでたし、めでたし、で幕を閉じることができるのは、それが単なる物語に過ぎないからだ。
どんな物語にも、ハッピーエンドは訪れる。それがたとえどんなに辛くても、苦しくても、幸せな一瞬で時計の針を止めることができればそれは、幸せな終末〈ハッピーエンド〉たりうるからだ。
けれど世界は、そうではない。
時間が進めば、世界というものはいとも簡単に変容を遂げてしまう。刹那に掴んだ儚い幸福は、いとも簡単に現実という名の残酷な蛇に呑まれて消えてしまう。
だから私は、考える。
二人が選んだその道の、その果てに得たであろう答えについて、思いを馳せる。
これで、良かったのだろうか。
常にそう自問しながら、私はまだ、時計の針を進め続けている。
……だからこそ、今こそ私が、語らなければいけない。
この写真に写った、二人の話を。
もうここにはいない、一人の話を。
これは――幸せな終末の、あるいは醜悪なる蛇足のその先の話。
続くべきではなかった、世界の話だ。
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