■3──識別コードA‐037・060(6)
■
十一月二十五日。
──。
「……すみません、
医務室のベッドに横たわりながらどこかふわふわとした調子で
「いいわよ礼なんて。あのまま模擬戦続けてぶっ倒れられたりでもしたら困るもの」
「うぅ……すみません……」
心配半分、
本日の訓練でのこと。朝から体調が悪かったという彼女は、模擬戦の最中に座り込んでしまったのだという。
診察してみると微熱もあり、恐らくは日頃の疲労による風邪──もっと限定的に言うなら、編み物に根を詰めすぎたせいだろう。そんなわけでこうして、
「全く。具合が悪いならちゃんと事前にそう言いなさいな。無理したってろくなことにはならないんだから」
「はい……」
険しい表情で説教する
そんな私の様子に勘付いたのか、
「何か今、ムカつくことを考えたでしょ」
何のことかとはぐらかすと、彼女は少し照れの混じった表情でこちらを
「先生。この子、大丈夫そう?」
彼女の問いに、私は改めて
微熱と
いつぞやの
そう告げると、しかし
「……でも、その。
「ダメよ」
言いかけた
「知ってるのよ。
「……う。でも、もうあんまり日がなくて」
「『でも』じゃない。自分の体調管理だって兵士の仕事なんだから」
厳しい口調でそう言うと、
「それじゃあ私は戻るけど、
思い出したとばかりに
「今日のところは、編み物禁止」
「うぅ……はい……」
そう言い残して足早に去っていく
見るからにしょんぼりとした表情で
そう言い添えると、
「だいじょうぶです、分かってます、
そう
……
そう告げると、彼女は少し面食らった顔で──それからその表情を少しだけ柔らかくして、小さく
「……そうですね。多分、そうだと思います。
はにかんだようにそう
「
同じようなことを、
思わずそう口に出すと、
「
言ってしまった手前、はぐらかすのもかえって不自然になる。どうしたものかと返答に詰まっていた、丁度その時のことだった。
どたどたと慌ただしい足音の後、壊れそうな勢いで医務室の扉が開いて。
「みーちゃん、みーちゃん、大丈夫!?」
大きな声でそう呼びながら入ってきたのは、
恐らく全速力で駆けつけたのだろう。冬だというのに訓練着を汗で
「やっちゃんから、みーちゃんが倒れたって今さっき聞いて! 私びっくりして、慌てて抜けてきて──ああでもそうだ、今ケンカしてたんだ……じゃなくて、えっと、あうあうあう」
混乱しきった様子でぐわんぐわんと目を回しながら
その手には──編みかけの、ワインレッドのマフラーが握られていた。
「……
「えっとね、みーちゃんと仲直りしようと思って、仲直りついでになにかプレゼントできないかなって思って作ってたんだけど……その、まだできてなくて」
しどろもどろにそう
「……私が、みーちゃんに
そう言って
「ごめんね、
ほとんど泣きそうになりながらそう言って、小さな手で
そんな彼女に、
「ふぇっくし!」
「ちょっと待っててね、
そう言って隣の休憩室へと入っていき、一分ほどして戻ってきた彼女の手には、
少し短いそれを
「
申し訳なさそうにそう
「ふふ、おそろいだ」
「……あはは、そうだね」
「一緒に、作ろうか」
「うん。一緒に、作ろう」
そう言って、笑い合う二人。
編みかけのマフラーを首に巻いて笑う彼女たちの表情は、雨上がりの空みたいに晴れやかで。
──もう、心配することはなさそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます