■3──識別コードA‐037・060(5)
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──通信記録、再生開始。
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<<……引き続き、貴官の速やかな目標の達成を期待する。
>>……
──通信記録終了。
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十一月二十日。今日は
「……うーん、なかなか難しいなぁ、編み物って」
休憩室の机に身を乗り出すようにして棒針を動かす彼女──
どうしてこうなったのか……と言えば、事の起こりは二日前。
「内緒の相談があるの!」と、内緒という単語の意味を調べ直せと言いたくなるほどのはつらつとした声で叫びながら医務室に飛び込んできた彼女はそのままの勢いで私をつかまえて休憩室へと引きずり込み、半ば一方的に「相談」とやらを始めた。
そしてさらに。丁度近くに置いてあった
「……新しいマフラー、みーちゃん喜んでくれるかなぁ」
編みかけのワインレッド色のマフラーを広げながら、わくわくとした様子で
……まあ、なんというか。
てきぱきと進めていくうちに、ほどなくして
「もうすぐ
そう息巻いて手を動かす彼女に、張り切ってるな、と言葉を漏らす。
すると
「そりゃもう! ……何せみーちゃんにはいつも、助けてもらってるからね」
鼻息荒くそんなことを言う
さらに何かを言おうとしたところで──私は彼女の手元に気付く。
私が指摘すると、彼女は不思議そうに指を見た後その顔に驚きを浮かべる。
「わわわ、気付かなかった」
……
それは兵士としては一見利点のようでもあるが──けれどやはり、欠落だ。
痛覚がない。
それはつまり、自身に迫る危険に対して鈍感であることに他ならないからだ。
作業を中断させて指の
「前にも、こんなことあったなぁ」
「あ、うん。先生が来るよりもっと前の話……っていうか、もっともっと前。私とみーちゃんがまだ
製造間もない聖女たちはまず、生まれた
……そうした一連の選定を経た上で、彼女たちは「箱庭」へと送られるのだ。
「私さ、出来損ないだったんだよね。
「廃棄物」。
……つまりは、失敗作として間引かれるのだ。
現在製造されている聖女──正確に言えばその製造番号は、098まで。つまり今現在までの間に九十八体の聖女が造られたことになる。
しかし今、この箱庭に所属しているのは三十五体。過去に病没した個体、現在
「……『加速』の
「でも、『廃棄物』の候補になって。後がなくなった私は──ある日の模擬戦で、力を使うことにした。私が有用だってことを証明しなきゃいけなかったから、出せる限りの速度を出そうとして……それで、力を暴走させた」
静かな表情でそう告げると、彼女はぎゅっと、拳を握る。
「馬鹿みたいでさ。速さに体がついていけなくて、そのまま壁に激突しそうになって──そんな時、みーちゃんが助けてくれたの。
「……ともあれそれ以降、私の
そう告げる彼女の言葉に、私はやや意外なものを感じる。
いつも
「あはは、確かにね。みーちゃん、人見知りするところがあるから。……でも、今のみーちゃんもおんなじだよ。今もずっと、みーちゃんはみーちゃんだよ」
そう言って、彼女はわずかにその表情を陰らせる。
「……今回のケンカもね。私が、悪かったんだ。模擬戦で、調子に乗ってまた速度を上げすぎて──前に出過ぎたのをみーちゃんにたしなめられて。なのに私ってば、『みーちゃんはずっと後ろで隠れてればいい』なんて、売り言葉に買い言葉で言っちゃってさ──それからずっと、なんか気まずくて」
ああもう、私の馬鹿、と
そんな彼女を前にして、口にはしなかったが。
……少なくとも仲直りはそう遠くないだろうと、私は予感した。
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