■2──識別コードA‐008(3)
■
「……ふむ。
月下の鳥籠、造花の庭園。
中央に置かれた白いティーテーブルで紅茶をすすりながら、私の話を聞き終えた
「つまり先生は私に慰めてもらいに来たというわけですね。そういうことでしたらさあ、どうぞ私の胸に飛び込んできて下さいな。よしよししてあげます」
そういうことではない。
両腕を広げてみせる彼女に首を横に振ると、彼女は「ふむ」と小さく
「つまり先生は膝枕の方がお望みということですか」
違う。
私が再度首を横に振ると、いよいよ不思議そうな顔で彼女は小動物みたいに首をかしげる。
「それ以外というなら一体私に、どうしろと」
私が「箱庭」に配属されたのはおよそ七ヶ月ほど前のことである。ゆえに、私よりも彼女の方が
であるから、彼女との間の確執の解消を相談しに来たのだと。そう返答すると──
「どうして私が先生と他の女の仲を取り持たなければいけないんですか……と言いたいところですが、相手が
そう言う通り、
訓練の際には二人で組んでいることが多いし、何より──二人は現状生き残っているたった二人の「一桁台」。何かしら、通じるところを感じ合っているのかもしれない。
「ふふ。名探偵
どうやら書庫に収蔵されている
「つまりですね。
下唇を
「なに、簡単な推理ですよ先生。『ツンデレ』というのは古典文学から伝わる好意の裏返し行為──つまりあの子が先生にきつく当たるのも、好意の裏返しということに他ならないでしょう」
他ならなくないだろう。そもそも、推理ですらない。そう返すと、彼女は困ったように眉尻を下げて唇を
「むう。恋愛小説マスターと
私としては、彼女がなぜそんなに自信満々にこの説を提唱できるのかの方が不思議だった。
「そりゃあ
どうやら、彼女と私とでは前提条件に大分
……しばらく彼女だけ書庫を出禁にすべきかもしれない、と彼女の情操教育の方向性について検討しつつ、私は話題を戻す。
むしろ──今の彼女について問題とするべきことは、他にあった。
「
思案顔で紅茶を一口すすると、
真夜中に一人、鍛錬を続けていた彼女のことを話す。
「……なるほど。全く、あの子にも困ったものですね」
小さく
「……心当たりがないとは言いません。ですが──いえ、やめておきましょう」
そんなぼやけた答えに問いを返そうとする前に、
「先生。確か明日、野戦訓練がありましたよね」
唐突にそう問うてくる彼女に、私は虚を突かれながらも
予定されている訓練は、付近の山にて実戦形式での戦闘演習を行うというものだった。
それがどうしたのかと問うと、
「いえ、別に。ただ──」
そう言って、彼女はその顔に何やら含みのある笑顔を浮かべて。
「ひとつ言えるのは、先生のお悩みが明日には解決するでしょう、ということです」
──なんて。そんなことを言ってきたのであった。
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