■1──識別コードA‐009(2)
■
──記録番号1942‐05‐18。
「聖女計画」。遺伝子改変による人類超越種の創造計画。
大戦中、連邦軍部特殊神学機関──「アカデミー」を主体として秘密裏に推し進められたこの計画は、ごく端的に述べるならば、つまりは「超人の兵士」を生み出す研究である。
受精卵レベルでのDNA操作を施すことで遺伝子異常を誘発させ、「異能」を保有する進化人類を人為的に生み出し、兵士として運用する。
平時であれば決して許されないであろう、そんな道理の外にある
そして、「彼女」たちが生み出された。
──。
「おっけー、準備完了!」
アカデミー直轄訓練研究施設、通称「箱庭」。
学舎棟の正面に広がる運動場に、はつらつとした声が響き渡った。
声の主はA‐060、個体識別名「
他の聖女たちと比べて均整のとれた女性的な体つきを薄手の運動着に包み、
「みーちゃん、そっちはどう?」
「あっ、うん、大丈夫!」
小銃を支えにぞんざいにストレッチをしながら、そう声を掛ける
人形のように愛らしい顔立ちに、しかし不安の色を浮かべながら彼女──A‐037「
「い、いつでも準備完了だよ、
周囲を囲む、同じくらいかもっと幼い少女たちから「頑張れー!」と
「おっけ。じゃあ、始めようか──!」
そう宣言するや
瞬間、彼女の姿がかき消えて。辺りに
「もらった!」
下段から、銃剣での斬り上げ。回避することの
一体どうしたことか。銃剣の切っ先は彼女の肌から数センチ先で、何かに
「
「っ!」
攻撃が
「さっすが。腕を上げたね、みーちゃん! ……けど!」
「えっ!?」
今まさに振り下ろそうとしたタイミングで、
「りゃあ!」
今度は
停止した二人を、横合いでじっと見つめていた黒髪の少女。
「……勝負あり。
分厚い眼鏡を直しながらそう告げた彼女はA‐008、「
静かな、けれど
「……負け、ました」
「やったー!」
大きく拳を突き上げて喜んだ後、彼女は座り込んだ
「やー、よかった。やっとみーちゃんから一本取れたよー」
「やっと、って言っても。能力を使わない戦闘訓練ではわたし、
「なに言ってるのさみーちゃん。私たちは『
そう言って同意を求めるように
「……
「でしょー」
「けれど能力を思い通りに発揮できない場合、あるいは能力のみで対応しきれない局面もありうる以上、兵士としての基本的な戦闘技能を習得しておくことも重要となるわ」
「むう」
「そう、ですよね……」
なぜか二人共落ち込んだかと思うと、舌の根も乾かぬうちに
「みーちゃん、もっかいやろ! 今度は能力なしで! あと、やっちゃんも一緒に!」
「ええ、またですか!?」「ちょっと、何で私まで」
「当然! 私たちはまだ実戦組じゃないけど……いつ本当に出撃することになるか分からないんだし、今のうちにやるだけやっとかなきゃ!」
「それは、そうですけど……」
「
彼女たちはまだ訓練中の身。周りでやいやいと騒ぎ立てている幼い少女たちも皆、そうだ。
……そもそも、今のところ実戦に送り出された聖女は初期生産の「九番」まで。……正確に言えば、さらにそこから八番、「
現段階で九十八番まで製造された聖女たちの中で──たったの八体しかいないのだ。
どうしてかと理由を言えば、ひとつは訓練期間の問題。「
そして、もうひとつは──
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