第32話 退院

退院        


待ちに待った退院の10月12日がやってきた。


本当は10月5日だったのであるが、一応念には念をいれての処置であった。


長い長い2ヵ月間であった。


私たちよりも本人が一番長かったであろう。


人一倍、外で遊ぶのが好きな子供だけに、とにかくうれしそうであった。


「ラピート乗せてよ」

「ハンバーガーかってよ」

「遊園地つれてってよ」

とかとにかく約束事を全部履行しなくてはならないハメになってしまった。


「よっしゃ、心配せんでも全部やったげる!」

なんと気持ちのいい日であったか。


病室を出て山口先生にお礼をのべました。


先生はこう言いました「医学界の奇跡だなあ・・」と。


そして小児科の各看護婦さんにお別れを言った後、内科病棟4階の以前お世話になった看護婦さんのところへも行きました。

看護婦 1

「えー、なりくん歩けるん?」

看護婦 2

「よくがんばったねえー」

看護婦 3

「目を開いたらこんな顔してたんやねえ」

とかいろいろな祝福のことばをいただきました。


なりゆき

「え?おねちゃんたちだれ?」


看護婦 2

「あっそうかあ、ずっと寝てたから私たちのこと知らないんだあ」と大笑いしました。


看護婦 1

「本当は、今だから言えるけど、もうダメかもしれないと思った事が何回もあったんですよ」とある看護婦さんに言われました。


そんな時にでもいつも「大丈夫ですよ!」と明るく励ましてくれていたのです。


本当に皆さん有難うございました。


皆さんの事は一生忘れません。


親子3人揃って、玄関の門を跨いだ時、無常の喜びと感謝の気持ちでいっぱいでした。


もうお金もなにもいらない、健康であれさえすれば....と本気でそう考えました。


まだまだ家でのリハビリの訓練が残ってはいたものの、これまでのあのつらい気持ちを思い出すとどんな苦労でも乗り越えられる自信がついたと思います。


現在、なりゆきはわたしの隣でこの原稿を書くのを、眺めています。


家でのリハビリの成果もあってか、今は一切普通の子と変わりません。


最初は足に震えが残ってましたがそれも今はどうにか治まりました。


山口先生の最後の言葉を思い出しています。

「みんなで100万分の1を勝ち取りましたね」

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