第31話 子供の回復力

こどもの回復力      


最初にリハビリルームにはいった頃、70才くらいのおばあちゃんが一人いた。


このおばあちゃんは手が悪いらしくて、いつも「お手玉を投げては拾って」の手のリハビリを一生懸命やっていた。


そのおばあちゃんは、最初、横で苦しそうにはいずりまわるなりゆきを見て「小さいお子さんなのに歩けないんですか?かわいそうにねえ・・・」と本当に慈悲深い目で涙を流してみていてくれた。


次の日

ハイハイができるようになった。


水泳の平泳ぎのようになんとか手を前に出して体を前にずらせるようになった。


おばあちゃんはまだ同じようにお手玉をしていた。


三日目

赤ちゃんのように膝をたてて這えるようになった。


まだ手や足に感覚が戻ってないらしく生まれたばかりの馬のように膝がブルブル震えていた。


四日目

ハシゴを利用してのつかまり立ちの練習。

なんとか震えてながら立つことができた。


立つだけでもやっとなのに、なりゆきはハシゴを登ろうとして、それができなくて悔しそうであった。


五日目

ハシゴを使っての横歩きの練習。

なんとかカニのように横歩きで平行移動ができた。

ただ足の負担が大きいらしく立っている間中、足がプルプル震えていた。


六日目

自分の体より大きなボールを使っての、押しながら歩く練習。

よほど嬉しいのかボールの上にまとわりついて遊んでいた。

このころになると顔の表情がだいぶ楽しそうに笑うようになっていた。


七日目

平行棒を使っての歩行練習。

ヨタヨタながらも歩行は、つかまらずにでも出来るようになっていた。


八日目

三輪車を使っての足腰の訓練。

久しぶりの三輪車がよほど嬉しかったのか、「キャツキャツ」と大笑いして乗っていた。

しかし以前のように思うようにスピードが出ないのでちょっと残念そうであった。


九日目

三輪車を使っての中庭での走行。

真ん中のちょっと勾配のあるところでは、しんどそうであったが明るく笑いながら乗っていた。


この間中となりのおばあちゃんはずっと、同じ動作のお手玉をしてなりゆきの回復をみていてくれた。


おばあちゃん

「10日間でこんなによくなるとはねえ・・・わたしは1年間もこのお手玉だけをやっているんですよ。子供は治りが早いって言いますものねえ、うらやましいです・・・・」


これらのメニューを毎日完璧にこなしていったので、2週間後には「もう自宅からの通院リハビリでも結構ですよ」といわれた。


「正直言って最初にリハビリ室に来た時は、2ヵ月ぐらいかかるかなあと思っていましたが、本当にこの子の回復力には驚きました。」と女のリハビリ担当医のかたが言っていました。


それ位、親のわれわれが見ても子供の回復の速さには驚嘆させられました。

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