第30話 車椅子

車椅子        


今まではあまり気にもとめてなかったが、電車に乗った時によく車椅子に乗った子が目につくようになってきた。


その子供の事もさる事ながら、親御さんの心痛をおもうと、本当にかわいそうに思えてきてのだ。


今まであまりやったこともない、車椅子を電車に乗せる手伝いを率先してやったものである。


超能力でどんな病気でも治癒できる元商社マンという話題が週刊誌に載っていた。


この人は手をかざすだけでどんな病気も治す事ができるらしい。


実際にアプローチしてお願いしようかと真剣に考えたものである。


車椅子に乗ってからは、なりゆきの行動半径はうんと広がった。


まず他の病室に行って、同年代のなんらかの病気にかかっている子供たちと会話をしたり、いままでおしめで用をたしていたのが、トイレへいけるようになったりもした。


「やっちゃん」というななめむかいの子がいた。


この子は幼児の時に大きなガラスに全身をぶつけて、中枢神経を傷つけ、やはり歩行と言語が不自由であった。


この子となりゆきは、3才ほど年がちがったが、歩けないことでは同じであったのでよく病室へいっては絵本などを一緒に読んでいた。


御両親とも親しくさせていただいた。


お母さんは気丈な人で、歩行器によりかかって歩いている自分の息子がだだをこねたり、泣いたりすると真剣に怒っていた。


甘やかさないでまわりの普通の子と区別しないのが自分の方針だそうだ。


ハンデを背負った子を怒るのは勇気のいる事であるし、とても自分にはできないと感心したものである。


むかいの女の子は「川崎病」といって、現在医療機関が研究している病気で、頭を坊主にしていた。


いつも赤いバンダナをまいていたのが印象的であった。


にもかかわらず、この子はメチャクチャ明かるかった。


いつもなりゆきの病室に来ては「おっちゃん、本かして」といって、一緒に読んだ覚えがある。


とにかく感心したのは、それぞれの子供がかなり難易度が高い病気であるにもかかわらず例外なくみんな明るかった事である。


むしろ暗かったのは、親のほうであった。  


内科の雰囲気とはここがまるで違っていた。


生命力旺盛な子供たちばかりだからかもしれない。


逆にこちらが励まされる時があったくらいである。

「おっちゃん、なりくん大丈夫やからあんまり心配せんとき」と。


「あの時のみんな、ありがとう、必ず元気になって下さい。」

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