第14話 病院の生活

午前12時


私は相変わらずなりゆきの横で看病していた。


突然「ウアー、ウオー」といきなり廊下で大声がした。


と同時に「バチャバチャ」となにかが這いずり回る音がして看護婦さんが慌てて二~三名走ってきた。


「お爺ちゃん、またトイレ行けなかったの?廊下中オシッコだらけになってしまったよ。ハイッ、パジャマ脱いできがえ着替えしょうね」

たいへんな作業だ。


「白衣の天使」とはよくいったもので、本当に自分の肉親でもたいへんな看護を夜どおし中、他人のために尽くす姿は感動的であった。


これから何ヵ月もの間、彼女達の奮闘ぶりを至近距離でまざまざと見せてもらうことになる。


明け方、今度はとなりの5号室からまた「ぎゃー」という大声とベッドをドシンドシンと揺らす大きな音が聞こえてきた。


看護婦さんがまた走ってきて、必死に4~5人がドタバタあわてまくっていた。


大声で叫び、いろいろ指示していた。


「今度はなんだ?」と思うまもなく、いきなり「シーン」と無音状態になってしまった。


聞くと、ガンの末期の患者だそうで、死ぬ前の断末魔の叫びであったそうだ。


そういえば昨日の夜から待合室で家族の方がたくさん座っていたのがそうだったのか。


おそらく「今夜が山です」と病院側の報せを聞いて集まっていたんだなあと思わず合掌する。


この瞬間に隣の部屋で一つの命が消えた。


ちょっと時間をおいて、ドアを開けて見ると、おじいちゃんの死体を乗せたベッドをカラカラと看護婦さんがエレベーターに押していく姿があった。


病院に寝泊りしてわずか2日目なのに、さまざまな人間模様を勉強させられた。


普段の生活では体験できないことだ。


厳格な「人間の死」というものに対して私は、祖母の時の一回しか経験していなかったのが病院ではしょっちゅう起こっているんだなあと感心したのである。


トイレに行く時、ナースステーションの横を通る。


そこにはオシログラフがあって、いつも「ピッピッピ」と規則正しい音が聞こえていた。


それがなりゆきの心拍音である。


病室から離れていても異常がないかどうか看護婦さんがすぐわかるようにここにセットされているのである。


その「ピッピッピ」の音を聞く度に「おとうさん、がんばってるよ!」というなりゆきの言葉のように感じられた。

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