第10話 おじいちゃん談話

おじいちゃん談話


「これが本当にあの元気な孫の姿なのか?」

なんと腕と足に何ヵ所もパイプで薬を投入されてベットに横たわっている孫の姿を見て、代われるものなら代わってやりたいと思った。


「なんとか助かってくれ、あの元気な声でもう一度『オジイチャン』と呼んでくれ」とただただ目頭が熱くなった。


重い心を病室に残し、泣き続ける妻に

「なりゆきも頑張っている。私たちも息子夫婦にこれ以上負担を掛けぬよう、二人でできるかぎりの応援をしよう」

と決断し夜の看護を引き受け、わたしが折紙に「なりゆき元気になれ!オジイチャンとまた山登りしよう」と書き、妻がその紙で涙を流しつつ千羽鶴を折った。


私の目は点滴の薬量と体温、呼吸状態がわかる機械の目盛りをずっと見つめての作業であった。


何も分からない素人故、不安でいっぱいでした。


自分も小さいころ麻疹にかかった経験があるが、その時は広い部屋で寝かされて障子ごしに聞こえる近所の子供たちの遊ぶ声が気になって寝れなかった思い出がある。


顔にはブツブツができて熱はあったが、起きて障子の穴から近所の子供たちを覗くぐらいの元気はあったと思う。


柱時計の文字盤が消え、振り子が左右に振れる鈍い光と音のみが聞こえ、母が夜風に当たるとよくないと雨戸を早めに閉め、厚めの布団を掛けてくれた。


雨戸の節目から差し込む夕日が、外の風景をピンホールカメラの原理で逆さに障子に映していた。


このような状態で2日ほど寝たら簡単に治ったので、まさか近代医療の発達した平成になって麻疹で死んだりマヒしたりするとは考えてもみなかった。

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