長男の死亡宣告

第4話 起きてこない

丸一日起きてこなかった日の深夜　　　　

１９９４年８月１５日　月曜日　　

深夜１２時

妻

「お父さん、なりゆきはまだ寝たまんまやね、本当に大丈夫かしら？もしものことがないように今から病院連れてってくれない？」

私

「そんなに心配やったら、すぐに緊急病院連れていくわ、保険証出してくれ」

※

１２時３０分

私はぐったりしたなりゆきをかかえて、車の助手席に乗せた。

15分ほど車は走り、大阪府高槻市立三島救急病院に到着した。

抱っこする時に手を首の下にそえる時にうわ言のように

「イタイ、イタイ」

といっていたのが妙にひっかかった・・・

救急病院のその日の担当の先生は医大生のインターンかなにかの学生風の若い人であった。

先生

「どうされましたか？」

私

「長男が麻疹で、熱が四十度近くずっと続いています。今日は一日中寝ていてほとんど何も食べていないんです」と先生に告げた。

その後は看護婦さんが先生の指示を受けて言った

「それでは体温を計りますから、体温計を脇の下にいれて３分ぐらいたって数字を報せて下さい」

その間、待合室のベンチの上でグッタリしたなりゆきの脇の下に体温計を入れて計ったら、熱は引いていなくて３９度５分あった。

そしてほとんど、目も開いてない意識の半分無い状態で先生に診てもらった。

先生

「麻疹の熱が、日中のこの暑さですのでなかなか下がらないんですね。ご飯を摂っていないので、点滴を普通より多めに５００ミリリットル注入しておきますので、多分これで大丈夫でしょう」

私

「わかりました。よろしくお願いします」

先生

「点滴の注入には、量が多いから２時間ぐらいかかりますが時間は大丈夫ですか？」

私

「はい！そんな事言っておれませんので早くお願いします」

年配の看護婦さんが長男の目元と鼻、口をていねいに拭いてくれた。

そして

「ぼく、チョット痛いよ。我慢してね」

といって点滴の針を刺した。

その時もなりゆきは無言であった。

私は処置室を出て廊下の椅子に座って待っていた。

※

午前　２時３０分

５００ミリリットルの点滴の注入が終わり、支払いが済んで車に乗せる時、うわ言のようにまだ「いたい、いたい」と言っていたのが気にかかった。

思えばその言葉が退院するまでに聞いた最後の言葉であった。

家について私は彼を居間に横たえた。

妻

「どうだった？」

私

「先生が多めの点滴を打てば大丈夫と言ってた。早めに病院に行ってよかった」

私は心の中で

「医者もああ言ったことだし、処置として点滴も打ったんだからもう大丈夫。一晩寝れば多分元気になるだろう」という安堵の気持ちで床についた。

この時の判断が、のちのち悔やまれたのであった。