第6話 答え
「ん?あぁ、後輩だけど、何で知ってるの?」
食器を洗う手を止めて、私を真っすぐ見て圭太は言った。私から中野海という名前が出たことに驚いてはいるけど、取り乱すような様子は見えない。
「お昼過ぎに家に来て『圭太さんいますか?』って。いないって言ったら帰っていったよ。大分若いように思ったけど。」
手紙と写真のことは言わなかった。だって、大学生っぽい彼が突然訪ねてきて、あなたと不倫しているから別れて下さいって手紙とベッド写真を置いていったなんて、さすがに言えなかった。
「え、まじで。いや、飲み屋でたまたま知り合った子なんだよ。大学も同じで、就職のこととか相談のってるうちに仲良くなってさ。俺のこと驚かせようと思って来たのかな。」
中野海が自分がいないときに家に来たことに驚いたらしいが、中野海との関係をすらすらと説明する。
「普通、圭太に連絡してから来るんじゃないの?」
「たしかに。俺が連絡見落としてんのかも。あとで見てみる。」
圭太が食器洗いを再開しながら言った。「連絡がとれなくても急に家に来るような仲なの?」「彼、本当は何しに来たと思う?」「変な写真と手紙を置いていったのよ」聞きたいことも言いたいこともたくさんあったけれど、それ以上はつっこめなかった。
「じゃあ、俺、もう少し飲みながらテレビ見るけど、里奈は?」
食器洗いを終えた圭太が聞く。
「あたし、早いけど休もうかな。」
「そっか、お休み。」
「うん、お休み。」
時刻は21時も回っていないが、休むことにした。精神的な疲れがひどい。それに圭太とこれ以上いてもきっとリラックスできない。
寝る支度をして寝室に向かう。リビングからはいつも一緒に見る番組の音が聞こえた。
ベッドに横たわり目をつぶってさっきの圭太の様子を思い出す。圭太の説明はなんだか腑に落ちないし、何かを隠している気がした。私は、中野海と圭太が不倫していることをそれほどありえないことではないと思い始めているのか。
これから、明日からどうすればいいのだろう。今日1日の出来事をなかったことにすれば、さっきの圭太の答えに納得すれば、これ以上考えることも何もないが、そんなことは出来るはずもない。一度生まれてしまった疑惑は私の思考を侵食していくだろう。
ぐるぐると繰り返す思考の中、疲れが私を眠りにつかせてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます