第5話 問い

 圭太が帰ってくるまで、あと2時間弱。午前中に家事を済ませてしまったせいでやることがなくなってしまった。しかし、もう映画を見る気にはならない。


 テレビの前のソファに沈んで、テレビを点ける。4年前の恋愛ドラマが再放送されていた。この女優さん、最近結婚したんだっけ。画面の中の彼女は、最近、年上の人気俳優と結婚してビックカップル誕生と騒がれていた。私と圭太の結婚は、何年前だっけ。付き合ってからは10年、結婚して7年が経ったのか。早いなぁ。

 そんなことより、圭太が帰ってきてからのことを考えなければ。私はどうすればいいのだろう。今日あったことを全て伝えて圭太に問いただすべきなのか、何もなかったかのように振る舞うべきなのか。いや、何事もなかったようには、いつも通りには出来ない。それに今日聞くタイミングを逃したらさらに言いづらくなってしう。そう、まだいたずらやどっきりの可能性もあるのだから。うん、それがいい。

 あ、お風呂を沸かさなきゃ。こんなに激しい雨だ、圭太も雨に濡れて帰ってくるだろう。まだ時間もあるし、私も先に入ってしまおう。私はいくらか落ち着いた気持ちでソファから立ち上がった。




 「ただいまー。ごめん、タオル持ってきてー。」

 私がお風呂からあがって、一息ついているときに圭太は帰ってきた。18時すぎで思っていたよりも早かった。

 「おかえり、早かったね。」

 「うん。雨すごいし、仕事も片付いてたから、今日は早めに帰ろうってことになって。」

 「そっか。あ、お風呂湧いてるからそのまま入ってきて。私も先に入っちゃたから。」

 「うん。」

 私は玄関で脱いだスーツを預かり、シャツに下着姿の圭太はタオルと靴下を持ってお風呂場に向かう。大丈夫、いつも通り自然な感じで話せてるはず。


 

 「ふぅ、さっぱりしたー。」

 「はい、ビール。」

 「ん、ありがとう。」

 お風呂から上がりTシャツに短パン姿の圭太に冷えたビールを手渡す。

 「ちょっと早いけど、もうご飯でいいよね。」

 「うん。」

 テーブルにハンバーグとスープ、サラダを並べていく。圭太は今日のテレビ表を確認して、芸人のトーク番組にチャンネルを合わせた。

 「最近、ハレルパレル、よく出てるなー。」

 「そうだね。モノマネも面白いけど、トークも出来るしね。」

 「じゃあ、今日もお疲れ様。」

 「お疲れ様。私は休みだったけど。」

 圭太は飲みかけの缶ビール、私も缶ビールを開けて、乾杯する。そして二人でテレビを見ながらご飯を食べる。



 「ごちそうさま。」

 中野海のことを言い出さないままご飯を食べ終わってしまった。圭太が私の分の食器も片付けてくれる。食器洗いは圭太の役割だ。家事の負担は私の方が大きいが、共働きでもあるし、もともと亭主関白気質ではない圭太は家事を手伝ってくれる。


 「今日何してたの?」

 食器を洗いながら圭太が聞いてきた。

 これは言うチャンスじゃないか。さりげなく、さりげなく。

 「ん-、午前中は掃除とか買い物とかして。

  あ、あのさ、中野海さんってさ、知り合い?」

 平常心を装ってさりげなく聞けた。





 自分の心臓の音が聞こえる。

 

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