第4話 雨

 写真と手紙を置き、外を見ながらすっかり冷たくなったカフェオレを飲む。気づけば、雨が降り出しそうなほど暗い雲が空を覆っていた。底の方に砂糖がたまったカフェオレは、残すか迷ったが、一気に飲み干した。


 そういえば、今何時なのだろう。スマホの電源ボタンを押すと、ロック画面に15時23分という時刻、それから、天気やスポーツ、エンタメなど、今日のニュースが表示されていた。思っていたよりも時間が過ぎていないことにほっとしつつ、天気のニュースに目を止める。市内には大雨注意報が出されているらしい。これから激しく降り出すのだろう。干したままの洗濯物を取り込まなければ。しかし、この数時間で仕事終わりの数倍の疲労を感じた脳と体は動くことを拒否する。洗濯物が何だっていうんだ、今日はもう何もしたくない。


 いや、やっぱりだめだ。洗濯物が濡れてしまえば、また洗い直しで面倒は2倍。それに圭太が19時前には帰ってくる。非日常的なことが起こっても、日常は止まってくれない。「よしっ」と声に出して、反動をつけて勢いよく立ち上がる。

 

 ベランダに出ると生ぬるく湿った風が吹いていた。やっぱりこの時期は乾かないよなぁ。少し湿っている洗濯物は取り入れて、室内に干していくことにする。


 もしかしたら、中野海と圭太は友達で、どっきりなんじゃないか。疲れたせいか動作は緩慢になるが、圭太と中野海について考えることはやめられない。二人であの写真を撮って、圭太が私が休みの日を教えて。そしたら、辻褄は合う。でも、何のために?私は驚くから、そりゃサプライズにはなるけれど、「えー、もう圭太が男と不倫してると思って焦ったよ。本当に良かった。」とはならないし、むしろ「何してんの?ふざけてこんなことしたの?」と怒ることは圭太なら想像できるだろう。それに圭太はこんな無意味なことしない。

 じゃあ、やっぱり中野海のいたずら?でも、それこそ目的が分からないし、あのベッド写真をどうやって撮ったのか。


 洗濯物を室内に干し終わったので、トイレで用を足してから、リビングに戻る。すっかり暗くなったので電気を点ける。座ってしまったらまた動けなくなる気がして、流しに置きっぱなしだった食器と飲み終わったマグカップを洗うことにした。


 もし、もし、本当に圭太と中野海が不倫関係にあるのだとしたら。「一昨年の春頃から」と、手紙には書いてあったから、私は2年も自分の夫が不倫していることに気付かなかったということになるのか。そもそも、夫がゲイもしくはバイセクシュアルだということを知らずに結婚したということになるのか。そう、1番引っかかるのはそこだ。圭太が男を好きだなんてありえない。




 本当に?圭太が男を好きになるなんて本当にありえない?圭太が男と不倫していないなんて本当に言いきれるのか。


 

 洗った食器を片付け終わっても、考えはまとまらない。外では、ザーッという雨音とともに激しい雨が降り出していた。

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