第2話  鬼と蛇

 住人と会うかは分からないが、一応人に見られてもいい部屋着かどうかを確認して、鍵だけを持って部屋を出る。エレベーターで1階まで降り、エントランスの方を見るが、中野海はもちろん、彼以外にも人はいなかった。少しだけ安心して、ポストの中を確認した。中には数枚のデリバリーのチラシ、そして、1番上には、中野海がインターホン越しに見せたと思われる封筒があった。しかし、封筒の色は画面で見るよりもグレーに近い色だった。

 

 そっと封筒だけを手に取った。これは一体何なのだろう、開けてしまっていいのだろうか。考え込みそうになるが、ポストを閉めて思考をストップする。ここであれこれ考えるわけにはいかない。とりあえず部屋に戻ろう。


 幸い部屋に戻るまで誰にも会わなかった。今私は一体どんな顔をしているのだろう。


 部屋に戻ると、テレビを点けたままだったことに気付く。ワイドショーは終わり、刑事ドラマの再放送が流れていた。人違いだ、いたずらだ、と思っている割に動転していることに気付く。いや、自分の夫の恋人と名乗る男が突然現れたら、誰だって困惑するし、動転する。


 一回落ち着こう。いや、怖がることも何もないけれど。のども渇いたし、コーヒーでも淹れてゆっくり見てみよう。封筒をテーブルの上に置く。置きっぱなしだった食器を持って、キッチンへ向かう。食器を流しに置き、やかんに水を入れて沸かす。マグカップにコーヒードリップとペーパーフィルターをセットして、挽いた豆を一人分よりも多めに淹れた。お湯が沸き、ドリップしていくと、コーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。いつもより濃いめのコーヒーに、いつもは入れない砂糖と冷たい牛乳を入れる。ブラックですっきりしたい気持ちもあったが、すぐに飲みたかったし、甘さが欲しくなったのだ。


 出来上がったぬるいカフェオレをすすりながら、テーブルにつき、テレビを消した。封筒を眺める。裏にも表にも何も書いていない無地の封筒だ。

 

 あ、はさみを持ってくるのを忘れた。いいや、そのまま開けてしまおう。ゆっくり糊付けしてある部分を剥がしていく。


 ふぅっと一度息をはいて中身を取り出す。出てきたのは3枚の白い紙で、1枚は折りたたまれている。2枚は手触りと大きさ的に写真で、折りたたまれている紙は手紙か何かだろう。人違いだとしたら、見ることも申し訳ない気もするが、そもそも間違える方が悪い。そして、いたずらにしては手が込みすぎている。




 ためらうことは何もない。2枚の写真を一気に裏返す。





 ひゅっと喉が鳴った。


 

 




 そこには、有名なコーヒーチェーン店のコーヒーを持ち、笑顔を向ける圭太が。


 もう一枚には、上半身裸でベッドに眠る圭太と、微笑むさっきの青年が写っていた。

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