第14話 座席の確保には、座席確保券をお使いください
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それから、一週間、二週間と過ぎていき、四月も終わりに差し掛かった頃、はじめは相武くらいしか話す相手のいなかった俺もようやくクラスになじみ始めた。部活の勧誘を受けたり、放課後にゲームセンターに誘ってくれたりすることもあった。
一方で、昼休みは相武と食事を摂るのが
すっかり深夜アニメの魅力に
声優にも多少詳しくなった、と思う。しかし、あれ以来、アニメで御崎千絵里を聞くことはなく、また、学校で先輩と会うこともない。
いっそ、何日か三年生の教室の前に通って、不意遭遇戦を仕掛けようかとも血迷ったが、相武からはゴミを見るような目で見られ、それをしたらストーカーとしてお前を通報するとのお言葉まで頂戴した。俺も同じ立場だったらそうする。
「今日はここまで。次回からは漢文に入るから、教科書を忘れないように。それから相武はすぐに職員室に来なさい」
今月に入って三度目の一ノ瀬先生の呼び出しを食らった相武を後目に、俺は教室を出て食堂へ向かう。
今日はなにを食べようか。小耳にはさんだ話では、今日のA定食は親子丼で、B定食は焼き鮭らしい。どちらも魅力的だ。
なんてことを考えながら早足で食堂の扉をくぐると、既に座席率は半分ほど。うかうかしていると座る場所がなくなってしまう。
ちなみに、所持品などを置いての場所取りはNGだ。マナー的、倫理的に、というよりも物理的に。どういうことかというと、空席の上に鞄なんかを置いて離れようものなら、帰ってきた時には鞄はどこかへぶん投げられ、椅子の上には別の生徒が座っている、という具合だ。
そんな訳だから、券売機の前で迷うなんて行動は
無事親子丼とみそ汁、サラダをお盆の上に載せた俺は、すみやかに四人席のテーブルを確保。
相席は完全にほかの席が埋まりきらない限り――埋まったとしても、この時期だと中庭で食べる生徒もいる――、敬遠されがちなので、遅れてやってくる相武の席を押さえることにもなる。
かくして――
「やほー。越尾クン。相席いいかな」
「くそっ、一ノ瀬のやつ、僕にだけ課題を出しやがって」
相武と九重がやってきたのは、まったくの同時だった。
「侑真、またなンかやらかしたんだ」
「四限目が一ノ瀬の授業に替わったことを忘れてて、三限目から眠りっぱなしだったんだ。くそ、うかつだった」
数枚のプリントを机の上に放り投げると、相武は俺の対面に座る。
「ぷっぷー。だっさ。そもそも寝なきゃいいのに」
九重が俺の隣に座り、その対面に通学鞄を置いた。
「鞄?」
「うん。ボク、これからちょっと用事があってさ。ごはん食べたらそのまま帰る予定」
「特別科は簡単に早退が出来ていいな。こんなことなら、僕も特別科で受験するんだったぜ」
そういえば、九重は特別科のクラスだった。スポーツをしているような体付きには見えないし、むしろ、モデルとかそっち寄りだろう(ルックスもいいし)。
とはいえ、詮索するのは、いかに友人とて無作法だろう。話したくなったら話してくれるし、相武も話題しないということは、そういうことなのだろう。
御崎先輩もおそらく特別科だろうから、いざとなったら九重にスパイを頼むというのはどうだろうか。学年は違えど、進学科と特別科は同じ校舎だったはずだ。
「ん? どしたの、越尾クン」
などと考えながら、ぼんやりと九重を見ていると、目が合った。
御崎先輩のことを考えていたもんだから、思わず口を突いて、
「いや、九重って、良い声してるよな、と思って。確かにちょっとクセはあるけど、遠くにいてもよく聞こえる通った声だし。それこそ、声優みたい……」
我ながら馬鹿なことを言ったもんだ。以前、相武にも注意されたというのに。
同じ高校に声優がいるなんていうのは、下品な妄想、願望。断じて人に言うべきではない。
それに、いくらこの学校に芸能に通じた生徒が多いとはいえ、そもそも声優というのは養成所を経て事務所に所属するものだと、俺は学んだ。本来高校生ではなれるものではないし、例外的に御崎先輩がいるとはいえ、例外は例外ゆえに例外なのだ。
ずいぶん九重には呆れられたことだろう。そう思って、顔を上げると――
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