雷鳴の中の…群れ

森緒 源

前編 夕立

 …これは私がまだ中学校の生徒だった時の体験です。

 私は今までの人生の中でこの時の体験ほど恐ろしい思いをしたことはありません。今や完全にトラウマになっているこの体験を話すのは、正直ちょっとためらわれる感じもしますが、思い切ってお話しする気になったのは、あるいは他の誰かも同様の経験をしているかも知れない、私だけでは無いんだと、そしたらいくらかでも恐怖感を拭い去ってひょっとしたらトラウマから脱却出来るかも…と思ったからです。

 今こそこのサイトを利用して、この話をしようと決心したのです。

 恐怖体験の共有…しかし果たしてこれを読んだ方がどう感じるか、私には分かりません。

 前置きを長々言っても仕方ありませんね。

 それではあの、世にもおぞましい体験を…話しますので、最後まで…しっかりお付き合いをお願いします。


 …あれは私が中学二年生の夏…七月の、夏休みに入る少し前の暑い日のことでした。

 授業が終わって下校時間となり、私は幼稚園の時から一緒という幼なじみの友達、浅井君と二人で校舎を離れました。

「今日も暑いなぁ全くよぉ!」

「まぁ、夏だからね…」

 などと、言ったとてしょうも無いことをワメきながら二人並んで歩きます。

 …私たちの家はそれぞれ学校から歩いて17~18分ほど。…額の汗を拭いながら上空を見上げると、入道雲がもくもくと発達して青空の部分を圧迫しつつありました。

 学校を出て5分も経った時、上空から「ゴロゴロ…」と雷鳴の不気味な響きが聞こえて来ました。

「ありゃりゃ… !? 」

「これはちょっと、ヤバいかもな…」

 私たちは少し歩く速度を上げましたが、上を見ると青空はすでに無くなり、入道雲はいくつも重なって厚く暗く変化しています。


 二人の歩く住宅地を抜けるとちょっとした丘があり、そこを越えて行くと帰宅への近道です。…空を見上げながら木々の間の細い坂道を私たちが急ぎ足で登り始めた時。ついにポツポツと雨が落ちて来ました。

「降って来たぜ!…」

「こりゃ夕立来るな!…傘も無いし、どっか雨宿りしないとヤバいぞ!」

 そんなことを言ってる間にも、上空はどんどん暗くなり、雷鳴に続いて遠くに稲妻がピカッ! と走りました。

 …丘に登ってすぐのところにはお寺があり、そこの本堂の軒下に駆け込んで雨宿りしよう!と浅井君が言ったので、私たちは小道を駆けだしました。

 雨粒は急に大きくなり、もはやポツポツではなくボタッボタッ! と音がする落ち方になって来ました。

 上空はさらに暗くなり、まだ4時過ぎという時刻なのに夜のような雰囲気に変わってきました。

 その時、ひときわ大きな稲光りが走り、間もなく「ドォ~ン !! バリバリズシャ~ン!」と落雷音が響き渡りました。

「ひゃあ~っ !! 」

「ひい~っ !! 」

 顔をひきつらせながらお寺の本堂の軒下に駆け込むと、ザァ~ッ!と音を立てて雨がさらに激しく降って来ました。

「やっぱり来たな!…」

「駆け込み、間一髪だったね!」

 本格的に濡れる前に何とかお寺の本堂にたどり着いた私たちは、やれやれと安堵して本堂正面の五段ほどの上がり口の一番上に腰を降ろしました。

 …すでに辺りは夜のように暗く、雨は激しく、雷鳴稲妻走る中での雨宿りです。

「この夕立…どれくらい続くかなぁ?…」

「さぁねぇ…でも、通り雨じゃん?せいぜい一時間くらいじゃないか?」

 そんなことを言いながら、ひたすら夕立が過ぎるのを待つしかない状況の二人。

 その時ひときわ強い稲妻が走り、暗い世界を一瞬青白く照らしました。

 直後に、

「ドカ~ン、ガラガラズシャ~ン!! 」

 と大きな音が響き渡りました。

「わ~っ !! 」

「近くに落ちたぞ!」

 落雷にビビる二人。


 …しかし本当の恐怖は、実はすぐそばに迫っていたのです。

 私たちはまだそのことに全く気付いてはいませんでした…。



 続く




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