第13話 シトラス城②

シトラス城ー城門ー

春花達はシトラス城の城門にて兵士と交渉をしていた。春花達は王との面会を求めたが、キッパリ断られた。

理由は2つ。兵士は身分証を提示しなければ城に入れない。そしてもうひとつが、現在白内で帝国兵との会議中とのこと。

「帝国兵か。おそらくマーグレットのことだ。彼を呼んでくれ、そしたら城を案内すると約束した」

「それは困ります。いくら勇者様とて、我々も仕事です。簡単に通す訳にも行きませんし、大切な会議中です」

やはり兵士は頑なに城への侵入を許さない。

「おいどうする。このままじゃ一生城に入れないんじゃないか?」

「このままマーグレットが来てくれるのを待つしかない。1度宿を取りに街へ戻るか」

智也の迅速な提案に街へ引き返そうとした。その時、ふと城門が開かれる音がした。門兵も驚いた様子だったが、すぐに平静を取り戻した。門の中から現れたのは白く輝かしい鎧を身にまとったマーグレットだった。

「出迎えが遅くなって申し訳ない。元帝国軍のマーグレットだ」

マーグレットはシトラス城特有のお辞儀をして春花達に振舞った。

「マーグレット、会議中じゃなかったのか」

秋斗は門兵から聞いた会議中の事を尋ねた。

「あぁ、会議中は本当だよ。今後帝国とどのように渡り合い、『殺り合う』かをね。でも安心してくれ、帝国の直近の動きを知っているのは俺だ。しばらく、春花達の身の安全は保証できる。シトラスの王にも伝えてあるが、実際に会って話してもらわないと互いに信頼性がないだろう」

「それは同感だ、会議が終わるまで城内で待てないか?宿をまだとってないんだ」

智也は得意の取引で早急にマーグレットと対話する。それを見守る春花はふと視線を感じた。春花は視線を感じる方へ向くが、こちらをずっと見つめている人物はいない。気のせいだろうかと考えた刹那、秋斗の声が聞こえる。

「春花、大丈夫か。城に入るぞ」

「あ、うん。ちょっと疲れが出たのかま、けどまだ大丈夫だから安心してね。」

春花はそう言い、未だ気になる感じたそ線を注意しながら場内に入る。


シトラス城は大きくわけて4つの区画に別れた構造をしている。街に近い大門側は敵襲に備えられた戦闘用の倉庫や狙撃部屋が多く、常に兵が管理している。東側の区画は主に兵の安息場。厨房や宿がある場所だ。しかし、人数制限があり、全ての兵が利用できるわけではなかった。西側の区画は兵が訓練する場所となっており、地下には闘技場が作られている。北側は王室や会議室と上兵向けの場所となっている。

シトラス城は5階層に別れ、各兵が行き来できるくらいの広さはある。春花達はマーグレットの案内で4階の応接間で待機していた。しかし、扉の前には監視役として兵が2人設置されていた。

2人の監視兵はよそ見をしたら殺されるかのようにじっとこちらを見続けている。彼らにとって私たちは部外者で身分証もない自称勇者の子孫、信頼がないのも当然だ。

「お茶を持ってきたぞ、まずは長旅お疲れ様でした。一悶着あったと聞いたが、港街の人は大丈夫だったか」

マーグレットは3人の前にお茶の入ったコップを起きながら、どこから聞いたか分からないリガールについて尋ねた。

「死骸が街を襲っていたんです。街の人は高台の建物に避難していましたが、私たちが訪れなかったら助からなかったです。帝国は貿易街のリガールを襲う計画はあったのですか」

春花はあったことをそのままに伝え、次に質問をした。

「結論は分からない。俺が務めた部署は下っ端の方で、上層部が考えている計画は直近のものしか伝わってこない。でも、俺の記憶ではリガールへの奇襲は予定されていなかった。上層部側が何かを判断しつつ死骸を放った可能性もあるな。」

「つまり、帝国は俺たちを付け狙っている可能性を考慮に入れた方が良さそうだな。もしそれが奴らの思考内にあるとしたら、ここもそう長居は出来ないな」

「それは王と話してから決めればいい。俺を受け入れてくれるほど懐が広いんだ、何とかなるかもしれないぜ。まぁ、ここの兵には嫌われてるらしいがな」

「ここの監視兵を見ればわかる、熱い視線を感じるぜ」

監視兵は会った時の目線と変わらず、じっとこちらを見続けている。それどころか、手に持った槍らしきものをギュッと強く握りしめている。今にでも襲いかかってきそうなほどの警戒心だが、頭の中は平静を保っている。よほど自称勇者の子孫が疑わしいようだ。

「ここで睨み合っても何も解決しないです。とりあえず、王にあってからどうするかを決めましょう。帝国との戦争を少しでも抑えて、手を取り合う糸口を作らないと」

「さすが春花さんだ、帝国の身分であった俺が言うことじゃないが、あまりにも今の帝国には違和感がある」

違和感という言葉を聞いて、智也がそれについて深く聞き出そうとした刹那、突然部屋の扉が勢いよく開放された。そして、勢い余った謎のオブジェクトが春花を襲う。

「は〜る〜か〜ちゃ〜ん!」

人を模様したオブジェクトは春花に抱きつくような姿勢で飛びかかる。一斉に監視兵含むその場の男性陣は刃に手をかけるが、一瞬のうちにその場の状況を理解した。数秒も経たないうちに、平静さを取り戻した監視兵のひとりが春花を襲った者に注意を促す。

「ラクサス様……いくら自称勇者の子孫といえど客人の御前でございます。どうかお下がりください。」

「えぇ!!いいじゃん、前々から気になってたんだよね、勇者が女の子ってどんな子なのかなってさ」

ラクサス様と呼ばれた白い堅ドレスを身にまとったその女性は一向にどく気配がなく、むしろ春花としっかり密着してほっぺたをスリスリする。

「ラクサス・シトラ・アウランティス、シトラス城現国王だ、春花。付き人の稲垣智也です、事前のご連絡もなくお邪魔して申し訳ございません。」

「同じく付き人兼春花の兄の赤井秋斗です。お招きいただき光栄でございます。」

秋斗と智也は自然とシトラスの国王ラクサス様に挨拶を済ませる。

「あぁ、いいのいいの。自由に使ってゆっくりしてって〜。春花は〜?」

黄色い瞳を輝かせて、じっと春花を見つめ尋ねてくるラクサスは美貌に溢れていて、男性なら一瞬で恋に落ちてしまいそうだ。

「赤井……春花……です。どいてください」

春花は息苦しさが勝ってしまい、上に被さるラクサスにどいてくれるよう頼み込む。

「うん、いいよ。春花ちゃん充電は100パーセントになったからいくらでもお話に付き合うよ!まずどこで生まれたの?誰に育てられたの?シャンプー何使ってる?ウッヘヘ、寝る時はパジャマ着ない派?デュフフ」

男性一同論点がズレまくったラクサスの質問に呆れ通している。

「悪いな、ここの王様は百合なんだよ。だから、正直期待しないでくれ」

「あぁ、そうしよう」

何もフォローになっていないマーグレットの言葉を聞いたのか、ラクサスはスっと背を伸ばして改めてこちらに顔を向ける。そして、ドレスの裾を掴み、脚をクロスされお辞儀をする。

「我が白く輝きし青薔薇が咲きほこるシトラス城へようこそおいでくださいました。我が名はラクサス・シトラ・アウランティス、シトラスの国を収める女王です。御足労のなかお待ちいただき申し訳ございません。玉座へご案内致します」

ラクサスは丁寧な案内で北側4階の客室からから5階の玉座の間に移動した。玉座の間は長方形の様に奥に広く構築されており、西洋の世界に引きずり込まれたかのようだった。床には赤い絨毯が敷かれ、天井には豪華なシャンデリアが吊るされている。壁には彫刻がなされていて、より貴族感を漂わせている。

案内をしたラクサスはそのまま王の座に腰掛けて一列に並んだ春花たちを眺める。そして、マーグレットの方に顔を向けて口を開く。

「帝国の者よ、あなたのわかる範囲でもう一度帝国の詳細を教えていただきまして?」

マーグレットは待ってましたかのように綺麗なお辞儀をして一歩前へ出る。

「帝国は全大陸を手中に収め、世界に死骸や腐魔を蔓延らせて混沌を放つ。そして勇者の末裔である瑞島槙侍の抹殺、及び現在の標的は子孫である赤井春花殿であります。現在は軍事力工場のため帝国領の拡大を行い、腐魔開発研究所の展開をすること。今この時もひとつひとつ強固で強力な腐魔が作られています。アテムの町で初めて春花殿とお会いしたときに腐魔と一戦交えましたが、既に殺人兵器とも言えるでしょう。そして、港町であるリガールにて死骸の群れが街を襲っていたと春花殿にきお伺い致しました。帝国とリガールは貿易関係にある為、奇襲を行うことはありませんが、恐らく帝国最下兵には知られていない今後の奇襲予定が存在する可能性もあります。」

「ご苦労、では帝国が今我が城へ襲いに来てもおかしくない、そうおっしゃいたいのですね」

しばらくの沈黙の後マーグレットは答える。帝国の本質を知らないマーグレットの言葉は説得力もなく照明の仕様がないもの。それでもラクサスは真摯に受け止め何やら考え事をしている。

「いいでしょう、我々も訓練だけで満足している場合ではありませんね。帝国の思惑が如何程のものかを世界に知らせる必要もある。人間に害をなす生命体、死骸や腐魔が地球上に蔓延したら、それこそ帝国の思うつぼ。期待していますよ、マーグレット」

「はっ!!」マーグレットは高らかに声を上げ部屋中を響き渡せる。

「では勇者の子孫、赤井春花。そしてその一行は我が白薔薇騎士団の騎士団長に任命します」

「……え?」

春花は想定外の言葉を言われて思わず声が出てしまった。

「あの、騎士団を従えということですか」

「そうよ、実戦は春花ちゃんの方が積んでると思うし我が騎士団に良い影響が出るかもしれない。帝国に勝つためにはあなたの助力が必要よ」

春花は驚いたかのように顔を蒼白に染めている。しかし、秋斗と智也は俄然やる気を見せている。

「仰せの通りに、無事に白薔薇騎士団に力添えができるよう精進致します」と智也が放ち一礼する。

「必ず成果が出るよう騎士団への成長に貢献致します」秋斗も一言添えて一礼する。

一方春花は騎士団長という名誉な立場を言い渡されて少しばかり戸惑っている。

「ラクサス様……お恥ずかしい限りですが……人を従えたことがないゆえ……」

春花はしどろもどろながら精一杯に言葉を伝えるが、ラクサスは満面の笑みだった。

「春花ちゃんの教えなら騎士団の雄共もきっと喜ぶと思うわ!あたしなら喜んで従っちゃう!靴も舐めちゃうし毎朝キスで起こしたげるわ!」

「いえ、結構ですので頑張らせてもらいます」

ラクサスの派手なスキンシップを素早く拒否して、春花は再び前を向く。

「しかし、騎士団長と言っても何をやればよろしいのでしょうか」

春花達は常日頃魔物や死骸との戦っているが、戦わない日もある。しかし、騎士団は日々練習を積み重ねているため実力はある。

「我国の騎士団は実践がほぼないから、いざ帝国と殺り合う時に戦う経験がないと生かせないじゃない。それは春花ちゃん達が一番経験しているところ。敵の出方も瞬時に把握して次の行動を決めているでしょ?」

「要するに、実践の心得を騎士団の兵たちに教え込むってことだ。人を従えたことがない春花には難しいが、頑張れ」

秋斗と智也はやる気が十分あるようで楽しそうに告げるが、春花にとっては至難の業だった。今までほとんど二人に任せっきりにしていたため、人との関わり方が分からない。

春花は幸先が重く感じて、思いっきり肩を下げる。

「じゃあ、明日から騎士団のことよろしくね。あと、城内は自由に行き来していいから、自由に使ってねん!」

相変わらずラクサスは脳天気なテンションで春花達に伝える。ここでの生活は自由と言っていた分、その代価として騎士団の訓練なのだろう。自信はないが、春花なりの意地を見せようと決心した。ラクサスからの期待に応えるため、帝国と戦うために。

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