第6話 封じられし社①

アテムの町で一夜を過ごそうと春花達は宿を取っていたが、帝国の襲撃により難を逃れたが、住民が春花立ちを追い出したのはつい先程の話だ。空中艦隊に現れた巨大な腐魔を退けるべく、帝国兵のマーグレットの協力のもと倒すことが出来た。マーグレットのそのままリガールの港町からシトラス城へ向かうと言っていた。

いずれ春花達も立ち寄る場所だが、元大天空城の司書でアテムの町で情報屋を経営していたミューズが言っていた封じられし社へ行くために、朝を待っている。

現在春花達がいるのは、アテムの町から見ないに離れた開けた標だ。焚き火をともして灯りを確保し、食べ損なったご飯を食べる。しかし、先程多くの死を目の当たりにし、死なせたこともあってか食は進まない。

「思うところは多いが.......今は食べてくれ。」

春花達を追い出し、ひどい言葉を述べた住民に対して苛立っていた秋斗は冷静を取り戻しそう言う。しかし、春花も智也も返事はせず箸は動かない。

「.......人の死なんて今に始まったことじゃねえ。それに、俺らは英雄の子孫だ。それを背負って旅するって誰が言ったよ。」

「..............わたし」

春花は掠れた声で答える。あまりの冷たい声に秋斗は驚くが続けて言う。

「この中で一番辛いのは智也だ、身内であるミューズを目の前で亡くしたんだ。心無い言葉なんか比じゃねえ。」

「.......秋斗。.......できれば、言わないで欲しかったんだが。」

「それでもだ。ミューズの情報を持って社に行くんだろ!覚悟が必要だって、言ってたじゃねえか!それを今ここで台無しにするのか!ミューズの死も、マリアちゃんの死も!」

「おい、最後のは誰だ!」

「ん?帝国魔道兵のマリアちゃんだ、俺が殺った。」

「それはいらないが、彼女の死だけでなく帝国の人間の死も、無駄にしたくないんだな。」

「そういうことだ、俺らが生きているのは運でもない。行かされたんだ、彼らに。」

「わかった、ありがとうな、秋斗。」

「まあな。」

智也は吹っ切れたようでご飯を進める。

「けど.......あたしたちが産まれなかったら、帝国は存在しなかったんじゃないの。」

「帝国は俺らが産まれる前から誕生した。親父が旅に出ていようが出てまいが関係ねえ。」

「そうだといいな.......」

「だから、力蓄えるために飯食え!」

秋斗は大きな手で春花の頭を激しく撫でる。

「落ち込んでいる場を和ませるのは得意だな、相変わらず。」

「それは春花も智也もそうだろ。和ませ合って旅してきたじゃねえか。」

「まあな、僕は現実を突きつけてしまうがな。」

「それも立派な励ましだよ。さ、楽しくご飯を食べよう!」

暗い顔から少し笑顔がみれるようになった春花と智也は箸を動かす。こういう時のムードメーカーは非常に重要な役割を担っているとつくづく思う秋斗だった。





翌朝、照りつける太陽の中目を覚ました春花は、昨日の疲れがまだ残っているのか重い体を起こす。

「おはよう!春花」

「おはよう、お兄ちゃん。」

既に起きていた秋斗は斧を研石で研いでいた。

「昨日はすぐ寝ちまったからメンテナンスしてんだ。春花のレイピアと槍も鋭くしておいたぜ。」

「ありがとう。」

武器の修理や調整はいつも秋斗がやっている。智也の杖は直接攻撃しないし、銃も智也自信でやるが、剣や斧といったものは研がないと切れ味が落ちるし、血がべっとり付いたまま放置すると錆び付いてしまうため、メンテナンスは欠かさない。

秋斗は太陽の光が反射するほどの斧を掲げて満足気の笑顔をする。

「今日は社に行くんだよな?」

「うん、加護を受けるとか。」

「また死骸の相手だな。頑張るぞ!」

「うん。」

秋斗は張り切って武器の手入れを再開する。

「朝からうるさいぞ!寝させてくれ。」

「もう起きる時間だよ。置いてくよ?」

「おはようございます!」

春花はちょっと意地悪っぽく言うと、焦ったのか智也は飛び上がって起き上がった。

「おはよ。」

「おはよう春花、秋斗。」

「おう、おはよう智也!」

朝から気持ちのいい挨拶ができるのは気分も良くなる。春花は立ち上がって朝食の準備をする。まだパンが残っているため、焚き火後に再び日を起こして肉を焼く。セト村に行く前に残ったテリヤキソースを取りだし肉に味付けする。焼けたらパンの上に3人分乗せて4分割する。セト村で調達したレタスの葉を水で濯いで肉の上に2枚ほど乗っけて完成。朝の胃にあまり入らない時に気軽に食べられる朝食だ。

「気が利くな、ありがとう春花。」

「気持ちのいい朝はこれがいいの。」

気持ちよく起きれた時は必ずこの料理を食べるのが春花の癖で、春花がこれを作る時は絶好調100%の時だ。昨日の春花が嘘みたいな笑顔で答える。

武器の手入れも終わった秋斗も肉が乗っかったパンを加える。それに釣られて春花も智也も食する。

「美味いな!」「美味しい。」「( ͡ ͜ ͡ )」

春花の無言の笑顔は出来栄えに満足という証拠だ。

「おい智也、今日の春花は一味違うぞ。」

「これは期待できそうだ。」

秋斗と智也は小さな声で話し合う。大抵無言の笑顔で食べている時は、自分の世界に入り込んで周りの音さえも遮断してしまうほど朝を集中している。その光景を見ているだけで秋斗と智也は救われる唯一の癒しタイムだ。

「やっぱり女の子は笑顔が一番似合うな!」

「秋斗ほどではないが気持ちがわかるよ。」

「春花に手出したらただじゃおかねえからな!」

「なんでキレるんだよ!シスコンか!」

「妹を思わない兄は人間じゃねえ!」

「うん、どっかで聞いたことあるからやめような」

秋斗の春花思いは帝国の驚異を少しでも和らげるためのものかもしれないが、結婚させないつもりなのか。

「うるさいんだけど.......」

昨日よりさらに冷たい声が春花から発せられ秋斗と智也は青ざめる。春花の方へ視線を向けると、鋭い眼光で睨まれていた。

「「すいませんでした.......」」

謝罪するとさっきまでの笑顔に戻ることはもちろん知っている。既に春花はにっこりと笑ってご飯を楽しんでいる。





1時間後、テントや荷物を片付けて再び旅に出る準備をする。念の為ここで人が活動したことを残さないためきれいさっぱり元通りにする。

「既に居場所がバレているが、一応証拠は全て消すぞ。」

影縫いの標でかつて言った智也の言葉だ。過ごした時間は少ないが、こうして旅の目的地が明確にあるのは良い事だ。智也もいつも以上に張り切っているようだ。

「よし、近くにアブラヤの森があるんだが、そこの奥に古ぼけた社があるらしい。」

「あそこに見える大きな森だよね?」

春花は丘の奥にひっそりと存在する木々に向かって指を指す。

「あぁ、恐らくあそこだ。地形変動で地図がないからな、こういう時に困る。」

MESSENGER第一世紀の大規模な地形変動で日本中の地形が大きく変わり、かつて存在していた地図では役に立たなかった。今では魔物や死骸が存在するためか地図を作る技術がまるでない。衛生も既に消失したのか、それ以前に衛生のデータを受け取る技術が滅んだと本に書いてあった。少なくとも日本の技術は数千年前のような世界だった。

春花達は標を後にして目の前にある丘を登り出す。

「そういえばマーグレットはリガールへ向かったんだよな?」

ふと思いついたかのように秋斗が尋ねる。

「ああ、シトラス城の傭兵として志願して帝国と戦うそうだ。ある程度帝国を詮索していたみたいで、情報をシトラス城に渡すんだろうな。」

「よくやるな、最初は腰抜かしてたのにな。」

「あれとはもう戦いたくない、トラウマになる。」

「シトラス城に行けばまた会えるかな?」

「僕達もシトラス城へは足を踏み入れる。そこで帝国とわたりあえるように交渉はするつもりだ。そこの兵になれば会えるだろう。」

「元気だといいな。」

「昨日の今日だ。大丈夫だろう。」

シトラス城がどんな場所かはわからないが、今後のことを少し話す。その時、丘の上を登りきり、広大な森が見えた。

「迷いそうだね。」

「奇遇だな、同じことを考えていた。」

「動物や魔物に気をつけろよ。」

注意を促しつつ、それぞれ森に入る。目指すは、森の中心にあるであろう封じられし社。そこには黄金竜の大いなる恵みがあり、その加護を受けるという目的があった。ミューズ曰く帝国と殺り合うより過酷な道だと言う。

春花達は動物が目を覚まさないように、なるべく音を立てずに歩く。森にはリスや兎と小動物が沢山いた。

「食料になるんだがな、惜しい。」

「探す時にはいないのにな、帰る時にいたら殺ろう。」

近辺に町や村がない時は狩猟で3食を済ませる春花達にとって、獲物を探すのは命取りだ。兎は特に栄養が高いようで探す時はさっきを感じるのか、中々姿を表さないが、今は隣に来て可愛らしくこちらを見つめる。

森には道がなく、まさに道無き道を歩いている。足場には落ち葉が散乱しており、虫系統の魔物がいれば探索所ではなくなる。

「けど、魔物らしい魔物はいないな。」

「隙間から太陽の光が差し込んでいるけど、外と比べて暗いはずなんだが、死骸もいない。」

「何があるかわからねえ、集中切らすなよ。」

慎重に森の中へと進んでいく。しかし、依然として魔物は現れることなく、春花達は森の最深部へと近づく。森はなびく風にあたってガサガサと木々が揺れ、隙間から照らされる僅かな太陽の光が心地良さを醸し出している。

「おい、あの白い建物じゃないか?」

秋斗が指を指した方向に、白をベースにコーティングされた神社が1つ建っていた。大きさはさほど大きくはないが、所々にある石の柱や気で作られた縁側や扉が日本の歴史の雰囲気を漂わせる。

「ここまで無事に来れたのは魔物が一体も出なかったことだが......」

「悩んでも仕方ないさ、行こうぜ。」

魔物がでないという不可解な現象に違和感を感じる智也を引っ張る秋斗は、社の入口へと歩く。春花も後ろ姿を追って付いて行く。

社の扉は何故か開いていた。普通の社にある建物はしっかり施錠されているのだが、この社は春花達を歓迎するかのように全開だった。

「怪しいな......」

「中も暗いね。」

「行ってみて、やばかったらー帰るで行こ?」

「智也怖いのか?」

「命の危険もある。かもしれない」

「加護はどうするの?」

「その話って本当に存在するのか?」

「僕も、疑っているんだが。」

「あはは、だよね......」

中から漂う雰囲気に不安を拭いきれない3人だが、現にミューズが言っていた社はあったのだ。そっと、春花は社の方へ歩み出す。帝国と戦う覚悟をしたのだから。

春花が木で作られた階段に足を置くと、ギシギシと響く音が鳴る。少しずつ縁側の方へ登ると、扉の先が良く見えてくる。部屋の中に地下へと続く階段が1つあった。春花は後ろへ振り向き、安全だと言うように秋斗達に頷く。

「本当に大丈夫だろうな。」

「うん、何も無いよ。階段があるだけ。」

「普通神を称える物があるんだが。」

「下に何があるのかもわからないね。」

「行ってみようぜ、先に黄金竜ってのがいるかもだぜ。」

春花達は扉をくぐり社の中へはいる。真っ白な部屋の中は階段以外何も無く、殺風景な空間だった。春花がそのまま階段を降りようとした刹那、扉が勢い良く閉まり出した。

「おい!この社閉じ込めやがった。」

「だから怪しいって言ったんじゃないか。」

「けどミューズの言っていた社はあっただろ!怖いのか?」

「震えてるぞ、秋斗も。」

春花は2人のみっともないやり取りに呆れる。扉が閉まったのは驚いたが、それは中に進めということだと理解して階段を降りる。

「「流石春花、強い。」」

秋斗達もオドオドしながら階段を降りたのだった。

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