第4話 アテムの町③
アテムの町で一夜を過ごそうよした時、帝国の奇襲により春花達は帝国兵と戦闘を繰り広げる。
現在銃声が1番聞える街の南側に向かって走っている春花達は既に体力の半分を消費している。
「朝にセト村で1戦してそのままアテムまで移動をしてミューズと話をしてそのまま夜の営みだもんな、そりゃ疲れるわ。」
「言葉に語弊があるが、疲労が溜まっているのは認める。現に僕の魔力も残りわずかだ。」
「その分俺が斧で援護する。」
「秋斗は普段から減食して体力すり減っているだろ。春花、まだ戦えそうか?」
「うん、まだ大丈夫だよ。」
そう、智也がいくら魔法を使っても魔力の限界がある。ミューズは大天空城の司書だけあって戦闘能力はや魔力量は智也の10倍はある。そして秋斗は普段から智也と春花に食料を分けていたため、体力も底をつきそうだ。
「いたぞ!例の旅人だ!」
「どいて!」
急に現れた帝国剣士2人に対してレイピアを突いた春花と続いて秋斗が斧を振りかざした。悲鳴をあげながら倒れる帝国剣士を気にせずに南側を目指す。
しかし、道を塞ぐかのように死骸の群れが襲いかかる。死骸・ジャドが20体とゼリー状のヘドロの塊をした死骸・マシュマリウムが5体いた。
「マシュマリウムは僕に任せて!アルファイア!」
智也が透かさずマシュマリウムに向けてアルファイアを3回詠唱する。しかし、相手は5体いるため全てを倒すことは出来ない。さらに、威力が足らずに倒しきれなかったマシュマリウムが2体いた。
「すまない、一体しか倒せなかった。」
「大丈夫だ、そのまま後ろから援護してくれ!」
「わかった!」
智也はそう言われて杖を左腰にしまい、右腰からショットガンを取りだし、倒しきれなかったマシュマリウムに向けて発砲する。
撃たれたマシュマリウムはそれでもこちらに襲いかかろうとするが。
「悪いな、僕の弾丸は一味違うぜ。」
智也がそう言った瞬間、マシュマリウムの体内から不思議と大爆発を引き起こした。
智也は魔力があるうちは魔法で戦い、いざ魔力が無くなった時には銃で戦う戦法だ。それに加え、弾丸には爆薬、毒、麻痺毒、睡眠薬、散弾式、増加弾等様々な効果を付与した特殊な弾丸となっている。
マシュマリウムは全身がゼリー状で剣や斧で斬ってもすぐに合体して元通りになるため、燃やす以外に撃退方法がない。しかし、智也の爆薬式弾丸は発砲されて時間経過とともに弾丸内にある爆薬が着火し大爆発を引こす弾丸のため、魔力が無くともマシュマリウムは敵ではないのだ。
一方、マシュマリウムは智也に任せた春花と秋斗はジャド20体の相手をしていた。春花は多少の風魔法は使えるが、智也程の魔力がないため乱発は出来ない。しかし、複数固まった敵のためにレイピアではなく槍に持ち替えて薙ぎ払いを習得していた。
春花が放つ薙ぎ払いで前方にいるジャドは3体ほど灰になる。続いて秋斗が縦横斬撃を繰り出し、五体のジャドに切り掛る。腕や足、頭を切り裂いて灰にする。
「おい、あそこの草むらにも死骸がいるぞ!」
「こっちからは帝国兵がいる!」
秋斗の指さした前方に、パクトに似た死骸・シャークが3体、ずっとこちらの様子を伺っている。対して、春花の背からは帝国魔道兵が3人と帝国銃兵が3人、帝国剣士が5人が攻めてくる。
「ちっくしょ、まず帝国兵からだ。智也!死骸は後だ!」
マシュマリウムと交戦を続けている智也は、秋斗の指示でマシュマリウムから帝国銃兵にターゲットを切りかえた。
「今度は散弾式だ。行くぞ!」
発砲音が5回聞こえ、帝国銃兵の内2人にヒットしてそのまま倒れる。そして、体中で弾丸が暴れているのか、倒れた兵士の体が疼いている。
一気に2人がやられたことに驚いたのか、帝国兵の動きに戸惑いが見られた。その隙に智也は弾丸を切りかえて、増加弾をセットし、2回発砲する。
増加弾は発泡した瞬間、1発の弾丸が5発撃っているかのように増加する弾丸だ。
10発になった弾丸は帝国兵にヒットする。その間に、春花が左手にレイピアを、右手に槍を抱えて帝国剣士に切りかかる。
帝国魔道兵はさらに後ろでアルファイアを放とうとしている。しかし、その後ろに秋斗が回り込んでいた。
「きゃっ!」
「おお!!かなりべっぴんさんじゃねえか!惜しいけど来世でな。」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああ!」
帝国魔道兵は通常深くフードを被っていて性別がわからないが、秋斗が最初に襲った帝国魔道兵は美人の女性だったらしい。惜しい顔をしながら斧で腹を裂く。
「貴様よくもマリアを!!」
仲間が殺られて怒りが込み上げたもう1人の帝国魔道兵が秋斗に襲いかかる刹那、再び発砲音が聞こえ、帝国魔道兵の動きが無くなりその場で倒れた。
「悪いな、智也。」
「礼はいらない、きっと恋人か幼なじみとかだろうな。」
「.......。」
智也の考察に秋斗は申し訳なくなってしまう。きっと、彼等にも家族がいるはずだし、今みたいに大切な人がいると思うと、やはり人と殺り合うのは間違ってると考えさせられる。
「秋斗!まだ帝国兵がいる!美人の魔道兵よりぐちゃぐちゃの死骸を頼む!」
「悲しみに耽っている俺に死骸相手にさせんのかよ!?」
智也のボケに秋斗がツッコミを入れ攻め寄ってくる死骸に斧を振りかざして対抗する。智也は再び爆薬弾に切りかえてマシュマリウムと戦っている。
残るはジャドが17体と新たに現れたシャーク3体だが、春花がレイピアをしまい、槍で薙ぎ払いを繰り出す。しかし、先程3体も仲間が殺られたため、ジャドは一斉に空中に跳躍して回避する。
「うざい!ウィング!」
1体でも少なくしたい死骸の群れに風魔法を詠唱するが、ウィングは下位魔法で攻撃範囲が狭く威力も弱い。そのため、ウィングに被弾したのはジャド1体だけで灰にすらならなかった。
しかし、秋斗が春花の後ろから大きく跳躍し、ウィングに被弾したジャド目掛けて斧を振りかざす。だが、そのジャドは空中で体勢を整えて斧を避けた。
「しつこい!」
すると、春花は避けた後の位置を先読みしてレイピアでジャドの胸元を貫いた。1体にかけた時間はおよそ2分。やっと17体中1体を灰にした。
戦闘において時間の消費は命取りだ。たった今ジャドという死骸にかけた時間は2分、これは春花の薙ぎ払いや智也の中位魔法でとっくに終わっている戦闘だ。しかし、途中のシャークと帝国兵の乱入や智也の魔力切れ、春花の攻撃が読まれたことによって、戦闘が長引いている。つまり、このジャド16体とシャーク3体の戦闘で精一杯だということ。それでも、意地を張って1体倒せたのはまだ勝利の道筋がある。
「おい!大丈夫か!」
智也がマシュマリウムの戦闘から戻ってきた。直接の物理攻撃が効かないマシュマリウムに銃で戦った智也は爆薬弾を切りかえた。
「増加弾か、行けるか?」
「わからない、この数だ。だが、試したいこともあったんだ。」
すると、智也は銃をジャド達目掛けて構える。そして、引き金を引いて乾いた音が聞こえるとともに、1発の弾丸が5発に増え、ジャドの数体に当たる。普段の春花と秋斗ならばここで追撃をするが、その前に中で被弾したジャドの体が大きく爆発を引き起こした。
「え、今のは?」
「聞いて驚け!僕の効果弾はひとつしか付与出来なかったが、僕の魔力で予め二重効果(ダブルエンハンス)弾を作っておいたのだ!」
通常銃を扱う者はよく、銃や弾丸のメンテナンスを行う。その作業も含めて銃を改造する者がいる。智也もその1人だ。効果をつけるには魔法の効果で付与させることはあるが、予め弾丸に効果付与をする者は少数だ。しかし、智也のずば抜けた銃への才能で二重効果弾の作製に成功した。
「ぶっつけ本番だけど、成功だな。見ろ、ジャドの群れが燃え広がってるぜ。」
「ありがとう!あとは空を自由に飛んでるシャークだな。」
ジャドは複数に固まっていたため、4カ所で爆発した威力で萌えていた。そのため、ジャドは瞬く間に灰になる。つまり、いずれ死ぬ。
残すはシャーク3体だが、パクトの形態と同様、翼を用いたその体は空を優雅に飛んでいた。
「僕が二重効果弾で上空から引きずり落とす。当たれば良いが、落ちても生きていたら後始末はよろしく!」
「わかった、けど外すなよ!」
「僕を誰だと思っている!」
智也は弾丸を切り替えて上空にいるシャーク目掛けて発砲する。
「今度は死骸専用に作ったプレゼントだ。二重効果・ホーリーレイ!」
智也が放った3発の弾丸から白く輝いた光がシャークに向かって飛ぶ。そのままシャーク1体に被弾した矢先に灰になる。残りの2発はシャークの頭上で大きく爆発し、辺り一面光が空を包んだ。
「これは!?」
「死骸に弱い光を凝縮した閃光と爆薬を織り交ぜだ二重効果だ。」
死骸の強みは薄暗い場所で力強い攻撃と強固な体つきだが、死骸には光という弱点がある。それが体内にあれば、瞬く間に灰になる。その弱点を利用した閃光と当たらなかった時の悪足掻きとして、光を爆発させて、少しでも光を体に浴びせることによって弱らせて追撃をするということだ。
多くの強い光を浴びたシャークは飛行を維持できなくなり急降下する。
シャークが落ちてくる位置に春花と秋斗は走り、武器を構える。
「一閃突き!」
「ライトブレイカー!」
槍と斧がそれぞれ輝き出して、シャークを切りつけ灰にする。一閃突きとライトブレイカーは死骸対策用の技だ。
無事全ての死骸を倒し、壁に体をあずける春花達はしばらく息を整えていた。
「ここまで死骸と連戦したのは初めてじゃないか?」
「ああ、途中帝国兵もいて厄介だった。ひとつ気になるのは、腐魔がまだ出てきていないことだ。」
「腐魔か、いやもうこのまま帝国帰ってくれねえか?」
腐魔は人間の死体と死骸を合成させたより強力な兵器だ。その強さは死骸を超えると言われているが、帝国がいれば腐魔が襲ってきてもおかしくはない。
「いずれにせよ、腐魔が出ようが出まいが僕達の体力はもうない。」
「だな、あとは住民の避難誘導か。」
「だが、帝国が帰る様子はない。恐らく、この戦力は空中艦隊で来たはずだ。帰るにせよすぐ気づくだろう。」
「来た時は気づかなかったがな。」
今だ、建物の影から大きな機械の影が見える。
「あれをやれば、帝国の戦力が大幅に軽減できるんだがな。」
「無茶言え!俺ら瀕死状態だぞ!」
「けど、今後のことを考えれば!」
ずっと息を整えて智也と秋斗のやり取りを聞いてた春花がやっと口を開く。
「僕の銃だけで帝国船は野暮じゃない。それに、帰れなくなった帝国兵は躊躇なく僕らを殺しにかかる。今は帰るのを待つしかない。」
空中艦隊が機能しなくなり、帰る手段がない帝国兵は街の崩壊か降伏の意を表明するだろう。しかし、帝国の考えは読めないため、待つを選択した。
しかし、空中艦隊が停泊しているところから非常に強い振動が街を襲う。
「今度はなんだよ!」
「腐魔だ!でかいのが来るぞ!」
「ともや〜!さっきフラグ立てたから出ちまったじゃねえか!」
「帝国は元々腐魔を出すつもりだよ、自然発生しないからな!行くぞ!」
智也の掛け声と共に、未だ姿を現さない腐魔に向かって走る。
帝国兵が既に空中艦隊の外に出ていて武器をそれぞれ構えている。春花達にではなく、空中艦隊に向けて。
春花達は違和感のある帝国兵の後ろに立つ。
「お前らは避難していろ!ここは僕達に任せて!」
「君達は!指名手配犯!」
「いいから言うことを聞け!死にたいのか!」
智也が帝国兵に怒鳴り散らす。抵抗しようと剣を上にあげた途端、空中艦隊から非常に強い魔力が反応した。
すると、ワープしたのか空中艦隊からではなく、春花達の前に大きく爆発した。しばらくすると大きな体があらわになった。赤紫色の鱗を身にまとって、至る所に深緑色の線が伸びている。目は紫色に輝き、口から蒸気のようなものが発生している。体付きはこの世のものとは思えないほどの醜さで、どこで鍛えたかわからない筋肉まで発達している。人間かのようにも見えるが、それはまさにエイリアンのようだ。
膨大な魔力に圧倒される中、帝国兵は青ざめて腰を抜かしている。
「おいおいおいおいおいおい!こんなのと戦うのかよ!」
「一体、何なのこれ!」
「人間と死骸の融合体、これほどまでとは.......」
春花達は呆然と立ち尽くすだけだった。だが、体力もそこを尽きている春花達は必死に戦闘態勢に入る。
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