第3話 アテムの町②

アテムの街で情報屋ミューズから帝国の現状と光の勇者について話を聞き、夜を明かそうと宿に泊まった春花達はそれぞれ割り当てたベットで横になる。ちょうど秋斗がシャワーに入っていて、軽快な鼻歌が聞こえてくる。

「ミューズが言っていた社には僕が案内しよう、幼い頃よくあそこで遊んでいたし地形は知っている。」

「ありがとう、よろしくね」

次の目的地であるリガールの港町に行く手前、外れにある森の中にミューズが教えてくれた社に立ち寄る流れだ。

智也は社の中は入ったことは無いが、社までは案内できる。ミューズが言うには、社の中は準備をしっかりしていかないと返り討ちにされるらしい。それに、社といえど暗闇のため死骸や腐魔がいる可能性もある。準備を怠るつもりは毛頭ないと言った感じで、智也が張り切って道のりを説明する。

しばらく明日移行について話し合っていたら、秋斗がシャワーから出てきた。

「野宿もいいけどやっぱり体の汗を落とすのは気持ちがいいな。」

「安全かつ安心できるからな。今後の節約次第で宿の泊まる量は増えるかもな。」

「頑張って魔物倒していかなきゃね。」

3人で安心して宿に泊まれるのは何ヶ月ぶりか。次はいつ微笑ましく安心して寝れるかはわからない。今日という特別な日を大切にしたいと春花はそう思う。

「けど、妙に外がうるさくないか?」

「外で酔っぱらいが荒れているんだろ。放っておけ。」

しかし、人と人が争うような騒ぎではなかった。まるでなにかに脅え逃げる言うな声まで聞こえる。智也が窓の方へ移り、外の様子を見る。

「おい、戦闘用意しろ!帝国軍だ!」

「なんだと!こんな夜に。」

「夜だからだ。死骸を味方にしつつ腐魔を放出する気だ。既に街の西側が燃え盛っている。空中艦隊がいる可能性もある。まずは一般人の避難からだ!」

智也がそう指揮し、春花達は一斉に宿屋の外に出る。

「くっそ、もうこんなところに帝国兵が!」

春花達が外に出た瞬間、待ち構えていたのは帝国剣士が5人と帝国魔道兵が3人だ。

春花達はそれぞれ武器を手にし帝国兵に襲いかかる。

春花はレイピアを構え、前にいる帝国剣士2人と剣を交える。当然それだけでは倒れてくれるはずもなく、後ろに構えていた帝国兵士が追撃をする!

「―ッ!」

春花が舌打ちをしながらバックステップをして追撃を回避する。それと同時に攻撃が避けられ硬直している帝国剣士に、春花の後ろから大きな斧を振り下げる。

「調子はどうだい帝国ちゃんよっと!!」

「ぐあああああああああ」

切られた体からは赤い血が飛び出てくる。どうやら、帝国兵の多くは人間のようだ。

「くそっ、人間もいるのか。殺りづらいが、君たちには死んでもらう。アルファイア!」

相手が人間だとわかっても攻撃の手を緩めない智也は中くらいの炎の塊を帝国魔道兵にぶつける。しかし、帝国魔道兵はそれぞれマブリアを発動して智也のアルファイアを防ぐ。

マブリアはバブリアと同様に魔法の攻撃を防ぐ障壁だ。

マブリアを解除して次に攻撃魔法を詠唱する帝国魔道兵の後ろには、疾風のごとく鋭い剣先が帝国魔道兵の胸を貫く。

「ごめん、けど遅い。」

秋斗が帝国剣士の囮になっている間に、春花は帝国魔道兵の後ろを取っていた。そして、そのまま春花は後ろの帝国剣士に、智也は秋斗が戦っている前の帝国剣士に魔法で襲う。

春花がレイピアを構え突進するが、後ろのサポートがないことに気づいて後ろを振り向く帝国剣士と剣を交える。力量は互角、互いの剣が弾ける。しかし、突くことが主目的のレイピアは弾いた時の硬直が唯一のチャンスだ。春花はそのまま右腕を伸ばして鎧の隙間にレイピアを貫く。続けて春花は風魔法のウィングを帝国剣士の顔にぶつける。

「ぐあああ、こんちくーーーーしょう」

「貴様、いつの間に!?」

後ろの争いに気づいた残りの帝国剣士が春花に気づく、しかし、智也のアルファイアの追撃で1人が丸焦げになり倒れる。

「数で押し切ろうとした時点で負けだ、諦めなよっと!」

秋斗は次々と斧を振りかざして、剣で防御する帝国剣士を上から下に、右から左にぶった切る。

残り2人、春花と智也は少し距離を離れ、アルファイアとウィングを同時に詠唱し帝国剣士にぶつける。そして、春花はそのまま走り出して飛躍した同時に、レイピアを縦横無尽に切りかかる。

残り1人。秋斗が続け様に斧で襲いかかる。

「調子に乗るなよガキィ!」

しかし、剣で隙をついて秋斗の腹横をかすめる。

「誰がガキじゃあ!俺はまだ18だぁぁぁぁぁぁぁ!!」そう叫びつつ斧を右上斜めから左下斜めに向かって切りつける。

「ガキじゃねえか!」

これで帝国兵の1戦は終わり。

「お疲れ様、けどまだ帝国兵がいる。気を緩めるなよ。」

「なぁ、智也。俺の戦ってる説明だけ雑じゃなかったか?」

「知るかアホ。」

春花と智也はそのまま町の中央地に向かって走り抜ける。

「ア゙ア゙ア゙ア゙置いてかないで!ちゃんと戦うからちゃんと説明して!」







1戦を終えて町の中央部に本を片手に魔法を繰り出して死骸の相手をしている男がいた。

「ミューズ!?」

「おぉ!お主らか、手を貸してくれ!」

「近距離は任せて!サポートをお願いします。」

「頼もしいのぉ、よろしく。」

情報屋のミューズが魔物を駆使しながら、攻め込んでくる市街の相手をしていた。

周りには鋭い長い爪を持った猿のようで肉が腐っている死骸・ギルヴァルドが5体、小さなからだで細かく小さな牙を持った死骸・ジャドが10体いる。

まず襲ってくる死骸・ギルヴァルド2体がミューズに突進してくる。

「ふぉふぉふぉ、元気じゃな。ドスファイア!!」

ミューズは両手にそれぞれアルファイアより3回りくらい大きい火炎を作り出し、ギルヴァルドに放つ。ギルヴァルドの方は一体は跳躍するも避けきれずに足だけが灰になる。もう一体は左にステップをしてそのまま突進を続行する。

「賢いがまだじゃ、ドスアイス!!」

今度は両手を前に突き出し、2つの氷の槍を作り出し、ギルヴァルドの胸に目掛けて放つ。

1つは爪で壊すも、もうひとつの槍が左肩に刺さった。

「いまだ!サンダー!!」

智也が遠方より雷属性の魔法で支援する。天から小さな雷がドスアイス目掛けてぶち当たり爆発を引き起こした。見事ギルヴァルドは黒い粒子となって消え去った。

「まだ油断はするな、ドスファイア!」

先程足だけ失い地に伏せているギルヴァルドにトドメを指した。

さらに、後ろに控えていたギルヴァルド3体とジャド10体が一斉に突進してきた。

「まじかよ、全員で来やがった!」

5体以上の固まった魔物を一斉に攻撃する手段はない。突っ込めば鋭い爪や牙の餌食になり、まとめて倒そうと後退して魔法で挑めば生き残った奴らに襲われる。答えは1つ。

「一気に行くぞ、ドスファイア!!」

「アルファイア!」

ミューズは再び両手でドスファイアをダブル詠唱をし、智也は杖先からアルファイアを放つ。放った先に大きな爆発を引き起こした。しかし、前にいたギルヴァルド3体が壁になったため、ジャドが8体生き残った。

「行くぞ、春花ぁ!縦横斬撃!!」

「はぁっ!百連突貫!」

秋斗は大きな斧を横や縦やに振り回してジャドに切りつける。春花は後方から素早く正体を現し、レイピアを疾風のごとくジャドに突く。

無事に死骸の駆除を終えミューズと合流する。

「助かったわい、いきなり帝国が襲いかかってきてな。」

「住民の避難をしたいが、帝国兵と死骸でそれどころじゃないんだ。」

「今は帝国兵をなんとかしないといかん。先に戦うぞ。」

「住民は非難させなくていいのですか!?」

「何を言う!勇者の末裔がいると知られたら住民の避難以前の問題じゃ。」

「春花!ここで勇者の子孫が死んだら世界はどうなる!帝国兵を先に殺るぞ!」

「ッ!わかった...」

住民の避難より帝国との戦いを優先を強いられた紅井兄妹は、腑に落ちない気持ちで街中を走り続ける。

帝国の狙いは住民の腐魔化と土地の拡大。それともうひとつ、智也は理解していた。どうして私達と一緒に旅をするのか、それは帝国の狙いは瑞島槙侍の子である私たちの抹消。そのために外では身を隠していたのに、何故そんな重要なことを忘れていたのか。本当は今すぐ街を抜け出して安全地帯へ行くべきなのだろうが、それでも帝国と戦って街を救うことは最低でも行えると智也とミューズは判断したからだ。つまり、春花の良心からなる我儘だ。それを聞かずに智也が宿屋で指揮したのは、春花の気持ちを察していたからなのだろう。

春花は改めて気を引き締めてレイピアを強く握る。

建物の一角に差し掛かり町の上層部をつなぐ橋にたどり着く。その瞬間。


パァン!


と空気が震えるほどの音が鳴り響いた。瞬間春花と智也と秋斗は建物の影に身を潜める。しかし、ミューズだけが、その場から動こうよしない。

「ミューズ!?」

智也が叫んだ瞬間、ミューズはそのまま後ろに倒れた。弾丸が頭を貫き、血がドバドバと流れている。ミューズは即死した。

「帝国め、昔使用されていた銃を所持していたか。」

「これじゃ近接戦は無理だよ。」

「僕も中位魔法しか使えない。」

万事休す、人間を容易く死へ糾う銃は、いくら旅を続けている人間には無力だ。

「無駄な抵抗はやめろ。ここはいずれ我が帝国の支配下となるのだ、今降参すれば命だけは許そう。」

帝国兵の指揮官だろうか、大きな声でそう宣言する。しかし、一向に銃を収める気配はない、つまり、降参しても殺すつもりなのだろう。

「僕が囮になって注意を引く。その隙に春花が懐に入ってやってくれ。やりそびれたやつは秋斗が裏に回って首を取ってくれ。」

智也の指示にすぐに秋斗が忍び足で動き出す。そして、智也がダッシュで広場の方に姿を現す。

「アルファイア!」

智也が杖先に炎を出現させて、橋の上にいる帝国銃兵目掛けて放つ。それに対して帝国銃兵はライフルを乱射して智也を殺しにかかる。刹那、後ろに構えていた春花が智也を右に倒して突進する。そして、大きく跳躍し、真ん中の帝国銃兵の胸にレイピアを貫かせる。そのまま右側の兵の方や腹にレイピアを突く。そして、後ろからは秋斗が斧を振りかざし、春花の攻撃に気を取られている兵を切りかかる。

「貴様いつの間に!くそ、アルファイア!」

「遅い!」

秋斗の出現に驚いて魔法を詠唱するも、既に右側の兵を殺り終えた春花が、指揮官らしき者の首にレイピアをくれてやる。

「ぐあっ、貴様ら......タダで済むと......思うなよ......」

そう言い残して、兵は倒れた。

「参ったな、今回の帝国兵は腐魔がいない。完全に人間主体の軍勢だ。」

「もう人間だろうが腐魔だろうが帝国は帝国だ。襲ってくるなら殺るしかない。既に住民が殺られたんだ、しかも目の前でだ!」

「「!?」」

そう、既に身内のミューズを亡くしている。急に知人がしかも今日知り合ったばかりの者が銃で撃たれて死んだのだ。情けは自分の身を殺すのと同じだ。

「こちらも殺す勢いじゃないと逆に殺される。わかったら、そのまま帝国兵と死骸の駆除を続けるぞ。」

「わかった......」

現実を突きつけられても秋斗は逃げることをせず智也の指示に従う。けれど、春花はまだ人を殺すことに戸惑いを抱えている。このままでは秋斗と智也に迷惑をかける。頭で理解はしていても体が躊躇する。

「おい、行くぞ春花。」

秋斗が方を叩いて先の道を促す。春花は小さく頷いて1歩、また1歩と歩く。

まだ周囲は悲鳴をあげながら逃げ惑う声や銃声までも聞こえる。春花は深呼吸をして、秋斗達の元へ走る。早く助けたいと心の中で呟きながら。

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