第15話

帰りのHRの際、合宿の詳細が担任の口から語られる。


「合宿についてだが、まだ予定段階ではあり、確定していないようだが…1~3日目までは基礎的な技術に関する訓練を予定している。そして、4日目の午前を準備期間とし、4日目の午後から1~3年生までで学年混合チームを組んで模擬戦を行う予定となっている。日程は前後する可能性はあるが…チームによる模擬戦を最後に行うことは確定とのようだ。」

「このチーム戦、だが…各学年で5~6名ほどのグループを組んでもらい、合宿中の成績に応じて1~3年までから1グループごと選び、3グループを1チームとする。このチーム同士または現役の軍人などと模擬戦を行う、という方針のようだ。模擬戦は演習場内に造られた市街地フィールドで行う予定らしい。ここまでが現在決まっていることらしい。何故ここまで決まっていないのかについてだが…軍内で急遽決定したことのようで現在詰めているそうだ。何か質問は?」


答えられるかわからんが、と言いつつも質問を聞く筒井。亨は質問しようと手を挙げる。


「ほぉ…」


亨が手を挙げたことに対し目を見張り、驚く様子を見せる。


「…俺が質問することがおかしいでしょうか?」

「いや…前任からあまり目立ちたがらない、という引継ぎがあったからな。申し訳ない。それで、質問はなんだろうか?」


一応、小島が行ったように起立して質問を始める。


「では…質問を…。グループ決めは任意でしょうか?また、任意であるならいつからグループ決めスタートでしょうか?」

「確かに気になる質問かもな…まず、グループ決めは任意だ。そして、グループの申請開始は1週間後だ。おそらく男女混合のグループでも男子だけ、女子だけでも構わない。これでいいか?」

「はい、ありがとうございます。」


着席しようと椅子を引いた亨に、そういえば、と筒井が続ける。


「これが終わったら私のところへ来い。少し用事がある。」

「…俺ですか?分かりました。」

「よろしい。では、他に質問は?…なさそうだな。あ、一応これを配る。ご父兄に対しての手紙だ。必ず手渡すよう。」


プリントがクラス中に行き渡ったことを確認した筒井はHRを解散した。

HRが解散したので、亨は担任の下へ向かう。


「何か御用でしょうか、筒井先生。」

「ああ、ついてきてくれ。」


そのように亨に命じた筒井は、教室を後にする。筒井に続く亨。この状況は悪いことをして職員室へ連行されているようにも見えなくはない。何人かの生徒に怪訝な顔をされたり、軽く噂をされるがそこまで亨は気にしていなかった。しかし、筒井はそう割り切れなかったようで、


「…誤解を招くようなことをしてすまない」


と道中しきりに謝って来るのであった。


「ここだ。」

「ここ…ですか?」


筒井が示した扉は、教頭室と書いてあった。懐疑的になる亨。


『今すぐ攻勢を仕掛けてきた、というわけではないだろう。もし、俺を消すのであれば、筒井先生を使うはずがない。何が目的だ…?』


目的が分からなく軽く混乱する亨。そうとは知らず筒井は純粋に疑問に思っていることを亨にぶつける。


「有川、君は教頭と知り合いなのか?」

「…え?はい、何でしょうか?」


考えている最中であったため、突然の質問に対応ができない亨。流石の亨も敵意や殺意にはいつ晒されても対応できる自信はあるものの、そうでない場合の対応は人並みの反応速度に落ちる。


「いや、教頭が君を名指しで呼ぶように言われたのでな…つい、教頭と知り合いなのかと思ってな?」


筒井は亨の反応を、対応ができなかったのではなく、なぜそんなことを聞くのかという疑問に思ったのだろうと捉えた。


「あ、ああ。なるほど。まあ、知り合いといえば知合いです…何度か会っただけですけどね。」

「そうか…まあいい。扉の前だし待たせてしまうのもまずいか…じゃあ、私はこれで失礼するよ。ノックから先は君一人でいいと言われているし、仕事も溜まっているのでね。」


そう言い残した筒井は職員室の方へ踵を返したのだった。


「ふぅ~」


亨はため息をつく。なぜなら、筒井は気付かなかったようではあるが、室内には倉崎のほかにもう一人、面倒な相手、倉崎からすると来客、がいることに感づいていたのだ。内心では入りたくない、と亨は感じているのだが、迷っている暇はないと判断し、扉をノックした。


「はい、どなた?」

「1年5…4組の有川亨です。」

「…ええ、入っていいわよ?」

「失礼します。」


扉を少し開け、体を滑らせるように入室する亨。その行動を見て、もうひとりの来客が鼻で笑う。


「フッ…そんなことをしなくても…私に気づくものはそういないよ。現に筒井先生だったか…彼女も気付いていなかった。」


君は気付いていたようだけどね、そうこぼしながらワインを飲む男。そう有山尊である。


「まさか、初日から教頭の下へ来るとは…」

「まあ、実の子の力を見たいじゃないか。もっと言えば、有栖院の次世代で魔術院や櫻雄などの魔術学校へ進学しているものは限られているからね…彼らの昔を知っている身としては、成長を見たいと思うのが親心、というものだろうね。」


何とも実の子の命を狙っているのに身勝手な理屈を並べる男である。しかし、身勝手な理屈をどこ吹く風と流す亨。その様子を横目で見た尊は、かわいげがないな、と肩をすくめる。一連の親子の対面を見届けた倉崎は亨に席を勧め、亨もそれに逆らわず座る。


「さて、本題です。在原夏樹は休学届を提出されていますが…何か理由を知っていますか?」

「なぜ俺に訊くんですか?」

「亨君、君が有栖院の者でそして在原家が有力な一家というのも俺と倉崎は知っている。だから君に訊いた。」


この言い草に今度は亨が肩をすくめる番だった。


「休学届には事由の欄もあるのでは?」

「ああ、そこには魔力欠乏症候群の遅発症例だと書いてある。まあ、あんな馬鹿げた魔術障壁を特級の攻性魔術に正面からぶつけたんじゃ、本当の可能性もなくはないが…」

「では、それが理由なのでは?」

「…そうか。なら、そういうことにしておこう。」


素直に引き下がる尊。横の倉崎も頷く。本心を言えば、二人とも信じてはいないが、聞かなくてもよいと判断したのだ。この件を切り上げ、次の話題へと移る倉崎。


「次に…合宿について、我々は木原魔術大将の派閥の基地指令が管理する場所にする予定です。」

「…そんなこと俺に言ってもいいのですか?」

「構いませんよ。おそらく変更になると思いますから。」

「…?」


妙に確信めいたことを言う倉崎を不審に思う亨。


『まさか…有山魔術元帥と対立する木原魔術大将を蹴落とすための策か…?』


内心で軍内の派閥争いの果てかと想像する亨だったが…


「亨君、君は木原魔術大将を失脚させようとしているのでは、と考えているようだが…それがメインではないよ。」


尊によって読まれた挙句否定されたのであった。

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