第14話

朝のHRが始まる。入ってきたのは女性の先生であった。


「みんな、久しぶりだな、と言いたいところだが、4組に改めて昇級した人間もいるようだな。まあ、彼らには休み時間に各々聞いてもらうとして、私は筒井玲於奈だ。よろしく頼む。」


そういって、亨たちの方を見て軽く頭を下げる。顔を上げた後、一同を見回した。


「さて、もう少し自己紹介をしたいところではあるのだが、HRの時間は限られている…本日は少し予定に変更がある。昼休みだが、講堂に全員で移動しなければならない。緊急集会が行われる予定となっている。なので、4時限目終了後直ちに移動を開始するので、忘れないように。いいな?」

「「「はい」」」


学生全員が頷くか返事をし、肯定の意を示す。筒井は軽く頷きながら、


「なにか、質問は?」


と生徒に質問が無いかの確認をする。すると、一人の女子学生が手を挙げる。


「ん、なんだ、小島?」


指名された小島と呼ばれる女子学生が起立する。容姿はキリっとしている、きつめな美人だろうか。ただ、亨はこの小島という女子学生が他の4組の学生たちをまとめているような感じがした。


「はい。筒井先生、昼休みの集会は何のための集会でしょうか?」


皆が当然疑問に思っているであろうことを質問する小島。筒井は当然の質問だなと頷き、質問に対し答える。


「何でも、校長と教頭が挨拶をしたい、とのことだ。それといくつかのカリキュラムの変更点があるようでな…直近の変更点について目の前で話したい、ということだそうだ。小島、これでいいか?」

「先生、ありがとうございます。その変更、というのは…?」

「これは緊急集会で学生一同同時に伝える方針である。答えてやりたいのはやまやまなのだが…すまんな、小島。他にはあるか?」


申し訳なさそうにする筒井に、とんでもないです、と体全体を使って表現する小島。4組の他の学生たちに質問がないことを確認した筒井は、よしと頷き、


「ないなら、これで解散だ。また昼休みに来る。」


そう言い残して去っていった。


昼休みになり、講堂に集められた全学生。飲食は構わない、ということなので多くの学生が昼食を持ち込んでいる。すると、壇上に二つの人影が現れる。そのうちの一つは亨もよく知る倉崎茜魔術大将。もう一つの影は、年齢が50くらいであろうか、顔に全く特徴がない紳士然とした男である。その男が、壇上のマイクで話そうとすると、キーンとハウリングの音がし、学生の喧騒がやむ。


「失礼しました。この度は皆さんの時間をお借りしてしまい申し訳ない。無駄話はいつの時代も嫌われる。だから、早速本題に入りましょうか。」


言葉を切ると隣の倉崎に同意を求めるように目を向ける。倉崎はその言葉に同意するように首を小さくたてに振る。


「では…学生諸君、私は毛利重彦といいます。この度校長として赴任させていただきました。よろしくお願いします。そして…」


隣の倉崎にマイクを譲る毛利。倉崎は一礼しつつマイクの前に進み出る。


「初めまして、皆さん。この度、国防正規軍魔術部隊から教頭に赴任させていただきました、倉崎茜、といいます。国防軍からの出向という形です。よろしくお願いいたします。」


深く礼をし、校長の毛利にまたマイクを譲ると、毛利が進み出る。


「さて、この度、緊急集会を開いた理由だが…我々の挨拶というのが一つ。これは終わったな。さて、もう一つの方だ。こちらが本題なのだが…」


ここで一度言葉を切る毛利。会場を見渡すと言葉を続ける。


「先日のテロ事件で学生に被害が出たことを大変無念に思う。彼らに対しては冥福を祈ること、それしか我々にはできない。しかし、君たちにはどうだろうか…我々教育者は君たちに自分自身を守れるだけの力を与えることができるのではないか?そう私は思っている。だからこそ、カリキュラムを少しばかり変更する、ということとなった。」


ざわっと、学生たちの中でさざめきたつ。そのさざめきは動揺なのだろうか、はたまた他の感情なのだろうか。しかし、毛利はさざめき自体をマイクなしでねじ伏せるだけの声量で言葉を投げかける。


「魔術師として、生きていく以上、闘争を完全に避けることはほぼ不可能に近いと言っていいだろう。なら、私たち教員に何ができるのか…それは君たち学生が自らの身を守れる力を授けることだけだ。より正確には、逃げる、ということも含む。戦って勝つ、なんてことはしなくてもいい。でも、生きるための術を学ぶ必要がある。そう私は確信している。」


壇上でこぶしを握り、力説する毛利。


「だが、戦う術だけをまなばせるつもりはない。強すぎる武力は時として邪魔となることもある。要はバランスが大事なのだ。そこで、だ。君たちには、実戦以外のことも学んでもらわなければならない。それは普段の学校生活で身に着けていってもらおうと思う。では、実戦をどうするのか…そのために倉崎教頭がいるわけだ。」


毛利がバトンを渡すと、バトンを受け取った倉崎が前に出て口を開いた。


「今から約1か月後の6月14日より約1週間、国防正規軍の施設を使い、合宿を行うこととなった。詳細は追って通達するが、おそらく場所は富士周辺の演習場になるだろう。カリキュラム変更後の実戦では、普段のカリキュラムに加え、年に1度か2度強化期間を設けることとなっている。これは残念ながら上からの命令なので変更はできない。不安に思う者もいるだろうが、安全面に十分に配慮できるよう私が取り計らう。以上だ。」


倉崎は自分の言うべきことを言うとさっさとマイクから離れる。空白となったマイクの前に再度毛利が立ち、


「ということだ。では、緊急集会を解散しようと思う。質問があるものは、解散後、檀上に来て個別に質問するように。」


と閉会を宣言すると、生徒たちは席を立ち、講堂を後にする者や質問するために壇上へ向かう者などに分かれたのであった。

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